第22話 ただの運送屋じゃない?
「巡航速度になりました。最初のワープポイントまで1時間、目的地のロデス星の到着時間は27日と23時間後です」
「ありがとう。そのまま進んでくれ」
機体が巡航速度になるとケンがシートベルトを外すと同じ様にベルトを外したソフィアが近づいてきた。
「ケンが言っていた星って」
「そう。今から行くロデス星だ。きな臭い噂が以前からあったんだよ」
答えながら後部にあるキッチンでコーヒーを2つ作るとカップを1つソフィアに渡す。
「裏で糸を引いているのはやっぱりファジャル?」
「まぁ普通に考えたらそうだろうな」
「落ち着いてるのね」
コーヒーを口に運んでいる仕草を見て苛立った様な声でソフィアが言う。
「俺は一介の運送屋だからな。それよりも第8惑星に到着した時に何か感じたかい?」
話題を変えたケン。
「後部ハッチが開いた時、一瞬だけ何か薬品ぽい匂いがした。すぐに消えたけど」
その言葉を聞いたケンはソフィアを見て大きく頷く。
「それだよ。ほんの微かなんだろうけどあの星はいつも薬品の匂いがしている。俺はそれが嫌でね」
ケンの言葉にソフィアが、
「着岸したピアにはすぐ近くに倉庫もあったわよね。そこからの匂いじゃないの?」
と言った。
「いや、あの星はいつ、どこのピアに着岸してもいつも同じ匂いなんだよ。一時的に保管してある商品の匂いだとは思えない。ソフィアも感じたのなら俺の感覚も間違っていなかったって事だ」
そう言ってケンが続ける。
「バイーア惑星群を管理している政府は一切発表しないが以前民間の業者が調査したところあの惑星群に住んでいる人の平均寿命はブルックス系の中で最も低いというレポートがだされたんだよ。もちろんバイーア惑星群政府はレポートは出鱈目だとすぐに否定したけどな」
ケンをじっと見るソフィア。
「因果関係なんてもちろん証明はされてないさ。ただ自分がやばそうだと思う感覚、そしてそれを裏付ける可能性のあるデータ。俺があの星に長く滞在したくないと決めるにはそれだけで十分さ」
ただの運送業者じゃない。右から左に商品を運ぶだけじゃなく訪問する惑星の情報をしっかりと入手して仕事をしている。
「ところでこれから行くロデス星だ」
ケンが再び話題を変えたのでソフィアは無意識に身を乗り出した。本題だ。
「3年前の選挙で当選した当時無所属と言われていた議員達が当選してから会派を作ったんだ。それが独立派だよ。ファジャルは手懐けた議員を無所属で出馬させ、当選してから会派を作らせた。ただ独立派の議員が5名ということで議案を提出することができる議員の数の15名には足らず実際には星の運営に何の影響も出ていない。3年後の今年の選挙でどうなるかが注目されている」
「ケンはその5名がファジャルの息がかかっているって知っていたの?」
「まさか。ただ前回の選挙の後にロデス星に荷物を運んだ時に街で聞いた話だよ。その当時は独立派なんてどうせ次の選挙で全員落選する。この星でブルックス星系から独立したいって思っている奴なんていないと言ってたよ」
これもHUMINTだわと思いながらソフィアは話を聞いている。
「今回の選挙が荒れてるって話はさっきの第8惑星で初めて聞いた。ただあの話も100%鵜呑みにしちゃあいけないと思ってる」
「どうして?」
「投票権のない奴らの噂話だからさ。正しい情報は当事者から得るのが一番だ。それにさっきの港湾局の奴らが言ってただろ?商売関係者が札束をばら撒いてなんとか連邦に留まる様に動いているって話」
その言葉に頷くソフィア。その表情を見てケンが続ける。
「ロデス星は悪いが政治的にはクリーンじゃない。普段から札束が飛び回っているって話だ。ただそれはロデスが連邦に属して好きに商売できているからだってことはあの星の商売人は皆知っているしその金をもらっている議員にしてもしかりだ。だからその飛び交っている札束が本当に独立派を抑える為の金かどうかはわからない。他の開発の案件で金が飛び回ってるってこともありえるからな」
「それで選挙についてはどうなるの?」
「実際に星についたら色々わかるかもしれないが今まで訪れた時の感覚だとロデス星の住民は連邦に所属していることによるメリットを享受している様に見えた。前回は無所属といういわば住民を騙した形での当選だったが独立派と知った今、彼らに投票する住民が多くいるとは思えない。自分達の既得権を手放すなんてしないだろう?」
「じゃあ安心ってことよね?」
ソフィアが言うと
「とりあえずはな。でもあの星にファジャルの影響を受けている議員がいるのは独立派がいるって時点で明白だ。そしてあの星は今は連邦に属している。この状態で今後どうするかというのはシエラ星の情報部の仕事じゃないの?」
「確かにそうね。情報を手に入れて、危ないと思った芽は小さいうちに摘んでおく方が良いものね」
「その通りだ。シエラ第3惑星への報告は実際にロデスについて自分の目で見てからの方がいいだろう。急がないのならシエラに行った時でもいいんじゃないの?すぐに状況は変わらないだろうし。このロデスの仕事が終わったらシエラ第3惑星に行くつもりだよ」
「えっ!? シエラに帰るの?」
自分の星に行くと聞いてソフィアの表情が明るくなる。ケンはその言葉に頷き、
「この船を動かして半年経ったからな。初期点検をしておこうと思ってさ。この船の製造地はシエラで登録されている。ロデスからシエラだとそれほど遠くもない、ちょうどいいタイミングなんだよ」
そう言ったケンがアイリスに聞くと、
『ロデスからシエラ第3惑星までは出港後16日と19時間です』
とすぐに返事が来た。
「了解。ロデスで荷物を下ろしたら次の目的地はシエラ第3惑星だ」
『わかりました』
アイリスとやりとりをしているケンの姿を見ながらソフィアはこの目の前の男が諜報部員としたら極めて優秀だろうと思っていた。ひょっとしたら太陽系連邦政府の情報部員?そう思うくらいの能力を持っている。
いろんな情報を常に頭の中で整理をしている。そして必要な時に必要な情報を頭の中から取り出してくる。小口運送業者というのは荷物を運ぶだけ、言い方は悪いががさつで頭はあまり良くない人というイメージを持っていたがケンと会ってその先入観が間違っていたことが証明された。
目の前の男はものすごく頭が切れる。そして頭だけじゃなく決断力や交渉力も優れている。最初から全ての展開を読んだ上でシエラにアンヘル博士の頼まれ事を受けている。後で聞いたがシエラに来ることで自分の死も覚悟していたというから腹も括れる男なんだろう。普段は目立たない様にしているが自分から見れば極めて興味深く、同時に魅力的な男性だと。
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