第16話 会話
翌日アイリス2は衛星ダーボードを離岸、荷物の引き取り地であるペンザ星に向けて飛行を始めた。
ケンはメインルームの船長席兼操舵席に座って窓の外とモニターを交互に見ている。そしてソフィアは自室で情報部宛の報告書を作成していた。
【報告書】
日時:UC1869年4月8日 作成者:ソフィア
アイリス2はシエラ第3惑星から船の本籍地であるリンツ星に帰還。帰還途中の空域にて海賊船2隻を発見。ケンは退避を即決し海賊に見つかることなく別ルートを選択し無事にリンツ星に到着。
リンツ星には少数のファジャル人が住んでいるが商売関係者が多く、またリンツ星自体がブルックス系において積極的に政治活動を行なっていない。ケンによるとファジャルの情報機関はこのリンツ星においてはほとんど活動をしていないだろうとの事。私自身も現地を見た限りにおいてはこの星ではないと判断する。
そのケンだがリンツ星のみならずブルックス系の情報に詳しくかなりの情報量を持っている。彼にはファジャルが活動をするであろう可能性のある星がいくつかあるとの事だがこれについてはいずれ訪問するのでその際に私の目で確認すれば良いだろうと言っている。彼が目星がついているという星名については現時点では不明。
ケンの優秀さについては驚かされるばかりの日々だ。状況を常に冷静に、客観的にみてベストな方法を選択している。ファジャルの動向調査とともにケンについても引き続き調査を続ける。
以上
報告書を書き終えたソフィアはアイリスを呼び出した。
「この文章を暗号化して船内にある高速通信機器を使ってスコット大佐宛に送信してくれる?」
『わかりました。優先度Aで送信します』
リンツを出たアイリス2はトラブルもなく予定通りブルックス星系の中にあるペンザ星に近づいていた。
『こちらペンザ港湾部』
港湾部を呼び出すとすぐに返事が返ってきた。
「こちらリンツ所属のアイリス2。集荷の依頼を受けている、依頼主はブルックス宇宙天文台だ」
『アイリス2了解した。天文台から事前に聞いている。荷物は準備できているそうだ。そのままペンザ星本体に向かってくれ。目的地はターミナル5、3番ピアだ』
「ターミナル5、3番ピア了解。手回しが良いと助かるよ」
港湾局との交信を聞いていたアイリスが機首を目的地に向ける。交信を終えたケンは航海士の席に座っていたソフィアに
「荷物を積むのに立ち会う。聞いていた荷物かどうかと密航者を乗せないためにな」
「荷物なんて間違うことはないし、密航者の有無はアイリスが見つけるんじゃないの?」
ケンが立ち会うと言うのを聞いたソフィアがびっくりした表情になる。何でそんなことするのという口調だ。
というのもソフィアの考えが普通の人の考え方だ。この世界は全てが段取り良く進んでいく。エラーはまず発生しない。AIが船の後部ハッチを開けると機械ロボットが荷物を積み込み、固定する。再びAIがハッチを締めて準備完了といえば出発するのが普通だ。
「そう。アイリスは優秀だ。でもこれは俺にとっては必要なんだよ。立ち会えばこの港の連中と会話をすることもある。会話をすりゃ相手のことも分かるしまた来た時に覚えてくれたりもする。あちこちで人間関係を作り上げておいて損はないからな。古臭いと思うかもしれないがこれが意外と効果があるんだぜ」
そう言って一緒に来るかと聞かれたソフィアが頷くと船が3番ピアに着岸後、2人は後部に移動した。アイリスが後部ハッチを開けるとそこには既に四角いコンテナが用意されていた。
積み込まれるコンテナがしっかりとシーリングされているのを確認する。そしてコンテナの側面に書かれている商品名と荷主の名前が依頼者と同じであることを確認するケン。
これもアイリスやってくれているがケンは自分でも確認する様にしていた。
「段取りがいいじゃないか。こっちは助かるよ。船が着いても荷物が来てないなんてしょっちゅうだからな」
積み込みを見ていた港湾関係者を見つけると気軽に話かけるケン。
「ああ。何でも急いでくれって催促を受けていたんだよ。天文台の職員って学者みたいなのが多いだろう? 真面目な人が多くてさ。毎日アイリス2は来ましたかって問い合わせが来てたんだよ」
「そりゃ災難だったな。元々到着が今日になるってのはは荷主に連絡してたんだけどな」
「そんだけ向こうが困ってるんじゃないのか? それにしても小型にしちゃあいい船だ。スピードも出そうだ」
「ありがとよ」
そんな話をしていると向こうから1人の男が小走りに走ってきた。ケンが顔をそちらに向けると話をしていた港湾関係者の男も顔をそちらに向けた。そしてケンに顔を戻すと
「天文台の人だよ」
と言った。小走りで走ってくる男性はケンらがいる場所に到着すると荒い息をしたまま
「アイリス2ですね、サマラ星までよろしく頼みます。向こうはこの部品を待ってますので」
「任しといてくれ。ちゃんと届ける。それが俺たちの仕事だよ」
どうやら天文台の人は今の言葉を言うためにわざわざやってきたらしい。何度もお願いしますと頭を下げて再び去っていった。その背中を見ながらケンが言った。
「あそこまで頼まれちゃあしっかり運んであげないとな」
「そう言うことだな。そうそう、数日前にサマラからここにやってきた船の船長が言ってたけど今サマラ星周辺は強い宇宙風が吹いているらしい。結構揺れるらしいぞ」
「わかった宇宙風の揺れに注意しよう。この荷物も精密部品だろうから慎重に飛ぶよ」
「それがいいだろう。気をつけてな」
やりとりが終わり港湾関係者の男に片手を上げて答えるケン。結局ソフィアは一言も口を挟まなかった。アイリスが後部ハッチを締め、完全に閉まると最後に荷物がちゃんと固定されているのを確認したケンとソフィアはメインルームに戻る。
「アイリス、出港準備は?」
『いつでも出港できます』
「じゃあ出港してくれ」
機体が浮き上がりある程度の高さまで上昇してから船の向きを変えると後部エンジンを点火しアイリス2は飛び出していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます