第28話 おっさん、帰ってくるとやばいことになっていた


 俺は街に帰ってくると酒場に寄った。


 酒場の隅でアリスが座って待っていた。


「お待たせアリス」


 声をかけながら近付くとアリスが顔を上げた。


「おじちゃん、もう帰ってきたの?!」

「あぁ。横のお姉ちゃんが頑張ってくれてな」


 シルフを指さした。


「えっへん、ドラゴンは偉い」

「ドラゴン?」

「一人称がドラゴンなんだってこの人」


 俺はアリスに言われていたものを渡した


【神秘の秘薬を渡しました】


「わぁぁぁあ!!ありがとうおじちゃん!さっそくお姉ちゃんに飲ませてみる!」

「もしまだなにか俺に用事があるならギルドに来てよ。いなかったら伝言頼んで」

「うん!」


 笑顔で喜んでアリスは帰って行った。


(いい事をしたら気分がいいなぁ)


 その上お金まで貰えてしまう。


 なんていい事づくめなんだ、フリーランスってやつは。最高だ。


(おっと、それよりギルドに行かないとな。もしかしたら依頼が来てるかもだし)


 と、その前に。


 今は夕方だ。

 少し早めの夕食にしよう。


 食事を終わらせるとギルドに来た。

 カウンターに一直線で向かう。


「タツヤさんですね」


 ニッコリ笑っていた受付嬢。


 なにかいいことでもあったのかな?

 そう思っていたら受付嬢は続けた。


「さきほどアリスさんから連絡がありました『お姉ちゃん治った!』ってだけ言ってましたよ」

「おー、もう使ったんだ。それにしても効果あって良かったー」


 正直内心ヒヤヒヤしていたが治って良かった。


 俺がそう思っていると受付嬢は声を潜めた。


「それより大変なことになっていますよタツヤさん」

「ん?大変なこと?俺なんかまずいことやった、とか?」


 そう聞くと受付嬢はカウンター下のスペースに手を入れて


「ジャジャーン!」


 カゴを取りだしてきた。


 カゴの中にはいっぱいの手紙と紙が入っていた。


 カゴの大きさはかなりでかい。

 受付嬢が両手を広げて抱えるようなサイズだ。


「なんですか?そのカゴは。中に何が入ってるんです?」

「これ、全部依頼ですよ!依頼!」

「え?」


 ポカーン。


 口を開けた。


 え?これ、全部依頼なの?


 ひぃ、ふぅ……。


 何通くらいあるんだろ?

 100くらいあるんじゃないか?いや、もっとあるかな?


「え、えーっと、ギルドへの依頼ですよね?」

「違います!全部タツヤさん宛の依頼ですよこれ!」


 顔を輝かせてそう言ってくる受付嬢。


「こんなにたくさんの依頼見たことありません」

「お、俺もないなぁ。ってなんでこんなにたくさん来てるんだろう?」


 俺が不思議に思っていると受付嬢は壁際を指さした。


 それはフリーランサーの一覧表が置かれたとこの壁だった。


 壁にはポスターがあり、俺の顔写真があった。


「え?な、なにあれは」

「ギルドの意向でおすすめのフリーランサーを紹介することにしたんですよ。表示した瞬間からタツヤさんが帰ってくるまでの間ギルドにこんなにたくさんの依頼が届いたんです」

「へ、へぇ」


 うぐぅ。

 でもこんなに依頼を送られてもとうぜん全部はできないわけである。


(それにしてもいきなりこんなに送られても困るな)


「タツヤさん最近知名度がどんどん上がってきているので、そろそろ依頼を絞ってもいいと思いますよ」


 受付嬢はそう言った。


(たしかにな、これだけ仕事が送られてきて選べるようになるのであれば、本当に俺に頼みたい人だけが頼むような仕組みを作ってもいいかもなぁ)


