第25話 おっさん、聖人過ぎて仲間ができる

 ガシャッ。

 ガシャッ。


 俺の前に皮袋が投げられる。


「おっさん、俺からの募金だ」

「俺も俺も!」


 皮袋がどんどん投げられる。


【10万ジェル】


 金額が溜まっていって、そう表示された。


(こ、こんなに?)


 みんながお金をくれていた。


「おっさん、その子の依頼ていねいに達成してやってくれよ」


 にかっと笑ってくる冒険者たち。

 俺は答えた。


「は、はいっ!」


 それから女の子に目を向けた。


「なにか、食べたいものある?」

「ハンバーグ」


 ポツリ。


「ハンバーグ食べたい」


 俺は頷いた。


 それから女の子を連れて酒場に寄った。


 女の子にハンバーグを食べさせながら話を聞くことにした。


 ちなみにだが俺も同じものを頼むことにした。


「私アリスって言います」


 ぺこり。

 頭を下げてきた。


「お姉ちゃんが病気になっちゃって、それで神秘の薬草ってアイテムがあると治るって聞いて取ってきて欲しいんです」


 で、そのアイテムがあるのが竜王の巣ってわけか。


 俺がそうやって会話していた時だった。


「ちょっといいか?」


 声をかけられた。

 俺の左側は通路になっていた。


 左を見ると女の人が立っていた。


 強そうな赤髪の女。


「な、なんです?」


 威圧にビビってると横に女は座ってきた。


「さきほどのあなたの行動に感動したのだ」

「お、おぉ、そうですか」


 俺がそう言ってるとアリスは驚いていた。


「え、エリザ・スカーレットさんですよね?」


 そう聞いていた。


「あぁ。私はエリザ・スカーレット」


 エリザと名乗った女は頷いた。


(たしか、さっきのフリーランス一覧表に乗っていたな?)


 そんなこと思ってるとエリザが言った。


「タツヤ、あなたの行動に感動した。私もこの女の子の助けになりたい」


 アリスは声を震わせて言った。


「私もうお金ないよぉ……」


 エリザは首を横に振った。


「無償だ。本当にお金に困っている人からはさすがに取れないよ」


 ふふって笑っていた。


「え?いいの?」

「うむ」


 アリスは嬉しそうだった。


 食事も終わって俺達は外に出た。


 そこでアリスは俺にアイテムを渡してきた。


「おじさん、これあげる」


【生命樹の葉っぱ×1を入手しました】


 どうやら回復アイテムらしいが。


 アリスが説明した。


「お姉ちゃんのために買ったんだけど効果がなかったからあげるね」

「ありがとう。役に立たせてみせるよ」

「じゃあね。おじさん。私酒場でおじさんの帰りを待ってるから」


 俺は酒場を出てすぐにアリスと別れた。


 ちなみにエリザは本当に無償で動いてくれるらしい。


「ところで、タツヤ」


 俺に声をかけてくる。


「なんです?」

「竜王の巣の難易度は知っているのか?」

「知りません」


 そう言うとエリザは少し呆れたような顔をしていた。


「この辺りでは最高難易度の場所だ」

「ほえー」

「やっぱり知らなかったのか。声をかけて正解だったよ」


 少し時間を置いてからエリザは続けた。


「念入りに準備をすることだな。仮に報酬が20万だとしても並の冒険者ではマイナスになるような場所だ」

(そんなになんだなー)


 俺は頷いてしっかりと準備をすることにした。


 雑貨屋に向かおうと思ったらエリザが声をかけてきた。


「それからレンタルワイバーンの契約を済ましておいたほうがいい」

「ワイバーン?」

「竜王の巣は標高が高い。ワイバーンでのぼっていかないと時間がかかる。それに山があって谷がある」


 エリザがそう言った時だった。


「ん〜にゃご」


 ペタン。


 俺の頭に前足を載せてきたニャゴ。


「ワイバーンなんていらないってさ」

「さっきから気になっていたけどそれは猫か?」

「キメラだよ」

「き、キメラっ?!」


 驚いてた。


「にゃご」


 ニャゴは気合を入れた。

 すると、ぼーんと煙が出て大きめのキメラに進化した。


「にゃ〜ご」


 バサッバサッ。


 飛んでいきそうだ。


「おぉ、これだとワイバーンは必要なさそうだな。というかキメラに懐かれている人なんて初めて見たな」


 エリザは驚いていた。


「でも、アリスの一件でもタツヤの優しさは分かった。その優しさがキメラにも好かれる秘訣なんだろうな」


 エリザはそう分析したようだった。

 ヒナには悪いんだけど留守番でもしててもらおうかな。



 俺は竜王の巣に向かうために関所までやって来ていた。


 関所、今までなんとも思っていなかったが前の一件以来少し苦手意識を持ってしまうようになった。


「……はぁ、」


 関所の前でため息を吐いてるとエリザが聞いてきた。


「どうした?タツヤ」

「い、いや。嫌なことを思い出してね」

「関所でなにか嫌なことでもあったのか?」

「まぁ、ね」


 俺はそう答えて歩き出した。

 関所の職員に声をかけられる。


「目的と、身分証明書の提示を」

「依頼のため、それから身分証明書はこちらで」


 身分証明書を渡すと職員は言った。


「タツヤ オノ。あなたに用があります」

(うげっ)


 はぁ、なんかしたか?俺。


 無駄に不安になっていると職員は俺に手紙を渡してきた。


「あなたが来るとこれを渡すように町の人に言われていました」

「中身は?」

「確認などしていませんよ。個人情報ですので」


(ここの職員はしっかりしてるらしいなぁ)


 そんなことを思っていたら職員は口を開いた。


「あなたの噂は聞いていますよタツヤさん。凄腕のフリーランスだと噂を聞いています。頑張ってくださいね」


 職員に応援された。


 なんか、前の依頼のせいで複雑な気分である。


「えーっと」


 中を開けてみるとこう書いてあった。



【鉱石採取の依頼】

依頼人:村外れの鍛冶師

報酬:1,000,000ジェル

場所:竜王の巣

目的:竜王結晶の採取


連絡事項:あんたの噂は聞いてる。ぜひよろしく頼むぜ。急ぎの依頼じゃない。のんびりやってくれていい。受けない場合は職員に言ってくれ




 これはひょっとして


(俺への依頼か。っていうことはクエストをダブルで受ける事になるのか)


 まぁ目的地は一緒なわけだしなぁ。


 ついでだと思って受けてみよう。


 これは俺の初めてのダブルクエスト経験だった。


 それにしても報酬額のインフレがすごくなってきたなぁ。

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