第26話 同盟

「太陽系?太陽系連邦政府のエリアに向かうのですか?」


「その通り。君だから話すが我が国、シエラは太陽系連邦政府と内密で話を進めていたのだ。そしてある程度話が詰まってきたので最後のまとめを顔を突き合わせてやることになったのだ」


「…太陽系連邦政府と手を組むってことか」


 独り言の様に呟いたケン。


「そういうことだ」


 と黙っていたシュバイツ准将が言った。この話はソフィアも初めて聞くらしくびっくりした表情をしている。


 スコット大佐によると大統領以下シエラ政府はいつまでもこの銀河のブルックス系で孤高の立場を続けていられるとは考えておらず、同じブルックス系の中で自分達と組むに値する相手を探していたらしい。


 ただシエラが相手に求めるハードルは高くお互いにウィンウィンの関係になれる様な星系はなかなか見つからなかった。ブルックス系の中にはパートナーになり得る惑星がいないと半ば諦めていたらしい。


 そんな時にブルックス系に隣接している太陽系連邦政府からコンタクトがあった。彼らも生き残るために協力関係を築くことができる相手を探しているとの事で組まないかと秘密裏にもちかけてきたのだという。



「太陽系はブルックス系の隣に位置している。隣と言っても距離は相当離れているがな。彼らは自主独立を掲げているが星系の規模は銀河系の中で最も小さい。今は他の星系から直接の干渉は受けていないらしいが将来もそうだという保証はない。現に太陽系の隣にあるロデス系の中にあるエシクという星が太陽系を狙っているという噂が絶えないらしい。一方で我々シエラはご存知の通りトレオン系のファジャルが隣にいる。お互いにそう遠くない場所に潜在的な敵が存在しているということだ」


 ケンは黙って大佐の話を聞いている。


「太陽系はその星系の規模は確かに小さいがその軍事力は侮れない。自分達の星系を守るために強力な武器や艦隊を建造し配備しているというのはこの銀河系での評価だ。戦闘部隊の質も高い。ただ電子機器関連の能力が武器や艦隊の能力に比べてやや低いということでシエラに対して戦闘武器の製造技術と電子技術のバーター取引を申し入れてきた」


「なるほど。お互いの足りないところを補完しあおうということか」


 スコット大佐はその通りだと言って話を続ける。


「我々にとっても太陽系の提案は渡りに船だった。かと言ってすぐに会議のテーブルに乗ることはせずに我々の情報網を使って太陽系連邦政府の政治体制の安定度や今回の提案の本気度などについて様々な角度から調査をし分析を行った。その結果彼らとパートナーシップを組むことに問題ないという結論になって政府に提案して大統領府から了解を取りつけたんだよ」


「そしてやりとりが始まり、お互いに顔を突き合わせて話を進めようということになったんですね」


 ケンはそう言ってテーブルの向かい側に座っている3人が頷いたのを見ると、


「話は理解しました。ただし問題があります。ここから太陽系まではかなり遠い。ワープを使ったとしても半年程の道のり、いやひょっとしたらそれ以上になるかもしれない。それなら今の様な高速通信でやりとりをした方がずっと早いんじゃないんですか?あるいは博士の基地にあったあの輸送船を使えば良い。あれにはNWPエンジンが積んでありますし」


「ケンの指摘は尤もだよ。ただ我々は全てを通信でやりとりして完結したいとは思っていない。これはあちらさんも同じ様だ。顔を突き合わせて話すことが信頼関係をより深めるとお互いに思っているのでね。これは単なる情報収集ではない。星と星との同盟関係を締結する話だ。どこかのタイミングでお互いに会う必要がある。そして移動手段いついてだが確かに博士の基地にあった飛行艇はNWPエンジンがある。ただあれはシエラ所属の船として登録している。シエラの船が太陽系に行ったということがどこかで漏れるとせっかくここまでやりとりをしてきたことが全て水の泡になってしまう可能性があるんだよ」


 ケンの言葉にスコット大佐がそう答えると黙っていたシュバイツ准将がおもむろに口を開いた。


「会うことについては太陽系の連邦政府も同じ考えだ。ことは秘密裏に進めたい。ただ進めるにしても一度会って腹を割って話し合いしましょうと言っている。だから会うことにした。とは言っても距離が遠いのは間違いがない。そして博士の船はシエラ星所属になっている。従ってシエラ政府はアイリス2にNWPエンジンを設置することを了承した」


「なんだって?」


 流石にケンもびっくりして声を上げる。口調も普段の口調になっていたがそれすら気づかない程だった。


「いいんですか?あれは最大級の機密事項でしょう?」


 ケンを見つめたまま准将が続けた。


「ケンの仕事ぶり、人間性については全く問題がないという結論が出ている。大統領もケンのアイリス2なら問題ないだろうと仰っている。それと、今回の2星間での同盟の締結は全てを秘密裏に行い、締結後も外部には一切発表しない。我々がシエラ星の機体で太陽系に移動するとそれだけで何かあると推測される恐れがある。その点リンツ星所属になっているケンの機体なら我々の行動もバレない」


「なるほど。シエラ情報部のトップが小口運送屋の機体に乗っているとは誰も思わない。そして小口運送屋なら星系を越えて移動しても不審がられないってことか…」


「その通りだよ」


 ケンの呟きに准将が答えた。准将は最初にアンと紹介した女性に顔を向けると


「彼女はシエラ政府外交部所属だ。若いが政府から今回の交渉を一任されている」


 そう言うとアンと呼ばれた女性が椅子から立ち上がった。


「ご挨拶が遅れました。今シュバイツ准将が仰った通り私はアンと言います。所属はシエラ連邦政府外交部副部長です」


 この若さで副部長か、相当出来るな。


「ケン・ヤナギ。出身は地球。職業は小口の運送屋です」


 ケンも立って自己紹介して答えると、


「ケンの活躍は情報部のみならず外交部でも話題になっていますよ。あちこちの星で貴重な情報を次々と集めてはシエラ星に流してくれているって」


「流してるのは全てソフィアですよ。自分はあちこち立ち寄った星で立ち話をしてるだけですね」


 ケンは椅子に座り直すと視線をアンから准将に戻して言った。


「今回自分が定期整備でこの星に寄ったのはいいタイミングだったってことになるんですね」


「その通り。お互いに会いましょうとなったがどうやって移動するのか悩んでいたところに君がこの星に来るという情報が飛び込んできた。まさにちょうど良いタイミングだったよ」


 准将に続いて大佐が


「太陽系連邦政府との会談場所は決まっている。太陽系の端にある海王星の外側にある連邦政府の秘密基地で行うことになった。我々は既に地球連邦政府に対してシエラ星を出て現地に向かっていると連絡済みだ」


 いくら相手が友好的でもいきなりNWPを披露する訳にはいかないだろう。既に向かっているという連絡は当然だ。


「それで会談の日は今から何日後になっているんです?」


「3ヶ月後だ。君の機体にNWPエンジンを装着する時間は十分にある。そして新しいエンジンに慣れる時間もね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る