第24話 ロデス星2

 ケンとソフィアは荷下ろしが済んだ後部ハッチを閉じるとアイリスに後を頼んで船から降りてエアタクシーでダウンタウンに向かった。


 街の中はあちらこちらに選挙のポスターが貼り付けてある。その中の独立派のグループのポスターを写真に記録していくソフィア。


「候補者の数は多いわね」


「それだけ買収されている奴が多いってことだろうな」


 ダウンタウンのショッピングモールに入ってみた2人。レンの腕に自分の手を絡めて歩くソフィア。どう見てもカップルといった体であちこちの店を覗きこんでは商品を手に取って店員と話をする。まぁ実際に2人はカップルなのだが。


「選挙の時ってお店もお休みになるの?」


「あんた達は他の星からきたのかい?そうだね前日と当日は休日で店も開けちゃいけないんだよ」


「そうなんだ。大変だね」


 ソフィアがそう言うと我が意を得たりとばかりに店の女主人が、


「本当にその通りだよ。結果なんて選挙やる前から決まってるのにさ店を閉めろって。こっちは2日も閉めたら商売あがったりだよ」


 と一気に捲し立ててきた。


「やる前から決まってるんだ」


「そうだよ。なんだかんだ言ったって私も含めてだけどさ、この星の住民は今の政府のやりかたで満足してる。そりゃ上を見たらキリがないけどさ、でも連邦から独立しましょうなんて言ってる奴の話なんて誰も聞きゃあしないよ」


「独立?」


 ソフィアが今初めて聞いたという風で聞いた。ケンは隣で黙ってやりとりを聞いている。


「何でも連邦から独立しましょうなんて言ってる政党があるんだよ。この前の選挙で私らを騙してさ、無所属ですって言って当選したらそいつらが集まって独立党みたいなのを立ち上げて、まぁびっくりしたよ。みんな言ってるよ、ありゃ詐欺だって」


 その後違うモールに言って話をしても同じだった。住民の多くは今の政治体制に満足しており、そして独立党の連中を詐欺師の集団だと決めつけていた。


 2人は買い物をしてそのまま夕食を外で済ませるとダウンタウンからアイリス2に戻ってきた。


「とりあえず向こう3年は大丈夫そうね」


「そうなるな。明日は別の場所に行ってみるか」


 アイリス2で夜を明かした2人は翌日再びエアタクシーで街に向かい、昨日とは違う場所をウロウロしながら情報を集めてまわった。


 どこに行っても独立派を良く言う人はおらず、少なくとも一般市民にはブルックス系からの独立というのは受け入れられていないと言うことがわかった。


 この日は機体に積み込む食料や水を購入し、夕食を外で済ませてアイリス2に戻ってきた2人。メインルームの奥のキッチンテーブルでコーヒーを飲みながら、


「ここにはシエラ星の大使館とかはあるのか?」


 その言葉に首を振るソフィア。


「この星にはないわ。というかシエラ星政府はブルック星系のどの星にも大使館等の出先機関を置いていないの」


 そう言ってからその理由を説明する。ソフィア曰くシエラの政府や軍部、情報部は基本的に他の星の政府関係者が自分達の星に住むことを良しとしない。これはスパイ活動を防止するという目的があるためだ。もちろん観光客や短期のビジネスマンらは多く来星しているがこちらは短期間でもあり問題ないという。ただ当人達が気がつかないところで監視をされているんだけどねとソフィアは付け加える。


「大使館は他の星にあっても自国の領土となるという銀河連邦法があるでしょ?シエラに他星の大使館を置いて好きなことをされるのが嫌なのよ。取締れないし」


 自分達も相手の星に政府機関を置けないというハンデはあるがそれ以上に自分の星に大使館を作られることを嫌がっている。


「だから情報部が頼りなのよ。詳しくは言えないし私自身も知らないけれども相当数の情報部員が商売人や観光客になってあちこちの星に出向いては情報を取ってきているという話よ」


 聞いていたケンはなるほどと納得する。先端科学技術においては過去から常に連邦一、いや銀河一という開発力を持っているシエラ星。他の星から見ればその技術は垂涎の的だ。その技術を手にいれようと治外法権の大使館を利用してシエラ星内で活動することを防いできたからこそシエラ星は今でもその地位を守っていられる。


