第4話 NWPとミッション

 船は全長80メートル、幅は40メートル、高さは20メートルちょっとか。全体的にグレーのカラーで塗装されており外見も奇抜ではない。


「変な言い方だが最新鋭の船にしちゃあ地味なフォルムだな」


 この世界では船のサイズは全長で区分されており全長200メートル以下の船は小型船というカテゴリーにて登録されている。幅や高さについては規定はないが星港での着岸設備などの関係から大抵の船は平べったい造りになっている。


 参考までに200メートル以上800メートル以下を中型、それ以上を大型と呼んでいる。これは単体のサイズおよび連結した場合にはその合計の長さの事になる。大手の運送会社の船はたいてい3~500メートルクラスのコンテナを数基連結して1,000メートル以上の大型サイズとして大量の荷物を積み込んで輸送する。そして対海賊用に武装してあるのが普通だ。


『わざと地味にしてあります。博士曰く外見で注目を浴びない様にしているとの事でした』


 なるほど。地味な方が目立たないってことか。確かに聞いている装備があるなら目立つのは得策ではないだろう。


「船体番号はこれか。登録されてるのかい?」


 船体ボディに書かれている船体番号を指先でなぞりながらケンが言う。全てがコンピューターのデーターのやりとりで相手を確認する今、船体に番号を書いても意味がないのが船乗り、特に民間船の船乗りの多くは昔からのしきたりを守っているのが多い。


『はい。ブルックス星系所属で登録済みです。ちなみに登録時の業態は運送業です』


 ジャスミンの言葉を聞いたケンは眉を吊り上げる。


「なんとまぁ。もちろん偶然だよな?」


 まさかとは思うが自分をピンポイントで狙ってましたなんて言われたくない。


『これは偶然です。結果的にケンが乗っても何も問題ありませんね。船体IDとケンのIDとをリンクしました。これで惑星港湾局から問い合わせが来ても大丈夫です』


 ジャスミンの声を聞いてホッとする。その通りだ。船は運送業用、乗ってる人間は小口運送業者として登録している。何も問題はない。そして早速船と自分のIDをリンクさせてくれるとは。ジャスミンはできるAIだ。


「船名は?」


『船名登録はしておりません』


「船名をつけるのは太陽系の船主だけか」


『以前がそうでしたが最近ではそれ以外の星系の船でも船名をつけるのが流行ってきていますよ。ただこの船ができた当時はポピュラーではありませんでした』


 ケンが近づくと船の側面部が開いて中から小階段が出てきた。それに乗り込んで船の中に入る。ジャスミンが手を回してくれたのだろう。船内の灯りは全てて点灯されていた。


 中に入るとすぐに階段だった。階段の周囲は覆われていて内部は見えない。広めの階段を登るとメインルームだった。余裕を持った作りでソファやキッチンそして椅子にテーブルがある。前方と後方にドアがあり、前方のドアににはOPERATION ROOMと書いてある。


『ケン、聞こえますか?今この船にあるメインコンピューターからコンタクトしています』


「よく聞こえる」


 そう答えるとオペレーションルームの扉を開けた。中は見た感じでは普通の船と同じだ。正面のメインモニターに向かって左右に椅子があり右が戦闘担当士用、左が航海士用、そして壁際に1列下がったところに壁の左右に機関士用、通信士用と椅子がある

 

 航海士用の椅子と戦闘担当士用の椅子の後方に一段高くなった場所がありそこにある椅子が船長席だろう。


 壁の左右にはさまざまなパネルが埋み込まれていた。ケンが見てもよくわからないのも多い。ジャスミンが簡単にパネルの説明をしていくのを聞いていたケン。


『基本は私が運用しますのでケンの手を煩わせることはないと思います』


「そうしてくれると助かるよ。見たこともない機器が多いんでね」


 そう言ってから続けて


「一応聞くがこの船には武器は装備されているのか?」


『はい。レーザー砲が2門あります』


 2門なら問題ないだろう。対海賊用に一般の船も大抵武器は装備している。武器装備が大掛かりになると惑星によっては入港を断られる場合もある。


「船の操縦だけじゃなく戦闘もこちらから指示をすればやってくれるということで良いのかな?」


『はい。指示をいただければ全て私の方で実行します。運行も戦闘も全て可能です』


「ありがとう。運行、補修は良いが戦闘は無いことを祈ってるよ」


 ケンはそう言ってその場を離れ、3階に上がる。ここは基地と同じ様に居住区になっていた。廊下の左右に4部屋ずつ。合計8部屋がある。そして一番奥は船長室でこれは基地と同じ配置になっていた。


