第23話 ロデス星1

 ノックの音がして扉が開くとスコット大佐がシュバイツ准将のオフィスに入ってきた。手には通信文を持っている。


「ソフィアからの連絡です。アイリス2が点検の為にこの星にやって来るそうです」


 そう言って手に持っていた通信文を机に置くとそれを持ってざっと目を通した准将。


「なるほど。今から約1か月半後か」


 通信文から顔をを上げて大佐を見て、


「いいタイミングかもしれんな」


「ええ。カモフラージュとしてはアイリス2は完璧でしょう。博士が作ったあの基地にあった輸送船を第一候補に考えていましたがあれはシエラ所属になっていますからね。どこで情報が漏れるかわからないリスクは避けられませんから」


 その言葉に頷く准将。


「そのとおりだ。最悪はあの船で出向いていくが他にいい移動方法が無いかと考えていた時のタイミングでアイリス2がこの星にやってくるのも何かの縁だろう。使わない手はない」


 そう言い、


「先方とのアポイントはアイリス2のスケジュールが分かった時点で確定させるが、とりあえず我々から出向いて行くのであちらさんの近くで会談の場所をどこにするかは向こう側決めてくれと連絡を入れてくれるか」


「わかりました」


 スコット大佐はそう言ってから准将を見て言った。


「NWP装置はどうしますか?うちの技術部と製造部によるとNWP対応エンジンの設置は1週間もあればできるそうです」


 大佐の言葉に一瞬考えてから顔を上げると、


「ケンがどう言うかはわからないがこちらの希望は伝えよう。アイリス2にNWP対応エンジンを設置する前提で事前の準備を進めてくれ。移動が楽になるしな」


 わかりましたと大佐が部屋を出ていくと机の上にある通信文を再び手に取るシュバイツ。


「そうか、このタイミングでアイリス2が来るか…」


 准将が1人しかいないオフィスで呟くと端末を手に取り秘書経由で大統領とのアポイントを申し入れた。



 アイリス2は何度もワープを繰り返し予定通りに宇宙空間を飛び、ロデス星の勢力圏に入った。


『ロデス星港湾部と繋がりました』


「ありがとう」


 すぐにモニターにロデス星の港湾部の担当者の顔が映し出された。


「久しぶりだな、ケン。船を変えたみたいだな」


「ああ。ようやくボロ船からおさらばしたよ」


 そう言うとモニターの向こうから笑い声が聞こえてくる。


「ビルワラ商会向けのパーツだな。こちらにも連絡が来ている。この調子で飛んでくると予定よりも1日ほど早くなりそうだな。こちらからビルワラには連絡しておく」


「ありがとう。助かるよ」


 その後ロデスポートでの着岸ポイントを聞いたケンはアイリスにそのまま指示をした」


「ロデスでは降りるの?」


 港湾局とのやりとりを聞いていたソフィアが聞いてきた。


「降りようとは思ってる。ソフィアが欲しい情報が取れるかどうかは確約はできないが雰囲気は見ておこうと思ってる」


 ケンの言葉に頷くソフィア。


 アイリス2は翌日の昼前にロデス星本体の首都ポートに着岸した。後部ハッチを開けるとすぐに岸壁に待機していた作業ロボットが近づいてきて機体に積んである荷物を取り出していく。


「いい機体じゃないか」


 作業を見ている港湾局の担当者が声をかけてきた。


「前の船よりも貨物室が広くなってスピードもでる。金をかけた甲斐があったよ」


「あんたらはスピードが命だからな」 


 荷物を取り出す作業を見ながらそんなやりとりをし、


「停泊するつもりかい?」


 と聞いてきた。


「1泊か2泊しようと思ってる。食料と水も買わないといけないからな」


「今は比較的空いている。この場所で止まってて構わないよ」


「そりゃ助かる。それにしても今は空いてるって何かあったのかい?」


 隣でさりげなくケンが聞いているのをソフィアは黙って聞いていた。担当者がケンを見て言った。


「選挙があるんだよ。3年に1度のこの星の総選挙が今週末にな。選挙の前日と当日は休日だ。業者は選挙前だと人が集まらないからってほとんど開店休業状態さ。この荷物の持ち主であるビルワラ商会みたいに選挙前でも真面目に仕事してる会社の方が少ないのさ」


「それだけ荷物を急いでるってことだろ?」


 そう言う事だろうなと答える港湾局の担当者。


「それに選挙ったっていつも与党が圧倒的に勝利してるじゃないの。今回も同じ結果になるだけだろう?」


「おそらくな」


 と言って港湾局の担当者が続けて言った。


「連邦からの独立派ってのがいて金をばら撒いて票集めしてるらしいが全くと言っていいほど国民から支持を得られてない。当然だよな。俺もそうだが何で今更連邦から独立する必要があるんだよ?って感じだよ。まぁいつも通りの結果に落ち着くだろうよ」


「そりゃ安心だな。俺も引き続き商売ができるって訳だ」


「そう言うことだ。じゃあ船は2泊停泊するってことで申請しておくぞ」


 そう言って港湾局の担当者は引き取った荷物がトラックに積まれていくのを見るとその場から離れていった。トラックと担当者が引き上げるとケンとソフィアも船内に戻る。

 

 メインルームに戻るとソフィアがコーヒーを2つ作って1つをケンに渡して、


「だいだい状況がわかったわ」


 ケンが荷卸しに立ち会ったから得られる情報。積み地で聞いた情報とは異なった新鮮な情報だ。ソフィアはケンと一緒に船長室に入るとPCを起動させる。


「これがこの星の選挙に関する世論調査だ。これを見ても与党が圧倒的に勝利しそうだな」


 PCの画面上にはこのロデス星の報道機関が発表している選挙前の世論調査結果が載っていた。みると与党が80%以上、90%近い指示を集めている。野党が10%弱、そして独立派は1%程度の支持率だ。


「下手すりゃ独立派は議席が取れないかもしれないな」


「そうなるとこの星は大丈夫ってことよね?」


 PCを見ているケンの肩越しに同じ様にモニターを見ながらソフィアが言った。


「向こう3年間はな。次の3年後の選挙を睨んで何かしかけてくるかもな。俺が知ってる限り連邦でファジャルの息がかかっているとはっきりしているのは今のところこの星だけだ。将来はわからないけどな」


 そう言って顔を横に向けてソフィアを見ると、


「仕掛けているファジャルの組織がこの星にあるのは間違いないんだから早いうちに手を打った方がいい」


 ソフィアは自分の方に顔を向けたケンの頬に軽く自分の唇を合わせると、


「そうするわ」

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