第36話 おっさん、防衛作戦に参加する①


 数日後。俺は拠点の中にいた。


 理由はもちろん防衛作戦に向けて、である。


 まだまだモンスターの姿は見えない。


 ちなみにだが戦場の様子は魔法道具で知ることができる。


 なんでも、使い魔を上空に飛ばしてそれが送ってくる映像を机に映し出しているらしい。


 意外とハイテクである。


 映像を見ながら色々と考える。


(接敵まで残り数時間ってところか)


 俺が状況を整理していると拠点で待機してる奴らから声が聞こえてきた。


「それにしてもラッキーだよなぁ、今回はタツヤさんがいてくれて」

「そうだよなぁ。前回まで拠点に屋根なんてなかったしなぁ」

「太陽が照らしてる中棒立ちして待機とか今考えたら、異常だったよなぁ」


 なんて意見が聞こえてくる。


 どうやら俺の拠点はかなり好評なように見える。

 まるで自分の家のようにくつろいでいるやつもいた。


 まぁ、くつろぐなとは言わないので好きにしてくれていいのだけどね。


 それにしても俺が作った拠点がこんなにも受け入れられていることの方が嬉しいくらいだった。


 でまぁそんな状況だからだろう。

 作戦に参加する冒険者たちの緊張もかなりほぐれているように見える。


(この調子だと大丈夫そうだよな)


 そう思いながら俺は机のモニターとにらめっこしていた。


 すると、マップに表示されていた谷にマークがひとつ浮かび上がった。


(赤い点が浮いたな)


 赤い点が浮いたら敵が探知範囲内に入ったということである。


 つまり、


(そろそろ始まるわけか)


 俺は拠点にいた冒険者たちに声をかけた。


「そろそろ防衛作戦を開始しようと思う。各自戦闘準備を頼む」

「「「りょーかいっ!」」」


 ちなみにだが俺が預かっている拠点はここだけだ。


 実際にはここと同じような拠点というのはいくつかあって、その一つ一つに俺と同じような指揮官がいる。


 そして、俺のいる拠点は第一線ではなく、第2線くらいの位置の拠点。

 後ろには第3、第4と拠点がある。


 数が大きくなるほど重要度が上がる。


 そして、責任も重くなる。


 俺はギルドマスターの言葉を思い出していた。


『最終の拠点をお任せできませんか?タツヤさん』


 ギルドマスターは当初俺を1番大事な拠点の指揮官にしたかったみたいだが、俺には荷が重いということで、妥協してここに置いてもらった。


 実際のところ指揮官なんてやるの初めてな訳だし。


 なんなら俺はこんな指揮官なんて仕事引き受けたくなかったくらいであるのだが。


(何事も経験してみるってのは大事だしなぁ)


 ってことでいい機会ということで指揮官をやらせてもらう事になった。


 これから先この経験が活きるかもしれないし。

 フリーランスを続けるのであれば、いろいろ経験しておきたかった。


 まぁそんな色んな要素が絡み合って俺は今この拠点にいる。


 チラッ。


 現実に意識を戻して俺は冒険者たちを見た。


「モンスターがここまでくるのにしばらく時間がかかるだろうが、準備が整った人間から俺の指示通りに動いて欲しい。なにをやるかは事前に教えたよね?」


 俺がそう言うとエリザが答えてくれた。


「任せてくれ。もう何度も作戦については聞いたからな」

「うん。任せたよ」


 ふぅ。

 ため息を吐いて椅子に座り直すと第一線の拠点から連絡が入った。


「タツヤさん?」


 連絡だが使い魔によって行われる。


 各拠点に置かれており使い魔を通すと即座に会話がでこる。


 俺は使い魔に声をかけた。


「なに?」

「敵軍はまだ遠いですが、既に交戦を始めております」


 戦いのセオリーで言うならギリギリまで引きつける、というのもあるだろうが、今回物資は実質無限なので敵が見え次第攻撃する、という方針で固めている。


「どんな感じだ?敵の感じは」

「今のところいつもの防衛作戦って感じですね。特段難易度が上がっているようには見えませんが」

「ふむ。ならばよかった」

「このまま進んでくれるといいんですがね。ははは」

「ところで、大砲の調子はどうだ?早めに使ってくれてるんだろうな?」


 大砲だが全拠点に置いてある。


 レッカが急いで数を用意してくれたのだ。


 さすがである。


「既に使ってますよ」


 ドーン!


  向こうから音が聞こえてくる。


 たしかに既に使っているようだ。


 ちなみにこの世界の大砲だがせっかくなので魔法を使って使えるようにしてある。


 大砲はただの強力な魔法を使うためだけの道具にしてある。


「タツヤさん考案の大砲、そしてこの弾。すごい強さですわ。モンスター共がどんどん溶けていきますわ」


 笑いながらそう報告してくる第一線の指揮官。


 実に愉快そうな笑い声だ。

 指揮官がさらに話してくる。


「テスト時も威力には驚きましたが、ほんとにすごい。かなり遠距離から攻撃を当ててもモンスターが倒れますからねぇ」


 そのテストにはもちろん俺も付き添ったのだが、現地民たちは全員驚いていた。

 で、その威力は今回の作戦でも健在らしい。


「この大砲って兵器はこの防衛作戦が終わっても使われ続けるでしょうなぁ。ぬわっはっはっは」


 本当に愉快そうなやつである。


 恐らくだが、モンスターがサックサク倒れるので大砲を使うのが楽しいんじゃないだろうか?


 俺はそう予想している。


 今まで苦労していた敵をサクサク倒せることで爽快感を覚えてるんだと思うんだよなぁ。


(俺もその気持ちは分かるなぁ。チート使って敵倒すの気持ちいいしなぁ)


 ゲームでも今まで苦戦してた相手をチートでねじ伏せる瞬間というのは楽しいものだった。


 この指揮官は今その楽しさを感じているのだろう。


 指揮官は俺に話しかけてくる。


「タツヤさんの大砲が強すぎて。敵無しですわ。他の防衛拠点の人達にも言ってあげてくだせぇ。お前らの出番ねぇかもなぁって」


 ゲラゲラ笑ってた。


 しかし俺は指揮官に言ってやる。


「あまり調子に乗るなよ?戦場は何が起きるか分からないからな」

「大丈夫ですって。タツヤさんの大砲が強すぎて奴ら近付いてこれてねぇですわ」


 その時パッと机の上の映像が変わった。


 どうやら向こうの指揮官が俺に映像を見せてくれているようである。


 そこにはモンスターの大軍が映っていて飛んでくる大砲にナスすべもなくやられている様子が映された。


「こんなんですよ?モンスターからしたらイジメですよイジメ。すみませんタツヤさん。タツヤさんの出番もないかもですわ、これ」

「俺の出番がなければそれでいいんだよ。座っているのが一番楽だからね」


 今回の依頼の報酬だが固定報酬というものがあって、それがかなり高い。


 んでその固定報酬というのは俺が何もしなくても貰えるものなので、別に極論俺抜きで終わるのならそれでもいいと思えるレベルである。


 で、映像を見ていると実際今回は俺がなにもしなくても勝てそうな勢いで敵の数が減っているようである。


(今回の依頼は楽勝かもなぁ。そんでもって、ロード・リッチも案外たいしたことないかもなぁ。なにより敵モンスターが生き返る様子は無い。大砲で粉々にされて蘇生もできないのかもな)


 そうなると、事前に予想されていた討伐予定数から実際の討伐数はかなり下がることになる。

 その結果作戦全体が楽になる。


 俺はそう思うようになっていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る