第9話

それからは毎日魔法陣を覚えて起動させるという訓練が始まった

最初に訓練した魔法陣は給水や種火、光源などといった各属性の最初級魔法陣に分類されるもので、世間一般的に生活魔法陣と呼ばれるものだった

師匠がいうにはこの最初級魔法をしっかりと覚えるのが重要なのだと

魔法陣の形は簡単で難易度は高くはなかったがすべての最初級魔法を習得したときに師匠が新たな課題を出してきた


「最初級魔法を覚えたことだし、次はそれぞれの魔法の力を変えてみよ~」


師匠がいうには魔法陣の大きさ、魔力線の太さ、魔力の質によってその魔法陣がもつ力は増減したり、継続時間が変わったりするそうだ

そしてこの調整が僕には大きな壁となって立ちはだかった

今の状況を思い出していけばこんなに苦戦する理由がわかるだろう

(今僕が魔法陣を安定させて起動できるのは。実際に魔力を制御できているわけではないから魔法線を太さを変えるということができないんだ)

これは腕輪の副作用の一つである


「これを習得しなければこれ以上の訓練をすることができない。ソータが制御力を上げるのに苦労するのはわかっているよ~。だから焦らないでゆっくり進めてね。下手に高度なことをしようとしてももっと大変なことが起きるだけだから」


師匠は僕が焦っているのを分かっているからこんな言葉をかけてくれたのだろう

(確かに今焦ったところでいいことはないってことはわかる)

そう思いながらまた調整の練習を開始した


その姿を見てポティスもほっとしたような様子を見せた



   ◇◇◇



その日を境に訓練場には来なくてもいいことになった。調整をしている間は魔法陣を起動させることがないためわざわざ訓練場に来るよりも、リラックスできてより調整をしやすいとされている自身の部屋で練習するほうが良いということらしい。


というわけで暇な時間ができたとセリナさんは思ったのか城下町での買い物を体験しないかと誘ってきてくれた。どうやら買い物は実際に見てもらったほうがわかりやすいとのことらしい。好意を無下にするわけにはいかないので次の休みの日に城下町へ買い物に行くことになった


「まぁソータ様は最近さらに魔法と勉強に力を入れていらっしゃいますよね?社会見学とでも言いますかちょうど気分転換になりそうなので提案させていただきました」


セリナさんは僕以上に僕のことを理解しているみたいだった。僕自身ではそこまで無理をしているようには感じなかったが周りからはそう見えたのだろう

このことについて感謝するとセリナさんは


「専属メイドとして当然のことをしただけです」


とほほ笑んだ




そして次の休みの日がやってきた

セリナさんの格好はいつものメイド服と違い可愛らしい私服姿だった

白のワンピースに髪の色が映えていて綺麗だった

セリナさんに見とれていると、こほんっという声で現実に戻ってきた


城下町に降りるとそこはよく映画で見る中世の街並みと似た建物が立っていた

その街並みに興奮したのがわかったのかセリナさんはフフッと笑い


「少し観光名所を見て回りますか?」


と提案してくれた

もちろん見たいですと伝え観光名所めぐりが始まった



セリナさんは観光名所にも詳しく多くの場所を紹介してくれた


「ここにある像は過去に魔王を討伐したとされる勇者様の像です!」


「ここの時計台は世界最高峰ともいわれる建築家が設計したもので200年たってもどこも老朽化してないんですよ!」


「この花畑には世界でここでしか咲かない花が植えてあるんですけど今は咲く時期じゃないのでまた今度見に来ましょうか」


と話していると昼時になったのでここで何か食べましょうかと近くにある露店に近づいた


「それではここから買い物の仕方を教えさせていただきます」


「よろしくお願いします」


「まずは手本を見てもらいます。すいません店主」


「何だい嬢ちゃん。串を買うなら一本で5銀貨だぜ」


「先ほどそこの看板には3銀貨と書いてありましたが?」


「見てたのか嬢ちゃん。わかったよ3銀貨だ。ほら」


「えぇ。ありがとうございます」


とセリナさんは鮮やかに5銀貨から3銀貨まで値段を下げてしまった


「見てもらったようにぼったくりや値段の引き上げ、商品にいたっては偽物など騙しに来るところはかなりあります。もし一人で買い物をする際は気を付けてください。ではあちらの露店を見てください」


と言われたので別の露店を見るとそこにはパンを買っている女性がいた


「今何枚の銀貨を払ったか見ましたか?」


数えると2枚の銀貨を払っていた


「2枚ですね」


「その通りです。ではあの店からパンを買ってきてください。先ほど見せたように値段の交渉は忘れないでください」


というわけでその露店にやってきた

(さっき見たセリナさんのを思い出して)


「店主。パンを一つください」


「パン一つで銀貨4枚だ」


「さっきの女性には2枚で売ってましたよね?銀貨2枚で売ってください」


「ちっ、しょうがないな。ほら銀貨2枚だ」


意外とスムーズに交渉できたと思った

戻ってくるとセリナさんに素晴らしい交渉でしたと褒められてうれしいと感じた



城に戻ってくるといつも以上にすっきりとした状態になっていたので、気分転換をするのは大事なんだと実感した


「セリナさん今日はありがとうございました」


「お力になれたのたらよかったです。今度は花が咲いたときに行きましょう」



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