第13話 リンツ星
アイリス2はデブリを利用して海賊達から離れその後は別のワープポイントを利用してワープを繰り返しリンツ星の勢力圏に入ってきた。
『アイリス、港湾局に入港を連絡してくれ』
『わかりました。通信を開きます』
そうしてすぐに
『リンツ港湾局より通信です。繋ぎます』
その声が切れるとモニターに顔見知りの顔が浮かび上がった。
「ようケン、随分と久しぶりじゃないかよ。お前船変えたのか。しかも乗員まで増えてるじゃないか」
「ああ、まとまった金が入ったからな。船が出来上がるまで仕事を止めてたんだよ」
「コツコツと真面目にやってりゃ貯まるってことだな。いつもの場所で良いか?」
「大丈夫だ」
「じゃあ衛星ダーボードのカーゴターミナルに向かってくれ、ピアは10番だ」
通信が切れるとやりとりを聞いていたアイリスが
『ダーボードのカーゴターミナル10番ピアに向かいます』
「頼む」
リンツは変わった星だ。星単体がポツンと宇宙空間に浮いている。近くに恒星がないのでリンツでは星の周回軌道上に人工太陽を打ち上げている。
そしてこの星は星と衛星全てがフリーポートになっていた。ほとんどの品物に税金がかからない。貿易星、観光星として生きているのだ。ブルック系最大のフリーポートになっている。
リンツは衛星を2つ持っている。そのうちの1つダーボード星がリンツの港の機能を持っていた。旅客用とカーゴ用のターミナルに分かれてそこで出入国をし、荷物を輸入、輸出している。買い物メインの客は衛星ダーボードで降りてそこで買い物を済ませることが多い。もちろんリンツ星本体にも移動は可能だ。ちなみにもう1つの衛星は衛星全体が軍事基地になっており、着岸はもちろんそこに近寄ることさえ禁止されている。
フリーポートであることと保有している宇宙船に対してかかる税率も低いことから多くの宇宙船がこのリンツを所属地にしていた。
アイリス2がゆっくりと衛星ダーボードに向かって進んでいる時にケンが言った。
「リンツ星は初めてかい?」
「ええ。ここまで来たことがなかったから」
「この星は何でもある。金はかかるがショッピングするには楽しい星らしいぞ」
「らしいってケンはここに住んでるんでしょ?」
「一応ね。まぁこの星にいる時はほとんど寝て過ごしてるよ。元々ショッピングには興味がない。税金が安いからこの星をベースにしてるだけさ」
「今回はどうするの?」
ソフィアがモニターに映る衛星ダーボードが近づいてくるのを見ながら聞いてきた。
「とりあえずアパートを引き払う。元々ほとんど住んでなかったしな。アパートを借りてたのは前の船がしょっちゅう修理する必要があってドックに入っている間の寝る場所として借りてたものだ。船が新しくなったらもういらないだろう。なので荷物もほとんど置いていない。アパートを引き払ったら食料品と水の買い出しをしてから次の仕事を探す。ソフィアはどうする?」
「とりあえず街に出てみるわ。初めてだしショッピングできるのなら楽しみだもの」
「ダーボード内をうろうろするのは問題ない。ここは治安は良いからな。ただリンツ星本体に行く時は1人で行くな。治安が悪い場所がある」
「じゃあリンツに行く時はケンに声をかけたらいい?」
「そうしてくれ」
『10番ピアに着岸まで2分。逆噴射エンジン始動。高度20メートル…10メートル…
1メートル。着岸しました。お疲れ様でした』
衝撃もなくアイリス2は10番ピアに着岸する。2人は船を降りるとターミナル内を徒歩で移動する。途中にあるゲートのセンサーが脳内のバイオチップのIDをスキャンするので入国検査もない。そのままカーゴターミナルの建物を出た2人。
「街のホテルに泊まるのなら連絡してくれ。俺は船に泊まるつもりだ」
そう言って建物を出たところでソフィアと分かれたケンはエアタクシーで自分のアパートに向かった。久しぶりのアパートだが元々ほとんど個人の荷物がない部屋だ。適当にまとめてカバンに放り込むとその場でオーナーに連絡をして部屋をキャンセルした。
その後は港の周辺にある宇宙船御用達の商店に顔を出して水と食料を購入して10番ピアに運ぶ様に手配する。一通りの仕事が終わった時はもう人工太陽が沈む前だった。
少し買い物をして10番ピアに戻ると既に頼んでいた水と食料が10番ピアに揃っていた。それらの物資の確認をしてからアイリス2に積み込んで後部ハッチを締めるとそのまま船長室に向かう。PCを立ち上げてIDとパスワードを打ち込むと、
「アイリス、俺が開いているPCのサイトを記憶しておいてくれ。商売のネタが転がっているサイトだ」
『わかりました。ケンは買い物はしないのですね』
「少ししてきたよ。基本あまり欲しいものがないからな』
『ソフィアは結構買っている様ですよ』
「そりゃそうだろう。女は買い物好きだからな。ダーボード内のショッピングエリアにいるんだな?」
『はい。この衛星からは出ていません』
「じゃあ大丈夫だろう」
そう言ってPCに視線を戻す。
ケンが開いているサイトは自身が所属している小口運送業者のサイトだ。登録している業者のみが閲覧することができる。そこでは荷物を運んで欲しい顧客が載せているデータの一覧だった。
依頼者名、商品、数量、重量、積み込み地、目的地、そして荷主が運送業者に支払う金額などがリストになって表示されている。
ケンら小口の運送業者達はこのリストを見て自分が気に入った依頼を見つけるとチェックを入れる。そうすると仲介している業者が今度は具体的な日時や荷物のピックアップ場所などを運送業者に連絡してくる仕組みだ。輸送代金は依頼者が商会経由で支払うことになっているので取りっぱぐれはない。
前の船の時は燃料代も高く、また故障のリスクがあったので遠距離はできるだけ避けていたケンだがこの新しい船なら問題はない。また燃料代がほとんどかからないのでかなり利益が出そうだと考えてながらサイトを見ていた。
(ケン、聞こえる?)
(ああ。感度良好だ)
脳内にソフィアの声がアイリス経由で聞こえてきた。
(もう船に戻っているの?)
(戻っている。今船長室にいる)
(じゃあ私も今日は船に戻る。明日リンツに行くのに付き合って)
(わかった)
『ソフィアが船に戻ってきたら乗務員乗降口のドアをロックします』
「そうしてくれ。安心して眠りたいからな」
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