第25話 次の仕事
『ワープアウトまで5分です』
「ワープアウトしてから到着までは?」
『4時間と25分です』
「ありがとう」
5分後、ほとんど振動もなくワープアウトしたアイリス2。ワープアウト地点は既にシエラ星の勢力圏内だった。
「アイリス、シエラ港湾部と繋いでくれ」
すぐにアイリスから繋がりましたと声が来てモニターに以前も担当だった港湾部の職員の顔が出てきた。
「久しぶりだな、ケン」
「半年ちょっとぶりかな。今回は配達じゃなくてこの船のメンテで寄らせてもらうんだよ」
ケンが言うとモニターの向こうで担当者が頷き、
「そう聞いている。造船所からも連絡が来ている。今から造船所の座標を送るから直接そこに向かってくれ」
「ありがとう。感謝する」
通信が切れるとすぐにアイリスが座標を受け取り、進路をインプットしたとの声が聞こえてきた。
ケンはソフィアに顔を向けると
「かなり根回しが良いな」
「そうね。私はこの星の到着時間を連絡しただけだけど」
「先を読んで手を打てるってのは組織としてしっかり機能している証拠だよ」
「ケンはシエラに着いたらそのままこの前のホテルに向かうの?」
「そうしたい所だが恐らくそうはならないだろう」
「どうして?」
「造船所に着岸するとそこにソフィアの部署の人たちが待っていて本部に連れていかれるって流れじゃないの?ホテルはその後だろうな」
ケンの読み通りだ。ソフィアに来ている情報部からの通信文では造船所に情報部のアンドリュー中佐が来ておりそのままケンとソフィアは情報本部に出向くことになるという内容のメッセージだった。
「ケンはそれでいいの?」
ケンの顔を覗き込む様にしてソフィアが聞いた。
「全然構わない。別にシエラの人が嫌いじゃないしな。運送屋として協力できるところはするつもりだよ。なんと言ってもこの船をもらってるからね」
そう言って笑う。
アイリス2はそのままシエラ第3惑星に向かい成層圏を抜けると首都郊外にある造船所に向けて下降していった。
『逆噴射エンジン作動しました』
機体に軽く逆Gがかかりゆっくりと降下をしていき。
『着岸しました』
その声で2人はシートベルトを外す。
「アイリスもアップデートしてもらっておいてくれよ」
『そうします。シエラを楽しんでください』
その声を聞きながら乗務員扉を開けて地上に降りるとそこにはアンドリュー中佐以下情報部のメンバーが数名待機していた。ケンの予想通りだ。
「ケン、ソフィア、久しぶり」
アンドリューを筆頭に出迎えの人たちと握手を交わすと
「長旅で疲れているところ申し訳ないがこのまま情報本部に来てもらえないだろうか」
「構わないですよ」
あっさりというケン。ケンらはそのまま情報部の車で首都にある情報本部に向かう。
「新しい船の調子はどうだい?」
エアカーの中で隣に座っている中佐が聞いてきた。ソフィアは助手席に座っている。
「快適ですね。エンジンが良いので給油をしなく済むのは助かります。おかげで以前の機体では無理だった距離の配達もできる様になって稼げる様になりましたよ」
ケンの言葉にそりゃよかったと頷く中佐。その後は差し障りのない世間話をしているとケンらが乗っている車は情報本部のビルの地下に入っていった。
地下の駐車場からエレベーターに乗り込んで降りた場所はケンが博士のチップを渡した情報本部の地下の本部センターだった。
「ケン、久しぶり。ソフィアも元気そうじゃないか」
エレベーターを降りたところにシュバイツ准将が立っており声をかけてくるとケンの隣にいたソフィアが条件反射の様に敬礼をしてしまい准将にまだやってるのかと揶揄われて顔を赤くする。准将の隣には准将と同じ迷彩服を着ている女性が立っていた。
ケンとソフィア、そしてシュバイツ准将、スコット大佐、アンドリュー中佐らがそこにいた女性についてフロアの奥にある会議室に入る。中に入ると30代後半に見えるスーツ姿の女性が立っていて一行を出迎える。
「彼女はアンという。あとで紹介するが情報部の人間ではない。一緒に会議に参加してもらう」
准将が短く言うと頭を下げるアン。
迷彩服の女性が部屋にあったサーバーで人数分のコーヒーを作って各自の前に置いてから部屋を出ていった。ケンはスーツ姿の女性に視線を向ける。
全員が着席すると准将が口を開いた。
「長旅で疲れているだろうし早速始めよう。スコット、頼む」
指名されたスコット大佐がわかりましたと答えると、テーブルを挟んで向かいに座っているケンとソフィアを見る。
「ケンは既に知っていると思うが、アイリス2であちこちの惑星を仕事で訪問しているがその星の情報は逐一ソフィアから報告をうけている」
その言葉に驚いた表情もせずに頷くケン。
「正直ケンの情報収集能力の高さとその方法に驚いている。我々もこの世界で生き残っていくために諜報部員をあちこちに派遣して情報を収集しているが基本はデーターを集めて報告するのが仕事だ。だが君は違った。アナログというのか人との会話を楽しみそこから断片的に情報を集めて組み立てていっている。データにでない情報の中に貴重な情報があるってことに改めて気付かされたよ。今ここ情報部では全諜報部員に情報の収集方法の多様化の指示を出している」
「そこまで大したことをしているという自覚はないんですけどね。自分が生き残るために情報を集めているだけですし。他に頼る人がいないと自然とそうなると思いますよ」
大佐の言葉に答えるケン。隣で准将が大きく頷いていた。
「それで今回は船を購入して半年経ったから定期点検での寄港だと聞いているが?」
「その通りです。新しい船、アイリス2は航続距離が長い。この星を出てからほとんど働き詰めでした。半年経ったし一度しっかりと整備をした方が良い時期だろうと思って」
「点検が終わった後の予定は決まってるのかい?」
「いや、まだです。ドックで整備中に次の仕事を探すつもりですよ」
「であれば次の仕事は我々シエラ情報部が君に発注したい」
ケンの言葉にスコット大佐が間髪を入れずに言った。
それを聞いたケンの右の眉が吊り上がる。どういうことだ?という表情になるケン。
「ただしここから運ぶのは荷物じゃない。人間だ」
「人間?」
「そうだ。情報部のシュバイツ准将、私、そしてここにいるアンの3名を運んでもらいたい」
「行き先は?」
ケンが聞くと、間を置いて大佐が言った。
「太陽系だ」
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