「とりあえず依頼は全部回収しておきましょう」


 俺はアイテムポーチに依頼を入れることにした。


「で、とりあえず依頼の受付停止をしておきましょうか」


 これ以上依頼を出されても困るので俺は一旦依頼の受付停止をする事にした。


 依頼の受付停止だが冒険者カードから出来るらしく簡単だった。


「よし、これで停止っと」


 俺はそれから受付嬢に言った。


「いろいろありがとうございました。では、今日はこの辺りで」

「はい。ちなみに受けきれない分の依頼はギルドに流してもらうことも可能ですよ」

「あ、はーい」


 ちなみにだが、フリーランサーが受けなかった依頼をギルドに流すと、ギルドが依頼内容を精査して他の冒険者に回すこともあるらしい。


 この場合はギルド側が依頼人に話を通すのでトラブルになることはないらしい。



 ギルドを出てヒナを待機させてる宿に戻る。

 俺の仕事につき合わせるのも悪いしお金を渡して宿にいてもらってた。


「ごめんなヒナ。ちょっと放置しちゃって」

「お気になさらずです」

「一応果物とか買ってきたけど食べる?」

「はいっ」


 俺は机の上に依頼と果物を積んで行った。


 何通依頼があるのか分からないが、とにかくものすごい数だった。


「ヒナ?食べながらでいいんだけどさ、依頼の選別を手伝ってくれないか?」

「はーい」


 俺はヒナに受けるべき依頼と、それからギルドに流す依頼の2つの基準を話した。


 で、2人でとりあえず依頼の選別を行っていく。


 予想していた事とはいえ、低賃金で俺をこき使おうとする依頼も中にはあるので、悪いがそういうものを省いていくことになる。


(前ならこういうのもやってたけど、今はやるメリットないしなぁ)


 俺がのんびりやってる中、ヒナはシュバババババってすごいスピードで選別してた。


 そうして残ったのは490通ほどだった。


(それにしてもすごい数だなぁ。こんなに数が来るなんて思ってなかったなぁ。一人だと大変だったなこれ)


 だが、有難い話である。

 俺に依頼をして欲しいという人がこんなにいるのは素直に嬉しいことだ。


 で、省かれた依頼は10通ほど。


 これらはギルドに送ろうと思う。


 一応、アリスの前例もあるので、保留している分もあるが、明らかにブラックそうなのは省いた。


 で、残った依頼を時間をかけてのんびりやっていこうと思う。


 俺はヒナに目をやった。


「作業お疲れ様ヒナ。ヒナがいてくれてよかったよ」


 あの時はとくに何も考えず引き取ったけど、さっそくヒナに助けられてしまった。


「こういう作業は鉱山時代にやってまして、慣れていますのでバンバン使ってください!」

「頼もしいね」


 頭を撫でてやると喜んでた。


 俺たちの様子をシルフは黙ってみていたのだが、やがて口を開いた。


「なぁ、タツヤ」

「なに?」


 急に声をかけてきてどうしたのだろう?


「タツヤ。お前にドラゴン族に伝わる剣技を教えてやるぞ。くふふ。食事の礼もしていないからな」

「ドラゴン族に伝わる剣技ってなにさ」


 そう聞いてみるとシルフは尻尾を動かした。


【テイルスピア】

 

 尻尾が槍みたいに鋭くなった。


 シュン!


 グサッ。

 シルフのシッポが机の上の果物に刺さった。


「これは一撃必殺技だ。これを教えてやるぞ。ムシャムシャ。ゴクン」


 器用に尻尾の果物を食べてた。


(これは剣技なのか?ていうか尻尾って便利そうだなぁ。いいなぁ……)


 そう思った時だった。


【テイルスピアを覚えました】


 と、何故か何もしてないのにあっさりと技を覚えてしまった。


 え?

 なんで?!


 なんか覚えちゃったぞ?


 修行も練習もなしで覚えてしまった!


 しかし食事のお返しまでしてくれるなんて、ほんとに恩を忘れない種族だなぁ。


 これはドラゴンナンバーワンですなぁ。

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