第21話 バイーア第8惑星

 翌日丸1日かけて船の内部を点検し、アイリス2は食糧や水の買い出しを済ませると次の目的地であるバイーア惑星群の中の第8惑星を目指してサマラ星を飛び立った。


『目的地まで5日と18時間。変更ありません』


 船が惑星の成層圏を出て巡航速度になるとアイリスの声がした。アイリスによると最初のワープまで4時間でそれまで航路上に運行の支障となるものはないらしい。


「1人の時は睡眠はどうしてたの?」


 サマラ星を飛び出し、決めた航路上を巡航速度で走り出すとケンはアイリスに操縦を任せた。そのタイミングでソフィアが声をかけてきた。


「3日ほどの距離なら徹夜で飛んでた。納期が間に合わないとまずいからな。目的地についてからたっぷりと寝るという繰り返しだったよ」


 座っていた椅子から立ちあがり奥のキッチンにう向かうケン。ソフィアもその後ろを歩きながら


「若いからできることね」


「その通り。まぁ前の船だと航続距離も長くなかったから遠方に輸送することは多くなかったし、遠方に向かう場合には大抵途中の星で給油する必要があった。その際に1時間とか2時間とか仮眠してたんだよ。あとはワープ中だね。ワープできる時は30分とか1時間とか細切れの睡眠の繰り返し」


 コーヒーメーカーで2人分のコーヒーを作ると1つのコップをソフィアに渡す。


「ありがと。じゃあこの船になって乗員も増えたし、ケンも楽になってるってことね?」


「もちろん。船も優秀だしソフィアが乗務員として乗ってくれて助かってるよ」


 

 アイリス2は順調に飛行を続けて予定通りの5日後、バイーア惑星群の中の第8惑星の影響圏に入った。


『第8惑星と通信が可能になりました』


「港湾局を呼び出してくれ」


 ケンが言うとすぐにアイリスから


『通信が繋がりました』

 

 そう言ってモニターに相手が出てきた。


「こちらバイーア惑星群 第8惑星港湾局だ。そちらの船体IDを確認した。こちらのラジコット商会からも連絡が来ている。貴船は惑星の第5ポートの4番ピアに接岸してくれ」


「了解。手配に感謝する」


 通信が切れるとアイリスが目的地に機体を向けた。機体の窓からバイーア惑星群の星の群れが見えている。それぞれがそう遠くない距離にあって遠目に見れば固まって大きな星に見えるほどだ。


「さてと、ケンが感じた匂いってのを確認しないとね」


 ソフィアの言葉に苦笑いする。


「俺の個人的な感覚ってことを忘れないでくれよな」


「もちろん。でもそのアナログの感覚をケンは大事にしてるんでしょ?」


「そのとおり」


 ソフィアの言葉に大きく頷くケン。

 ケンと一緒に行動を始めてからソフィアの意識も大きく変わっていた。情報部員としてデーターを集めてそれを分析して上席に提出する。それが仕事だと思っていたがケンと仕事を一緒にしだしていかに足や耳を使った情報収集が大事なのかを覚えさせられたソフィア。


 アイリス2は第8惑星の大気圏を抜けて地上に向けて降下をしていく。窓から外を見れば惑星のあちらこちらに大きな工場がありそれが正に稼働中であることを示す様に煙突から白い煙が立ち上っているのが見えた。


 下降を続けたアイシス2は指示通りに第5ポートに着くとそこの4番ピアに着岸した。


 機体が完全に停止したというアイリスの声を聞いてシートベルトを緩めるとソフィアと2人で機体後部の格納庫、荷物倉庫に移動する。

 

 後部扉が開くと第8惑星の大気が流れ込んできた。


(やはり匂うな)


 ケンは最初に流れてきた空気の匂いを感じ取る。しばらくすると鼻が慣れてきて匂いはしなくなった。ほんの一瞬の出来事だ。隣にはソフィアがいるがケンは何も言わなかった。彼女も何も言わない。


 ハッチが完全に開くと準備されていた荷物、4㎥のケースが2つ積み込まれてくる。その梱包状態を目視で確認するケン。港のロボットがしっかりと搬入し、固定するのを見て


「ありがとうよ」


 作業を見守っていた港湾局の担当者に声を掛ける。


「久しぶりだよ、声をかけられたのは。大抵は乗ったままで降りてこないか、乗務員口から降りて街に消えていくかのどちらかなのにな」


 港湾局の担当者がびっくりして言う。


「いろんなやり方があるからな。俺はいつでもこうやって確認することにしてるだけだよ」


「まぁ俺達はあんたの様に積み込みを立ち会って貰う方が嬉しいけどな。挨拶の一つも交わしゃあ気が紛れるってもんだ」


 男の言葉に頷き、


「ところでこれをロデス星に持っていくんだが航路上で何か注意しておくことはあるかい?」


「いや。航路上じゃあ特になにも聞いてないな」


 その言い方に引っかかりを感じたケン。どう言うことだ?と聞くと男が続けて口を開いた。


「仕事には直接関係ないけどな、ロデス星が今総選挙の真っ最中らしくてな、その選挙が今回は荒れてるらしいって話は聞いた。何でもこのブルック系からの独立派が勢力を伸ばしていて今回の選挙でそれなりの議席をとるんじゃないかって言われてるって聞いたんだよ」


 それまでやりとりを黙って聞いていたソフィアの表情が変わる。港湾局の男はそれに気がついていないのかケンを見ていた。


「独立ってどうするんだ?他の星系の連邦に入るってことかい?」


 全く表情を変えずにケンが聞いた。


「そこまでは聞いてない。ただそうなったらロデス星で商売してる奴らは大困りだ。独立派に議会でマジョリティを取らせない様に札束をばら撒いてるって噂もある」


「なるほど。もしそうなったら俺の方の商売にも影響が出そうだな」


「他の星系からの荷物が増えたらそうなるか。まぁこの話はこっちもまた聞きだ。あんたらが今からロデスに行くんなら現地で確かめた方が確実だな」


「ああ。そうするよ、色々ありがとう」


 荷物を積み終わると後部ハッチが閉じられた。オペレーションルームに戻るとアイリスの声がした。


「停泊中に機体のチェックをしましたがエンジンおよびコンピューター関係に不具合はありません。燃料もまだ十分にあるのですぐにロデスに向けて出発できます」


「じゃあ行こうか。ここには余り長居したくないんでな」


 レンとソフィアがシートに座ってアイリスに出港の指示を出すと荷物を積んだ機体はゆっくりと浮かび上がり第8惑星の外側に向かって飛び出した。


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