第5話 シエラ第3惑星
『エンジン点火。出力上昇中。25%、異常なし』
新しい船に乗り込んだケン、ジャスミンに出港の指示をすると全ての機械が稼働を始めた。
『エンジン出力80%、異常無し。出港可能です』
「出港」
その声で船が浮かび上がってその場でゆっくりと回頭すると基地の出口に向かって進みだした。ゲートが開いてそして閉じられると機体は無重力となり空間に浮く。ジャスミンの指示でバランスを安定させているので船は全く揺れない。
「ここからシエラ第3惑星までの時間は?」
『NWPを利用して目的地付近まで5時間40分です』
「NWPを誰かに見られる可能性は?」
『はい。それを考慮してNWPを目的地のかなり手前に設定、最後は通常のワープルートで目的地に近づくルートを設定しました』
やはりジャスミンは相当できるAIだとケンは思った。こちらの事情を全て理解している。
「じゃあそのルートで頼む」
小惑星の入り口のゲートが開くとケンが乗っている船は宇宙に飛び出した。もちろんまだ小惑星群の中なので周囲を警戒しながらの低速飛行だ。ジャスミンが指揮する船は小惑星の間を縫う様にして飛んでいく。
『小惑星群を抜けました。NWPまで3分15秒です』
ケンは航海士の椅子に座る。流石に船長席に座る訳にはいかない。正面には小惑星を抜けた暗黒の景色が見えている。この辺りは星もない辺鄙な所だ。当然行き来する船もいない。
『NWPまで1分。シートベルト着用をお願いします』
ジャスミンの声でシートに座っていたケンはシートベルトを締めた。
『5、4、3、2、ニューワープします』
その声と同時にモニターの景色が変わった。次元トンネルの中を超高速で移動している。
『ワープアウトまで4分25秒です』
「ワープアウトの時は揺れるのかい?」
『いえこの船には重力吸収装置がありますのでほとんど揺れを感じないと思われます』
その言葉を聞いてシートベルトを外そうかと思ったが初めてのNWPだ。念のためにとベルトは締めたまま椅子に座るケン。
「もし通常の方法でシエラ第3惑星に向かってたとしたらいつ着いたんだ?」
『小惑星基地からですと22日と8時間です』
WPを最大限利用し、通常空間をすっ飛ばしても22日か。
「ちなみにファジャルからあの小惑星基地まで通常の移動方法でかかる時間は?」
『はい。155日と18時間かかりますね』
「ありがと」
なるほど博士があの場所に隠れたのも頷ける。トレオン星系にあるファジャルから5ヶ月程離れているとなるとまず探索にはこないだろう。あの小惑星、秘密基地が見つかる確率はほぼ0だ。
『ワープアウト1分前』
ジャスミンの声を聞いてベルトを確認ししっかりと座り直したケン。
『ワープアウト10秒前。 5、4、3、2、 ワープアウトします』
その声と同時に目の前にいつもの宇宙の風景が現れた。ジャスミンの言う通りワープアウトしてもこの船は全くと言っていいほど揺れや重力を感じない。
『周囲500万Kmに船影なし。ワープアウト時の空間重力の揺れは感知されていない模様』
その後は普通のワープポイントを通過した船の前にシエラ惑星群が見えてきた。
シエラ星は3つの星がお互いに干渉しあう様に三角形のトライアングル状になっている星群だ。シエラ第1から第3まであり、行政機能は第3惑星に集中している。ちなみに第1惑星は資源星、第2惑星は農業星として機能しているという説明をジャスミンから受けたケン。機首を第3惑星に向けて進んでいくと、
『シエラ第3惑星の衛星ステーションから通信です』
「つないでくれ」
すぐにモニターに第3惑星衛星ステーション運行管理部の担当者の顔が出てきた。
「こちらはシエラ第3惑星衛星ステーションだ。貴船の船体IDを確認した。配達ということで良いか?」
「こちらケン。その通りだ。預かり物をこの星に届けに来た」
「わかった。衛星ステーションか惑星ステーション、どちらを希望する?」
「できれば惑星に着陸したい」
交信している間にもケンの船は目的地に近づいていっていた。わずかな沈黙のあと
「惑星への着陸を許可する。首都郊外にあるポートシエラ8番ピアに接岸してくれ」
と通信が入る。
「ポートシエラ8番ピア了解。手配感謝する」
衛星ステーションとの交信が終わるとすぐにジャスミンから
『ポートシエラ8番ステーションに目的地を設定しました。到着は28分後』
「高性能のAIがいると楽だな。俺の船なら全て自分で座標をインプットしなければならない」
『私はそう言う存在ですから』
あっさりと言うジャスミン。船は大気圏を抜けて地表に近づいていった。ジェット噴射で下降しながら減速していく。
『着岸まで2分。機体に異常なし。機体水平にします』
何も言わなくても全てが自動で行われ、
『地表まで5メートル、3メートル、1メートル。 着岸しました』
「ありがとう。こっちでネットワークは利用できそうか?」
シートベルトを外して椅子から立ち上がったケンが聞く。
『お待ちください。はいネットワークに接続できました。これでケンが船から離れても脳内会話が可能です』
「それでお届けものはどこにあるんだ?」
ケンが聞くと壁にある引き出しの1つが開いた。近づいてみるとその中に黒い箱があった。手のひらサイズの小箱だ。しっかりと封がされている。
「これかな?」
『はい。その中にチップが入っています』
ケンは箱を持つとフライトジャンパーの内ポケットにしまい、船から降りるとピアから建物の中に入っていった。建物の中はケンの自宅のあるリンツ星と比べると綺麗でゆったりと造られていた。時間は昼前だったがここが貨物船のターミナルになっているからだろう。旅行者やビジネスマンの姿がほとんどない。行き交う人は大抵ケンの様なジャンパーや作業着を着ている。
銀河系の中でも文明が進んでいると言われているシエラ第3惑星。軍服姿の兵士の姿もなく一見不用心にも見えるがあちこに監視カメラや電子スキャンの機械が設置されているのがわかる。
『今ケンのチップがスキャンされました』
(ありがとう)
脳内に聞こえてきたジャスミンに同じく脳内会話で返事をする。
建物の中を歩いているとその後もスキャンされたとジャスミンが脳内会話で伝えてきた。
一見自由に門戸を開いている様に見えてかなり厳しいセキュリティチェックをしいている様だ。この調子だと見えないところにはレーザー銃もあるのだろう。どこの惑星でも港はそれなりにセキュリティを強化しているがこのシエラ惑星はかなりしっかりした方だなとケンは感じていた。
建物に入って廊下を歩いている時に自分のチップを数度スキャンしたせいか何も聞かれずケンはシエラ第3惑星に入国することができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます