第27話 NWPエンジン

 情報部での打ち合わせが終わるとケンは以前この星で泊まった情報部の近くにあるホテルにチェックインをする。一方情報部からは会議終了後に直ちに造船所に対して新しいNWPエンジンをアイリス2に装着する指示が飛び彼らは早速作業を開始した。


 ケンはほぼ毎日造船所に出向いては作業を見てエンジン設置作業以外に機体内部の変更を進めていった。具体的にはソフィアが使っている2部屋についてその間を仕切っている壁の一部を取り除いて2つの部屋をいちいち廊下に出ずに行き来できる様にし、准将や外交部の副部長が乗るということで客室の1つを潰し、他の客室を広くした。また客室の1つを会議室にしてそこにはPCやモニターを設置した。


 食料、水などの手当はソフィアが担当し、毎日の様に機体に積み込まれていく。


「やっぱり美味しい食事を食べたいし、ケンもコーヒーをいつでも飲みたいでしょ?」


「そうだな。そっち関係はソフィアに任せるので好きにやってくれ。シエラのコーヒーが美味しいっていうのはソフィアに勧められて初めて知ったよ。今じゃ手放せないよ」


 整備に入って2週間が経ったころ、ケンが造船所に顔を出すと職員がケンを機体の中に案内して1階にあるエンジンルームにつれていった。


「NWPエンジンの設置が終わりました。ご覧になってお分かりの様に新しいエンジンはそれぞれ外側にカモフラージュを被せていますから万が一誰か船内に入ったとしても外から見てわからない様になっています」


 職員の説明を聞きながらじっくりと2つのエンジンを見るケン。新しいNWP対応エンジンは確かに見た限りは普通のエンジンにしか見えない。その仕上がりに満足したケン。エンジンから顔を上げて造船所の職員を見ると、


「試験飛行はいつごろから可能かな?」


「あと1週間もあれば全ての整備が完了するのでそれ以降であればいつでも」


「ありがとう」



 ソフィアは食料や水の買い出し以外に頻繁に情報部に顔を出して主にアンドリュー中佐、そして情報部の中にある情報分析セクションの担当者達を相手にアイリス2に乗ってからの自身の行動の報告と立ち寄った星の情勢について説明をしていた。時にスコット大佐もその会議に参加してきた。


「ロデス星についてはさらに諜報部員の数を増やそう。ソフィアが撮影してくれたこの独立派のポスターに写っている人物以外に独立派についてもさらに調査を進めていく」


 アンドリュー中佐が言った。これで独立派についてはシエラ情報部の厳しい監視がつきファジャルとの接点を探していくことになる。


「今のところはロデスだけだがそれ以外の星についても政党の動きについては注意を払う様にしよう。第二、第三のロデスが出ないとも限らないからな」


「ロデスは政治的にはクリーンではありません。今は与党や少数の野党の所属議員でもお金で独立派に転ぶ議員が出る可能性もあります」


「その通りだ」


 ソフィアの言葉に頷く中佐。


「そしてケンからは政権転覆を狙う場合には労働者のサボタージュが発端になるケースもあるのでロデスやそれ以外星でそういう動きがあるかどうかを見ておくと良いだろうとのアドバイスもありました」


「労働者のストライキやサボタージュが頻発し始めると要注意ってことか。裏で誰かが扇動している可能性があるってことだな」


 なるほどと頷きながら中佐が言った。


「ケンってのは本当にただの運送屋なんですか?」


 中佐とソフィアのやりとりを黙って聞いていた情報分析部の部員が半分驚愕、半分感嘆した口調で言った。


「彼はうちの下手な諜報部員よりもずっと優秀だよ。仕事で自分が騙されない様に、生き残る為にあらゆる情報を手に入れて自分なりに分析する。そして常に裏を取ろうとする。彼がシエラ情報部の諜報員だとしたらおそらく上位に位置するだろう」


 たまたま会議に出席していたスコット大佐が言った言葉にその場でそれは言い過ぎでしょうという声は誰からも出なかった。


「政情不安は自分の仕事に影響が出る。だから情報は常に集めているんだとケンは言ってましたよ」


 ソフィアの言葉に納得する情報分析部の担当者達。


「ブルックス星系内における諜報部員の増員については私から准将に話をしておこう。外の世界を見る目と聞く耳は多ければ多いほどよいからな」


 そうして大佐はソフィアに


「引き続きアイリス2に乗り込んでケンと一緒に活動をしてくれ」


「わかりました。ケンとの関係も良好ですし、何より私自身があちこちの星に行けて楽しんでますから」


「結構だ。ただし楽しみすぎて仕事を忘れられてはこっちが困るからそこだけは気をつけてくれよな」


 大佐が笑いながら言った。



 ケンは今日も造船所に来ていた。シエラの星のホテルの部屋にいてもすることがなく、元々買い物は好きじゃない彼は造船所で自分の船を見ている方がホテルの部屋にいるよりもずっと落ち着いていられた。


「アイリス、調子はどうだい?」


 アイリス2に乗り込んでオペレーションルームに入ると声をかける。


『はい。AIのシステムをアップデートしていただきましたので今までより10%程情報処理速度が速くなりました』


「そりゃ助かるな」


『それと全ての機器もアップデートされており新しいエンジンとのデーターもリンク済みですので機体の整備が終わればいつでも出港可能な状態です』


「わかった。整備が終わると試験飛行をする。新しいエンジンに慣れて、癖も掴まないとな」


『了解しました。楽しみです』


「俺もだよ」


 それから9日後、周囲から隠されたデッキ内で全ての整備と点検が終わり新しいエンジンを積んだアイリス2にケンとソフィアが乗り込んでいった。

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