 その一方で大使館経由での情報が入らないというハンデを背負ったシエラはその役割を情報部に託し、彼らがさまざまな形で他の星系に出向いて、時にはそこに住んで情報を随時シエラに流しているのだ。


 連邦の一員として協調はする。ただし政府の出先機関の設置は認めないしこちらも相手先に設置しないという姿勢を貫いてきたシエラ。そして一方で宇宙中に多くの情報部員を派遣して日夜情報収集を行なっている。


 情報戦を制するものが勝つという信念があるのだろう。大したものだとケンは感心しながらソフィアの話を聞いていた。


 翌朝アイリス2はロデス星を離岸すると一路シエラ第3惑星を目指して飛び出していった。


『シエラ第3惑星到着は今から16日と19時間、変更ありません』


 アイリスの声がして進路が自動でシエラ第3惑星にセットされのを確認すると船長席から立ち上がったケン。


「シエラに向かうことと到着予定時刻を連絡しておいてくれるかな。造船所にも言っておいて貰えるとありがたい」


「わかったわ」


 ソフィアは自室で通信文を作るとアイリス経由でシエラの情報部に発信した。その通信文は到着後すぐにスコット大佐からシュバイツ准将の手に渡る。部屋にはスコット大佐とアンドリュー中佐がいた。


「16日と17、18時間後に到着か」


 文面を声を出しながら読み上げた准将。顔を上げると中佐を見て、


「あちらさんとの面談場所は決まったか?」


「はい。太陽系内の一番外側、海王星のさらに外側にある秘密基地でもある遠方監視ステーションとなりました。軍の施設で関係者以外は立ち入り禁止になっており、そもそもその施設があること自体が秘密扱いになっているそうです」


 ハキハキと答えるアンドリュー中佐。その言葉に頷くと、


「太陽系連邦軍。その実態は明らかになっていないが相当進んでいると聞いている」


「仰る通りです。近隣の星系との大きなトラブルがないので軍の実態はなかなか見えてきませんが、こちらに入って来ているいる情報によれば連邦軍はかなり優秀な装備を保有しており又兵隊の質も相当高いとの報告が来ています」


 スコット大佐が答えた。


「だからこそ我々と組む意義がある。大統領も太陽系連邦、地球人とは同盟を組んで互いに常時情報交換をすることがいいんじゃないかと言われているし私も大統領の意見と全く同じだ。こちらの情報では彼らの武器は全て自分達の太陽系内で製造していると聞いている。オリジナルの武器でしかもかなり優秀だとな。あちらから武器や船の製造技術を学びこちらからは先端電子技術を供与する。お互いギブアンドテイクの関係がつくれそうだよ」


 ブルックス星のほとんどの星系は武器の一部は外注している。主としてバイーワ惑星群にある第1惑星。通称武器製造惑星だ。当然機密保持契約はしており自国の武器の詳細が漏れることはないがそれでも万が一というリスクは常にある。


 少しの間を置いて准将が言った。


「地球人の運送業者のケン・ヤナギ。彼がうちの星にやってきたことも大統領の決断の後押しをされた様だ」


「ソフィアから来る定期的なレポートを見ても彼はただの小口運送業者とは思えませんね」


 大佐のその言葉に頷く2人。


「アイリス2が到着したらそのままドックに着岸する手配を。同時にドックでの改造期間の確認。それとケンとソフィアはそのまま情報本部に来てもらってくれ。私から話をする。太陽系連邦軍には会談の場所については了解したと返事を頼む。訪問日時は追って連絡すると送信してくれ」


 准将が2人に指示を出した。


 太陽系は特殊だ。連邦政府と言いながらも太陽系全体で1つの国家の様になっている。元々地球にしか人が住んでいなかったのを地球人が太陽系内の惑星や衛星を次々と開拓して人が住める様にしていった。そして全てを開発したのちに太陽系連邦政府を樹立した経緯がある。連邦イコール1つの国家という珍しい形態をとっている星系だ。それ故に正式には太陽系連邦と言うが地球連邦という名で呼ぶ人もいる。


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