 3階を一通りみると1階に降りてエンジンルームを見る。基地と同じくNWP対応エンジンが備え付けられていた。船のサイズに合わせて基地のそれよりは小ぶりな作りになっている。入り口から入るとすぐに階段になっていたのはこの下層のエンジンルームを見せない為だろう。


「それにしてもよくまぁこんな辺鄙な小惑星群の中でここまで作ったもんだ」


 2つのエンジンに視線を送りながらケンが言った。


『ケン、そうではありません。この小惑星は元々はシエラ第1惑星の近くで製造されたものです。飛行艇やエンジンは基本設計を作ったあとこの空域に移動して完成形に仕上げられました』


 ジャスミンの説明によると博士はシエラ第1惑星から遠くない場所で基地を作成しそこでNWPエンジンを開発。エンジンのめどがついたところでこちらに移動してきた。実際の建設作業はジャスミンの指示の下でロボットが行い人間の関与はほとんどなかった。またカモフラージュのために周辺の隕石のかけらを集めては基地が入っているこの小惑星自体を大きくしたらしい。


『博士は情報漏洩を非常に気にされていました。この基地と中にある飛行艇についてシエラ第3惑星で知っているのは当時トップであった大統領と情報部の一部の方だけだとおっしゃっていました』


 どうやら完全に秘密裏にこの基地と飛行艇を建造したらしい。ファジャルの関与があからさまになってきた時点で博士はこのことを予想し大統領の許可を得て宇宙空間にて作業を続けて作り上げたと言う。


「大したものだ。と同時にそれほどファジャルを脅威に感じていたということになるな」


 ブルックス系しか知らないケンだが強欲ファジャルの悪名は知っている。相当神経質になっていてそれでもここまでの基地と船を製造したのか。やっぱりアンヘル博士は天才だったんだな。


 船内を見て回ったケンは一度船から出る。


「ところでジャスミン、俺の乗ってきた船は左のエンジンが動かないんだがこれは修理可能か?」


『わかりました。可能かどうか、まずケンの船のコンピューターとリンクさせます』


 しばらくすると


『リンク確立しました。相当古いコンピューターですね。今更新しています』


 すぐに


『更新完了。故障箇所がわかりました。これならこの基地の設備で修理可能です』


「ジャスミンが高性能すぎるんだよ。それで悪いが修理をしてくれないか」


『わかりました』


 アイリスがそう言うと格納庫にあったロボットやアームが動き出して修理を始める。それを見ていると、


『修理するということはケンはこの船に乗るのですか?新しい博士の船ではないのですか?』


「ああ。それだけどな。俺がこの新しい船を貰うのは何か違うんじゃないかと思ってるんだよ。博士はああ言ったけど本来の船の帰属先はシエラ第3惑星の人だ。チップを届けに行った時にその話をするつもりだ。それで向こうの人を船に乗っけてここに戻ってくる。それで俺の仕事は終わりだ。もちろんチップの内容を俺に言う必要もない」


『わかりました』


 ケンの話に答えるジャスミン。ケン自身はたまたまこの小惑星にやって来ただけで博士がいなくなった今この基地と船は博士の出身であるシエラ第3惑星の人に返すのが筋だろうと思っている。


 ジャスミンがその辺の自分の感情を理解しているかどうかは不明だがケンは今までも信義を重んじて商売をしてきたし、それでお客さんの信用を得られてきたと思っている。今回は商売ではないがそれでも考え方を変える気はなかった。


 シエラ第3惑星には博士の船で行き、現地でチップを渡したあとはあちらの人を乗せてこの基地である小惑星に戻ってきて引き渡そうと思ってるケン。彼はここの設備も新しい船も自分には過分なものだと思っていた。


 基地のメインルームに戻ってきたケン。


「ジャスミン、確認だ。俺のやるべきことは博士のお願いどおりにあの飛行艇にのってシエラ第3惑星に行き、そこでしかるべき人にチップを渡すという仕事をすれば良いってことだな?」


『その通りです。博士が開発した資料が入っているチップは飛行艇の中にあり私が管理しています』


「OKだ。着陸したら渡してくれ。俺はそれを持って然るべき人に会い、そしてあっちの人をここに連れて来て引き渡して終わりだ」


 自分達のアセット(資産)であったものを返還されて断ることはないだろうと思っている。


「ところでそのシエラ第3惑星にいるしかるべき人ってのは誰になるのかは知ってるのかい?」


『はい。シエラ第3惑星連邦軍参謀本部情報部です。担当者名も伺っています』


 ジャスミンが即答した。

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