第37話 おっさん、防衛作戦に参加する②


 なんの動きもないまま第一線の拠点の奴らが無双していた。


 数時間だ。

 数時間の間ひたすら第一線の奴らが大砲を撃っていた。


 ちなみにだが第一線の拠点だけで全部終わっているので後続の奴らは全員手持ち無沙汰である。


 そのため最終の拠点を引き受けていたギルドマスターなんかも今は通話に参加してきていた。


 バーン。

 バーン。


 ドカーン。


 そんな音だけが聞こえてきて眠くなってくる。


「ふぁ〜」


 アクビしてるとギルドマスターから声がかかる。


「余裕ですなタツヤさんは。さすがです。やはり指揮官は余裕を持っているべきですな」

「実際余裕だからねぇ今は。やることないし」

「それにしてもすごいですなタツヤさんの兵器は。モンスターが吹けば飛ぶような存在になっている」

「それもリッチが現れるまで、な気もするけどね」

「リッチのやつ来ないのでは?この大砲の雨に恐れをなしたのかもしれませんな。はははっ」


 ギルドマスターがそう言った時だった。


「むっ?なんだあれは」


 第1拠点の男が口を挟んだきた。


 俺は机に目をやった。


 今は第一の指揮官が見ている視界が移るようになっているのだが。


 どうやら谷の底を見ているようなのだが、その視線の先で何かが動いていた。


「ア……アァ……」


 地の底から響くような声が聞こえた。


 そして、死体が立ち上がった。


 さっきまで死んでいたはずのゴブリンだった。


「リッチがきやがったか」


 指揮官は呟いて大砲を放っていたヤツらに言った。


「怯むな!想定内だ!撃てっ!元々リッチの出現は言われていたことだ!」


 ドーン。


 グシャッ。


 砲弾が当たってゴブリンは粉々に砕け散った。


 だが。


「アァ……ァァァァァァァ……」


 粉々になったゴブリンが時が巻き戻るようにして生き返った。


「ば、ばかな?!あそこからでも生き返るのか?!」


 指揮官が再び砲弾の指示を出す。


 また潰れたゴブリン。

 しかし、また蘇生した。


「ひっ!」


 指揮官はビビっていたが俺は言ってやる。


「そのまま続けてくれ。ここまでは予想していたことだろう」

「す、すみません実際に見てみると驚きました」

「驚いたなら仕方ない。引き続き攻撃を」

「取り乱してしまいすみませんでしたっ!撃てっ!」


 そのまま砲撃を再開していく。


 しかし、撃っても撃っても蘇生してくる。


「いつまでやれば終わるんだ……?」

「奴が蘇生しなくなるまで撃つのをやめるな」


 俺がそう言った時だった。


 ドーン!


 砲撃が放たれた。


 しかし、ゴブリンは砕けなかった。


「なっ?!」


 指揮官の声。


「防御力又は体力が上がったっぽいな。もう一度頼めるか?」

「はい!撃てっ!」


 ドーン!


 次の一発で今まで通りゴブリンは砕けた。


 そのとき、マシロから声がかかる。


「タツヤさん。一匹強いオーラのモンスターが姿を見せました。リッチです」


 俺は頷いて指揮官に言ってやった。


「リッチが補足可能な範囲に入ったようだ。恐らくだがそれでさっきのやつの耐久力が上がったんだろう」


 例えば回復魔法というものがあるがこれは使う対象と使われる対象の距離が近ければ近いほど効果があがり、遠ければ効果が薄くなる。


 恐らくだが今リッチがこちらに近づいてくる来ているせいで灰のような状態からでも蘇生させられるし、耐久力が上がっているのだろう。


 そして、これもまた予想していたことだ。


 だが実際に見てみると、かなりのチート能力だ。


(なかなか厄介なリッチである)


 というより俺がモンスターをテイムできたりできればテイムするくらいのぶっ壊れ性能を持っている。


 が、残念ながら俺にそんなスキルは無いので諦めよう。


 いろいろと考えている間も指揮官が敵の軍勢に向かって攻撃しているが一向に成果は出ない。


「くそ!くそ!強すぎるぞ!何度壊しても復活しやがる」


 指揮官はそう言っていたが無理もないだろう。


 そして、迎撃を担当していた冒険者達も気持ちが揺れ動き始めた。


「いつまでやれば倒せるんだ。あの雑魚モンスター達」

「倒せるビジョンが見えねぇ」

「本当に倒せんのかよあいつら……」


 倒しても倒しても蘇るモンスターたちに、心がすり減ってきているようだ。


 そのとき、指揮官が声を出した。


「り、リッチだ!リッチが見えたぞ!」


 机の上の画面に目を戻すと谷の奥の方にリッチが出現したのが見えた。


 こっちに歩いてきている。

 歩く速度はかなり遅い。


 そして、リッチがこちらに向かって来る度に蘇るモンスターの数が増える。


(俺の予想通りだったか。奴が近付けば近付くほど蘇生する数が増える)


 指揮官が指示を出した。


「撃てっ!」


 ドーン!


 砲撃が飛んでいく。


 そのとき、リッチの前方に壁が出来ていた。


(魔法によるバリアか)


 当然の話だが、リッチには有効打になっているように見えない。


 というより、ダメージになっているように見えなかった。


「なんて硬さなんだ」

「くそっ!」


 そんな声が聞こえてきた。


 だが、指揮官たちは諦めていない。


「撃て!リッチを止めろ!」


 どんどん大砲を使ってリッチを攻撃していくが、特に戦果は上がらないようだ。


 だが俺はその間も考えていた。


(やっぱり、そうだよな)


 先程から蘇るモンスターやリッチを観察していて分かったことがある。

 それは奴らの進軍が思ったより遅いことである。


(このままここで足止めしていればドネスまで行かれることはないだろう。しかし、いつまでやれば倒せるかが分からない)


 極端な話をするとこのままここで一年防戦することになるかもしれない。

 そう思い出すと指揮官たちの動揺も分かるってものである。


(やはりプラン1で続行すべきだな。ここまでもプラン1前提で動いてきてるし)


「指揮官」


 俺は指揮官に指示をだすことにした。


「どうしました?タツヤさん」

「俺が前に出よう。やはりリッチを直接叩いた方が早そうだ」


 リッチ以外のザコ敵は全てリッチの支配下にある。


 ならリッチを倒してしまえば奴らはもう動かなくなる。


「俺がリッチを倒す。援護は任せよう」


 俺はそう言ってマシロを連れて拠点を出ることにした。

 俺は攻撃しか出来ることがない。




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