第38話 おっさん、防衛作戦に参加する③


 俺たちは最前線の拠点までやってきた。


 すぐに指揮官がやってきて頭を下げる。


「すみませんタツヤさん。役に立てず」

「いや、気にしなくていい。相手が悪いだけだろう」

「た、タツヤさん……こんな不甲斐ない俺を許してくれるなんて」


 涙ぐんでいた。


 俺は谷の底に目を向けてみることにした。


(リッチは少しずつ近付いてきているようだな)


 そして、周りには次から次にモンスターが蘇生してきていた。


 そのときだった。


「甦れ……我が同胞……」


 谷の底から声が聞こえたような気がした。


「マシロ?なにか聞こえなかったか?」

「聞こえました」


 そのときだった。


 違う拠点の指揮官たちから声が上がる。


「うわぁあぁぁぁぁぁ!!!」

「なんだこれ!!!!」


 悲鳴が上がっていた。


 ギルドマスターが状況を説明してくれた。


「た、タツヤさん。こちらでもモンスターが蘇り始めました」

「蘇った?まだその辺まではモンスターは到着していないだろ?」

「それが、過去の防衛作戦で倒したモンスターが蘇生してきているようなのです」


 過去のものまで蘇生させているのか?


(たしか、過去の撃破数は毎回3000とかって話じゃなかったっけ?)


 最悪の場合。

 何万体もの数が蘇ることになる。


 で俺の悪い予感というのはだいたい当たるんだよな。


「俺が突っ込む」


 そのときだった。


「うぉぉぉぉおぉぉぉ!!!!」


 声が聞こえてきた。


 声の方を見るとリダスがいた。

 俺には気付くこともなくリダスは谷を降りていった。


「あいつを倒せば全部終わるんだよな?!俺がやってやるぅぅぅぅぅぅ!!!」


 叫びながら降りていったが、数秒後直ぐに雑魚モンスターの群れに呑まれてしまった。


 それから声が聞こえてきた。


「こいつらかてぇぇ!!!!なんでこんな硬いんだよぉぉぉぉお!!!うぎゃぁあぁあぁぁぁぁ!!!」


 悲鳴が聞こえてきた。


 何をやってるんだと頭を抱えたくなるが、


(いや、この状況ならあれが正しいか)


 状況が変わったわけだし。

 これからどれだけ雑魚モンスターが増えるか分からないしな。


 まだ少ないうちに勝負を仕掛けた方がいいか。


 そろそろ俺も降りるか?と考えていた時だった。


「あ、あれは……?」


 1人の男が空を指さしてた。


(空?)


 俺も気になって指さした方向を見てみたのだが


「おいおい、このタイミングで?」


 空をドラゴンが飛んでいた。


 数百匹くらいはいるだろう。


 その1番先頭を飛んでいるのはただのドラゴンではなかった。


「竜王じゃないかあれ」


 竜王の巣で見た竜王が先頭を飛んでた。


「あ、あれが竜王?!」

「な、なんでこのタイミングなんだよぉぉぉぉ!!」

「竜王が率いるドラゴン部隊まで相手すんのかぁぁぁあぁ?!!!」


 周りのヤツらも動揺していた。


(この状況でドラゴン部隊まで相手にするとなるとやばいぞ……)


 そう思っていた時。

 竜王は近くに降りてきた。


 そして口を開いた。


「人間」


 俺を見てた。


「我々は戦いに来た訳では無い。恩を返しに来たのだ人間」


 ぺこり。

 竜王は頭を下げた。


「お前は奈落の底まで落ちていくシルフを助け、そして体を治してくれたと効いた。恩人である」


 俺たちは全員予想外のことで固まったけど。


 俺はドラゴンに頼むことにした。


「この谷のそこにいる雑魚モンスターを焼いてくれないか?」

「承った」


 スっ!


 息を吸い込んだドラゴン。


【ドラゴンストーム】


 ブオッ!


 口から炎が吐き出された。


 谷のそこに居た雑魚モンスターは一瞬にして消え去った。


 しかし、肝心のリッチには大したダメージになっていないようだった。


 ダメージは食らっているようなんだけど、すぐに回復してしまっていた。


「そ、そんな。ドラゴンのブレスだって意味がないなんて」

「どうするんだよ?!あのリッチ!」


 周りのヤツらが騒ぎ出した。


 ドラゴンは腕を組んだ。


「今ので焼けないとなると【テイルスピア】くらいだな。だが我ではこの狭い空間に入っていけない」


 俺はドラゴンに言った。


「テイルスピアなら俺も使える」

「なにっ?」

「俺が下に行く。そして、あのリッチを倒す」

「なら雑魚モンスターは我に任せるがいい。すべて燃やしてやろう」


 俺はマシロに目をやった。


「あのドラゴンのブレスを無効化できるようなバリアは貼れる?」

「はい!おまかせを!」


 マシロが俺に魔法を使ってくれた。


 なんか、ちょっと固くなったようなそんな気がした。


「んじゃ、いってくる」


 俺は崖を降りていくことにした。


 所々突き出した岩があるのでそれを伝うと割と簡単に降りていけた。


 その間もリッチはどんどん雑魚モンスターを蘇生させていたが


「させはさんぞ!」


 ドラゴンたちがどんどんと燃やしてくれる。


 そんなわけで俺は谷の底まで降りた。


 それからリッチに目をやる。


(近くで見ると本当に人間?のようだな)


 リッチの姿は本当に人間のようだった。


 黒い教会服みたいなのを着ててシスターみたいな感じだった。


 髪の毛は金色で。


 ただし頬は一部ひび割れていて、欠けていた。

 中は空洞みたいに見える。


 人間と言われたら信じてしまいそうなほど人っぽかった。


「退きな、さい」


 リッチが口を開いた。


「やっぱ喋れるのか」

「当然でしょう、私は元人間ですよ。ふふふ。私は殺されてリッチへと変化したのです」

「え?」


 まじか。


 この見た目で元は人間なのか?


「なら、これ以上進むのをやめてくれないか?」


 フルフル。

 首を横に振ってた。


「私は私を殺した者共に復讐しにいくのです」


(あぁ、そういう、ね)


 なら話し合いも無駄か。


 ここで倒すしかない。


 俺はリッチに向かって近寄った。


 剣を引いて、槍みたいにして突き出した。


【テイルスピア】


 リッチが口を開いた。


「無駄ですよ。私の魔法は即時体力が回復します。それに防御力も高い。あなたでは私の体力を削りきれな……」

「残念だね。俺には防御無視っていうスキルがあるんだよ」


 ザシュッ!


「ば、ばかな……かはっ……」


 口から血を吐いたリッチ。


 俺の剣は深々とリッチの胸に刺さっていた。


 リッチの瞳は光を失いうつろになっていった。




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