第29話 クロイド、失う【クロイド視点】

【クロイド視点】


 タツヤがアリスの依頼を完了させた翌日。

 クロイドは何も知らずにギルドへ訪れた。


 いつもの時間、いつもの場所。


 この状況から導き出されるものは、いつもの結果だ。

 今までもそうだった。


 だからクロイドはなにも考えずにカウンターに向かい声をかけた。


「俺宛に来ているものを出せ」

「クロイド様ですね」

「早く出せ」

「今日は出せるものがありません」

「は?」


 クロイドは絶句した。


 いつもなら見るのも嫌になるくらい依頼の山が届いているのに、今日は届いてないというのだから。


「どういうことだ?」

「クロイド様宛に一通も届いていません」

「ふざけるな!そんなことがあるわけないだろう!」


 ダン!

 カウンターを叩いたクロイド。

 受付嬢が答える。


「本当です。届いていません」

「なぜだ?!何かあったのか?!」


 受付嬢が言った。


「昨日から新システムを導入したのですよクロイド様」


 スっ。

 受付嬢は例のオススメフリーランサーの紹介を指さした。


「タツヤ オノ?知らんな。だが、エリザ・スカーレット?こいつは知っているぞ」


 受付嬢が頷く。


「2人を始めとしたおすすめのフリーランサーをギルドで紹介させてもらうことにしたのですよ」

「なぜ俺を紹介しない?言ってみろ」


 ギルドの中から声が上がる。

 この場にいる冒険者たちの声。


「お前の評価が低すぎだからだよ。そんなことも分かんねぇのかよクロイド」

「は?」


 ズカズカズカズカ。


 男に詰め寄ったクロイド。


「評価が低くても俺は誰よりも依頼を達成している。実績があるだろうが」


「その実績に価値がないから依頼が来ないんだろ?おすすめされてるタツヤを見てみろよ。高評価100%だぞ?なんで高評価25しかない、お前をギルドが紹介するんだ?普通しないだろ?」


「高評価に価値などない。仕事なんて終わればいいに決まっているだろ」

「終わればいいって思ってる奴がいるなら依頼届くはずだろ?」


 男がそう言った時別の女から声が上がった。


「そういえば私あなたに依頼したことあるけど、覚えてる?」

「覚えてねぇな」

「鉱石の運搬を頼んだんだけど届いた時傷まみれだったわ。その後すぐに壊れたし、どんな扱い方したらあんなことなんの?」

「知らねぇよ。運搬系は全部投げてるからな。俺だけじゃねぇ、他のやつも全員投げてるぜ?客から見えてないところでていねいに扱われてるとでも思ったのかよ?」


 そこでひとりの女が口を開く。


 エリザ・スカーレットだった。


「昨日私はタツヤに同行したが、彼は鉱石をていねいに梱包していたぞ?お前と一緒にするなクズ野郎。見たことがないくらいにていねいにやっていた。私以外誰も見ていないのに、まるで卵でも扱うかのようにな」


 エリザはそれから続けた。


「お前昨日少女の依頼を破っていたな?」

「それがどうした。俺の書いてやったルールも読まねぇやつ相手にしなかっただけだろうが」

「お前あの子の境遇を知っていてやったのか?あれを」

「たしか姉貴が病気なんだろ?知ったこっちゃねぇよ。俺は困ってねぇし。だいたい500ジェルしか払えねぇのに、竜王の巣なんて行くわけねぇだろ。行くやついるのかよ?!」


 鼻で笑っていたクロイド。


 そのときだった。

 鋭い声が飛んだ。


「クロイド。貴様は少女の境遇を知っていてあんな真似をしたのだな?」


 かつ。

 かつ。

 かつ。


 足音が響く。


 誰かがカウンターから出てきた。


 クロイドはおそるおそる足音の方を見た。

 そこに立っていたのは


「ギルドマスター?」

「そうだクロイド。そして俺はお前にとって死神とも言えるだろうな」


 ギルドマスターは重くこう言った。


「フリーランスには普段は干渉をしないのだが、貴様を冒険者ギルドから追放処分とする。今後一切ギルドへの立ち入りを禁ずる。こちらで預かっている金も全て没収だ。もちろん世界中のギルドにも連絡を行う。全て立ち入り禁止。破れば死刑」

「なんの権限があってそんなこと言ってやがる?!お前は!」


 ギルドマスターは口を開いた。


「分からないか?クズ野郎。ギルドに登録した時同意書に書いてあったはずだ。『冒険者になったとき、ギルドの信頼を失墜させるような行動はしません』。調子に乗りすぎだ貴様」

「お前らも同類だろ?!俺の行いを知ってて何も言わなかったんだろ?!」

「今までお前は稼いでいたからな多少の言動は目を瞑っていたが昨日のはやり過ぎだ。よって、追放」


 クロイドは吠える。


「てめぇら!俺がどれだけギルドに貢献してやったか分かってんのか?俺が受けなかった依頼も回してやっただろ?!その分の稼ぎもなくなるぞ?!」


 ギルドマスターは笑った。


「なにがおかしい?!答えろギルドマスター、」


 ギルドマスターはタツヤの写真を指さした。


「タツヤさんは素晴らしい。昨日お前が出て行ったあとタツヤさんは親身に少女の話を聞いて500ジェルで竜王の巣に向かったんだよ」

「は……?馬鹿だろそいつ」

「だが彼の行いは人々の心を掴んだ。昨日一日で彼に届いた依頼の数は500を超える」

「なっ……500?お、俺の10倍だと?」

「そんな心優しい人がいるのだから今度こそお前は必要なくなったんだよクロイド」


 ギルドマスターは職員に目配せをした。

 

 職員がクロイドの両脇を掴んだ。


 そして、ギルドから追い出そうとしたがその時クロイドは拘束から抜け出した。

 メモ用紙を取りだしてなにかを書きなぐった。


「嘆願書を書いた!受け取ってくれ。もう一度チャンスを」

「ふむ」


 ギルドマスターは嘆願書を受け取って言った。


「30秒……。貴様がこの汚い字を俺に読ませて不快にさせた秒数だよ」


 ビリッ。

 ギルドマスターはメモを引きちぎり紙吹雪のようにクロイドの頭の上に降らせた。


「叩き出せ」

「「はっ!」」


 クロイドはギルドから叩き出された。


「くそが!」


 クロイドは地面を蹴って歩き出した。


 その時だった。


「よう、クロイド」


 ガッ。


 クロイドは腕をつかまれて路地裏に連れ込まれた。


 クロイドを路地裏に連れ込んだのはガタイの良いスキンヘッドの男。


「俺のこと覚えてるか?」

「覚えてるわけないだろ」


「俺はお前に護衛任務を頼んだんだよ。でもお前は途中で割が合わねぇとか言って、俺を見捨てて逃げやがったよな?そのせいで俺は左腕失ったんだわ」


 こんこん。

 男は持っていた剣を振り上げた。


「死ねクロイド。お前はもうギルドにも守ってもらえねぇぞ?」

「んぎゃぁあぁあぁぁぁぁあ!!!!」


 クロイドの絶叫が響いた。


 クロイドは路地裏に体を横たえた。


 急激にまぶたが閉じていく。



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