第39話 おっさん、防衛作戦を終える


 剣を抜いた。


 リッチの胸にはポッカリと穴が空いていた。


 死んだように見えるけど、消えていく様子がない。


「死んでいないのか」

「私には死という概念がありません。生きていないし死にもしないのです」


 そう答えてくるリッチ。


 それにしてもこのモンスター。なかなか会話ができるようである。


「なんか、人間のこと恨んでるように見えるけど、かと言って俺の事は襲わないし」


 そう聞いてみるとリッチは指を指した。


「私はあの街の者に恨みがあるのです。ですがあなたはあの街の人ではないでしょう?見慣れない外見をしていますし。この世界の人間でもないのでしょう?あなたを襲う理由はありません」


 どうやら俺が異世界からきたことを理解しているようだ。


「なんで恨んでんのさ」

「私は生贄にされたのです。かつて地獄穴には邪悪なモンスターがいました。それを倒してこいと街の者に突き落とされたのです。その結果私は闇の力に呑まれてこんな姿になりました。恨んで当然でしょう?私を落とした奴らを殺したいのです」

「それはひどいな」


 かと言ってこのまま我が道を行かれても困るわけである。


 今の依頼主はあの街そのものだし、裏切る訳にも行かない。


 かと言ってこの子は不憫ではある。


(なにかいい落とし所はないものか)


 そう思いながら話しかけてみることにした。


「今はかなり落ち着いてるように見えるけどどうして?」

「あなたに攻撃されて闇の力が抜けて、元々の自我を取り戻しているからです。ですがいずれこの傷は塞がってまた私は自我を失うでしょう。次は話せるかどうか分かりません」

「猶予は?」

「半日ほどはあるかと思います。今回つけられた傷はかなり大きい。修復に時間がかかります」


 半日あればなにかいい考えが思いつきそうなものである。


「早く私を殺すといいですよ」


 目を閉じてそう言ってるリッチ。


「ズタズタに斬りつければさすがに死にます」


 抵抗の意思はないようだ。

 しかし、さすがに俺もそこまで踏み切れないわけだ。


「要するに闇の力が完全に体から消えればずっとその人格でいられるわけ?」

「そうですね。ですが闇の力を消す方法はありませんよ?」


 俺はアイテムポーチから【神秘の薬草】を取りだしてみた。


 この前の竜王の巣に行った時の余り物だ。


「これで治らないかな?」

「なっ……神秘の薬草?!」


 俺の顔を見てきた。


「こ、これなら確かに消えるかもしれませんが……私に使ってくれると言うのですか?」

「うん。必要になればまた取りに行けばいいしねぇ」


 なんたって俺あそこの主と悪くない関係だし。


「で、でもそうやって私を喜ばせて後で落とすんですよね?『やっぱ、やーめた』とか言って」

「そんな事言わないよ?」


 俺はそう言って神秘の薬草を渡した。


「ほ、本当にくださると言うのですか?」

「うん」


 そう言うとリッチは薬草を自分に使った。


 その時だった。


 スゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。


 リッチの体から黒色が抜けていく。


 そして、白い肌が残った。


「な、治りました!」

「大丈夫そう?」

「は、はい」


 そう答えて目に涙を浮かべる女の子。


「あなたのおかげです。どうお礼を言えばいいのか」

「気にしないでよ。俺も宝の持ち腐れだったからさ」


 そう答えた時だった。


 上から声が聞こえてきた。


「タツヤさーん。他の拠点でもモンスターが消えていったみたいですよー」


 マシロがそう教えてくれてた。


 俺は女の子を見て言った。


「とりあえず上あがろっか?俺から説明するよ」

「は、はい。お願いします」


 俺は女の子を背負ってそのまま崖の上まで上がっていくことにした。



 作戦は終わり街に向かう馬車に乗っていたのだが俺は考えてた。


(この子大丈夫なのかなぁ?まだ恨んでないかなぁ?)


 ちなみにだが、馬車の中で暴れられても困るので俺とこの子の2人きりだった。

 他のメンバーは違う馬車にいる。


(念のため今の気持ちでも聞いとくか)


「あ、あのさ?街に行ってどうするの?」


 俺の悩みを消すように首を横に降った


「もう復讐なんて考えてませんよ。タツヤ様みたいに素敵な人に会えたので。それだけでどうでもよくなりました」


 そう言って俺の手を握ってきた。


「神秘の薬草は探すのもたいへんですし高価なものです。それを会ったばかりの私にくださるなんて、あなたの気持ちはしっかりと受け取りましたから。私も復讐なんてやめることにしました」


「それはよかったよ」


 これでとりあえずのところは安心できたな。


 そうして俺たちは街へと戻ることになった。


 街に戻ってくるとギルドマスターが女の子に頭を下げていた。


「話はタツヤさんから聞きました申し訳ない。我々のことは恨んでいるでしょうが、検査などを受けて欲しいと思っています」

「いいですよ。私もリッチになっていた身です。皆さんが不安に思うのも仕方の無いことでしょう」

「では、受けてもらえるのですね?」

「えぇ、もちろんです」


 彼女はそう答えてから俺を見てきた。


「タツヤさん、それでは。今回はありがとうございました」


 お辞儀をしてギルドマスターと共にギルドを出ていった。


(俺も久しぶりに宿に帰るか)


 疲れたよなぁ。


 けっこう忙しめの依頼だったし、ゆっくりと休んで疲れを取ろう。

 でも、


(リダスのやつどうなったんだろうな)


 雑魚に襲われて更にドラゴンの炎に焼かれた。

 生きてはいないと思うけど。


 まぁいいか。

 もう俺の知った話ではない。


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