第35話 おっさん、作戦の立案を依頼される


「おっさん、俺だ。覚えてるよな?」

「覚えてるよ」


 ギリッ。

 歯を食いしばってリダスは言ってきた。


「俺の依頼受けてくれないか?ルインってやつが付きまとってきて消えねぇんだよ」

「ルイン?」


 俺は首を傾げた。


 付きまとうと言ってるけど、こいつの周りには特になにかいるようにも見えない。


「クロイドも死んだ。次は俺が殺されちまう。頼む除霊してくれ。依頼の達成率100%だと聞いた」


 頭を下げてきた。


 だが俺は首を横に振った。


「ははは。受けないよ。受けるわけないじゃん。逆に俺がなんで受けると思ったの?」


 鼻で笑ってから言ってやった。


「ところであの時俺に言ったよな?『お前みたいな無能に依頼頼むやつなんていない』って。その言葉は忘れた?」


 するとリダスは言ってきた。


「そうかよ。クソ野郎。相変わらずだなあんたは」

「その言葉そっくりそのまま返してあげるよ」



 リダスはギルドを出ていった。


 それとほぼ同時くらいのタイミングだった。


 ギルドマスターの叫び声があがった。


「なんだとっ?!」


 その声はギルドの中全体に響き渡った。


 全員の視線がギルドマスターへと注がれることになった。


 もちろん俺もギルドマスターを見ていたのだが、向こうも俺を見た。


 カウンターから出てきたギルドマスター。


 俺の前に来ると言ってきた。


「すみません。タツヤさん。新しい仕事が入ったのですが依頼してもよろしいでしょうか?本当に緊急の仕事です」


 俺は頷いた。


「もちろん。いいよ」

「ありがとうございます」


 そう言うとギルドマスターは言ってきた。


「拠点の件については既に話を聞いています。なんでも我々の知らない知識を使い拠点を作ってくれた、と。タツヤさんであれば我々の知らないような知識をもっと存じているのでは、と私は思っております」


 そこで、とギルドマスターは続けてきた。


「もしかしたら我々の知らないような兵器なども知っているのではないでしょうか?」


(兵器か)


 俺は頷いた。


 この世界では見たことがないような武器をとりあえず口にしてみることにした。


「大砲とかっていうのがあるね」

「大砲?聞いたことがありませんが」


 俺は図を用いてギルドマスターに大砲の説明を行った。


「なるほど。こういうものがあるのですね。やはりあなたになら託せそうだ」


 そう言ってギルドマスターは俺に依頼書を渡してきた。


【防衛作戦の作戦を考えて欲しい】


「防衛作戦の作戦はもうあるんじゃないのか?」


 フルフル。


 首を横に振った。


「それが、台無しになってしまったのです」

「どうして?」

「防衛作戦についてなのですが、敵戦力が大幅に増えてしまったのです」

「どれくらい?」

「軽く10倍は増えました」

「10倍?!!」


 えらく増えたようだが。


(なんでまた10倍も増えたんだ?)


「前回までの防衛作戦の平均討伐数が3000程なのですが、今年は更に10倍。3万になると思われます」

「なんでそんなに増えたの?」

「敵に【ロード・リッチ】という固有モンスターが確認されたのです」

「ロード・リッチ?」

「全ての魔法を扱えると言われている最強のリッチです」


 例えばどんな魔法を使えるのだろうか。


 一体増えたたけでそんなに厳しい戦闘になるのなら……


「蘇生魔法を使えたり?」

「使えるようです。死んだモンスターを蘇生させることができるようです」

「さすがに回数制限はあるんだよね?」

「はい。最強のリッチと言えどいずれ魔力は尽きます」

「となると、耐久戦よりに作戦を組んだ方がいいだろうな」


 俺がそう答えるとギルドマスターは資料を渡してきた。


「モンスターの軍団についての資料です。なにかの役に立ててください」


 資料を受け取ると俺はさっそく机に紙を広げて作戦を練ることにした。



【ロード・リッチ】

アンデッドの王であり、死んだ仲間すら使役することができる危険なモンスター。

危険度:SSS


ステータス

レベル:258

攻撃力:185

防御力:358

体力:9850



(敵の大将みたいなところか)


 こいつを残していれば厄介だが、逆を言えばこうなる。


(こいつさえ消してしまえば、楽になるだろうな)


 となると。プランを1つか2つか用意しておこう。


 プラン1は序盤でこいつを集中狙いして速攻で倒してしまう作戦、だが。


(意外と体力多いんだなこいつ。グランドゴーレムは体力が少なかったみたいだが……こいつは多い。速攻で撃破というのも難しいそう、か?)


 そして、プラン2は。


 こいつが蘇生させた敵を退けながら、リッチの魔力切れを待つ作戦、だが。


(俺はこの作戦に参加するヤツらのレベルを知らないし、向こうのレベルも分からない。ジリ貧になる可能性も否定できない)


 となると、序盤でこいつを倒すのが1番楽だと思う。


(とりあえずプラン1で作戦を立てていこうか)


 プラン1で失敗しそうな場合はプラン2となる。


 基本的にはプラン1で押し通すつもりなので、完全なる保険である。


(モンスターの大群はそうだなぁ)


 リッチに関しては煮るなり焼くなり、叩くなり切るなりで倒せるだろうが、大量のモンスターだけはそうもいかないと思う。


 一匹一匹倒すのは手間でしかないので。


(大砲、作れるなら作ってしまうか)


 そんなことを考えていたらリッカがやってきた。


「タツヤー私になんかできることないかなー?」


 ちょうどいいタイミング出良いことを言ってくれた。


「レッカにこういう筒を作ってくれるように頼んでくれないか?」


 俺は大砲の図を軽く書いて渡した。


「うん、任せて。頼んでみるよ」


 これで大砲が完成すればかなり楽になりそうなビジョンが見えてきた。


 で、リッチの件についてだが。


 俺はステータスを呼び出した。


 ちなみにだが俺はこのステータス画面を見るのが久しぶりである。



名前:タツヤ オノ

レベル:170

攻撃力:180(+450)

防御力:170

スキル:防御無視

ボーナスポイント:200



(レベルが足りないが)


 ふむ。


(合計の攻撃力630か)


 この世界の与ダメージ計算だが(自分の攻撃力-敵の防御力)であることは知っている。


 だが俺だけは例外だ。

 敵の防御力を無視することが出来るので630ダメージをまるまる与えることが出来る。


 で、単純計算15回くらい攻撃当てればリッチを倒せるはずなんだが。


「とりあえず、ボーナスポイント使ってみるか」


 攻撃力を更にあげようと思う。


 ここまで活動してきたが正直この世界、攻撃力以外のステータスの価値は低いというのが俺の率直な感想だ。


 防御力は敵の攻撃に当たらなければ問題ない。


 0でも100でも変わらない。

 当たらなければ問題ないのだから。


 そして俺は敵の攻撃力を躱す自信はあった。

 ゲーマーだからである。


 だから


【ボーナスポイント200を割り振って攻撃力を380にします。よろしいですか?】


→はい  ・いいえ



 俺は迷いなく【はい】を押して攻撃力を更に底上げすることにした。


 これで合計の攻撃力は830。


 必要な攻撃回数は12回ほどになったはずだ。


 俺の1回の攻撃がだいたい1秒くらい。


 12秒間攻撃を避け続けるなんて俺にとっては別に難しくない話である。


 この勝負。

 始める前から結果は見えているような、そんな気がした。


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