第33話 おっさん、穴を掘る


「ふぅ……」


 剣を収めた。


 周りから声が聞こえてくる。


「すげぇな、タツヤさんってあんなに強えんだ」

「てかあの剣もすげぇ切れ味よさそうだな」

「リッカ工房ってとこの武器なよかぁ、今度行ってみようかなぁ」

「タツヤさんと同じ武器使いてぇ」


 さっそく俺が武器を使うことによる宣伝効果が出ていたようだった。


(それにしても俺と同じ武器を使いたいか、俺もすっかり昇進してしまったようだな)


 俺がそう思っていると周りの冒険者たちが俺を見ていた。


「強えなぁタツヤさん」

「憧れるわぁ」


 憧れられてた。


 なんかむず痒い思いをしてしまうな。


 俺はスコップを手に取るとさっそく穴を掘ってみることにした。


「よっ」


 俺が穴を掘るとまるでプリンにスプーンを入れるようにさっくりと入る。


 スキル【防御無視】のおかげだ。


 スコップに土を乗せてそれを別のところにどかす。

 更に深さを出していく。


 掘っては土を出してを繰り返していく。


「タツヤさん、俺らも手伝いますよ!」

「スコップ持って同じように掘ってくれるか?」

「うっす!」


 冒険者たちが俺の隣で穴を掘るのを手伝ってくれ始めた。


 ありがたいものだ。


「よっ」

「ほっ」


 男たちの声が響くが、


「タツヤさんすげぇなぁ。こんな硬い土よく掘れるなぁ」

「体は細いのにどこにあんな力あるんだろうなぁ」


 そんな声を聞きながら俺は穴を掘っていく。


 今のところどういう穴を掘るかは決めている。



【設計図】


→=階段


 ↘    ━━━━━━━━━━━━━━(天井)

  ↘

   ↘

    ━━━━━━━━(床)



 みたいな感じの簡単な穴ぐらを予定している。


 で、もし、プライベート空間が欲しいのであれば中にテントを設営してもいいかなと思っているが。


(たしか、この拠点は寝る以外だと治療に使ったり、食事に使ったりするんだよな?)


 そこそこ大仕事(?)なわけだし今まで以上に手は抜きたくないと思う。


 それに人はいてくれているので、人手不足ではないし、いろいろやりたいことはやれるはずなのだ。


(せっかくだしやっぱり妥協とかはしないでいきたい)


 理想としてはどんな人が見ても『これらすごい』って言わせるような拠点作りだ。


「よし」


 俺は昔に動画サイトで見た海外の人が穴を掘って家を作っていた動画を思い出した。


 なんか、その人たちはプールのスライダーとか、色々作っていた気がする。


 とりあえず、テーブルでも作ってみようと思う。


 本来床にするはずだった場所を更に深く掘り下げてみることにした。


 形としては【山】型のように穴を掘っていった。


「なにしてるんですかい?タツヤさん」


 そう聞かれて俺は答えた。


「テーブル作ってるんだよ」


 穴掘りが終わった。


 テーブルができた。


「おぉ!これはたしかにテーブルだ」


「ここで食事するならやっぱ必要だよね?」

「必要ですが、立ったままでもいいのに」

「休める時は休まないとだめだよ」


 俺は笑ってそう言ってやる。

 ご飯食べる時はゆっくり食べようよという話だ。


 さて、次は


「風呂でも作ってみるか」


 俺は同じように風呂を作ってみることにした。


 で、俺は近くにいた冒険者に頼むことにした。


「すまん。そのあたりにテント立ててもらえるか?あと向こうの方だな」

「任せてくだせぇ!」


 冒険者たちは俺の指示通りにテントを立ててくれていた。


 俺は必死に風呂になる場所を掘って行った。


 まさか動画サイトで見た秘密基地作りみたいなのが役に立つ日がくるなんて思わなかった。


(ありがとう!外国人の人たち!)



「ふぅ、風呂も終わったなぁ」


 風呂の作成が終わった。


「他に何か欲しいものはないかなぁ?」


 うーん。


 悩んでるとマシロが声をかけてきた。


「タツヤさんまだ大事なものが出来ていませんよ」

「え?大事なもの……?」


 そう聞いてみるとマシロは言った。


「ベッド、作ってませんよ。ここでは休息も取るのです。必要ですよ。けが人を休ませたりするのにも使いますし」

「ベッド?土で作るの?」


 うーん。


 机なんかは固くても大丈夫だと思うけど、ベッドを作るのか?


(俺としてはそのへんはテントの中に寝袋入れたりで、済ませようと思ってたんだけどなぁ)


 そう思ってるとマシロは言った。


「私が魔法使いなの忘れていませんか?土を柔らかくしたりくらいはできますよ」


 にっこり笑ってた。


 試しにそばにあった岩に魔法を使うマシロ。


「【ソフト】」


 魔法を使ったマシロ。


 そのまま岩に近寄って指で岩を触ると。


 むにゅ〜。


「へっこんだ?!」

「はい、こんなふうに岩も柔らかくすることができますよ」


 魔法ってすごいなぁ。


 俺も岩に指を当ててみた。


 普通なら沈まないはずの指が岩に埋もれていく。

 めちゃくちゃ柔らかい。

  表面はツルツルしてるし。

 クッションみたいだ。

  肌にも優しそうだ。


「へぇ、これだとたしかにベッドも作れそうだなぁ」


 俺は今度はベッドを作成して行くことにした。


 そのとき、マシロに聞かれた。


「こちらの風呂には水を入れてみてもいいですか?」

「そうだね。先にちゃんと使えるかテストしないといけないし、いいよ」


 俺がそう言うとマシロの声が聞こえた。


【ホットウォーター】


 ドドドドドドド。


 水が風呂に入っていく音が聞こえていた。


 俺はそんなこと気にせず脇目も振らずにベッド作りに勤しんでいた。


 そのとき、エリザが近寄ってきた。


「なぁタツヤ。ここの拠点はそろそろ完成するように見えるが、他の者たちには別の拠点作りに行ってもらうか?」

「そうだね。頼める?」


 俺がそう言うとエリザは他の冒険者たちをまとめて外に出ていかせた。


 この拠点に残ったのは俺とマシロ。

 それから少し離れたところで入口を監視するように立っていたエリザ。


 しばらくするとベッドも完成した。


 そのとき、マシロに声をかけられる。


「タツヤさん、お風呂入ってみましょうよ」

「うん?」


 俺がマシロを見てみるとマシロは俺の手を引っ張ってった。

 向かうのは風呂の方だった。


 風呂からは湯気が出ていてけっこうあっかそうなのが分かった。


 十分使えそうな風呂だった。

 そう思ったのだが、マシロはまだ手を離さない。


「ほら、ちゃんと使えるのか私たちがテストしましょうよ、ベッドも、ね。服脱いでくださいね」


 マシロは服を脱ぎ始めた。


 俺はこの時になって気付いた。


(あっ……)


 エリザが他の奴らを出ていかせた理由。

 そしてエリザが出入り口を監視している理由。


(あいつ、こうなるのを察してたのか!)


 その後俺は風呂のテストとベッドのテストをマシロと行うことになった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る