少女からの依頼

第24話 おっさん、聖人が過ぎる、聖人枠ができる


 翌日、俺はギルドにきた。

 本当に有名なフリーランサーになればこんな所に来る必要もないのだが、駆け出しフリーランスの俺はまだまだここに通うことは必要なことである。


 ギルドの中に入ると俺はフリーランサーの一覧表というものを手に取った。


 これは依頼者がどのフリーランスに依頼をするかを考えるためのものである。


 本のような形状になっており、細かい情報を見ることができる。

 ちなみに1ページに掲載されている人物はこのギルドで1番人気あるフリーランサーっていう話だ。


 ちなみにだが一番最初のページを飾っているのは



 【クロイド】という聖騎士。


 黒い髪に顔の傷がトレードマークだ。


(たしか達成した依頼の数で何処に表示されるか決まるんだっけ?で、現時点でこいつが1番依頼を達成しているらしい)


 こいつの紹介ページを参考に見てみよう。



名前:クロイド

職業:フリーランスの冒険者 【この辺に顔写真】

所属:なし

年齢:26

依頼達成数:263,563件

最低依頼額:20万ジェル

依頼先:俺の住所かギルドカウンター


コメント:

最低依頼額以下は自動返却。

現在依頼の数が多すぎるため最低額を上回っていても仲間に依頼の厳選中。高額依頼優遇。


【依頼書の項目を全部埋めてないヤツお断り!】


高評価:25% 低評価:75%





「あぁ、いいなぁ。一番手前に表示されるなんてめっちゃ目立つぅぅ」


 しかも依頼の厳選だってさ!


 俺も厳選してぇ!!!厳選するほど依頼が送られてきて欲しい!


 ってか、この人低評価多くね?こんなもんなの?


 そう思ってペラペラページを見てみる。


 20件ほど見てみたがこの人はまだ高評価が多い方の人だった。


 どういう低評価が多いんだろう。

 そう思って低評価を見てみる。



【こいつはだめです。依頼頼んじゃダメ。雑すぎ。卵の運搬頼んだら全部割りやがったこいつ!死ね!

byリッカ】



(こんなもんなの?ってか、これリッカってあのリッカ?評価日時は……俺が依頼受ける前のものか)


 そう思いながら俺はパラパラとページをめくっていた時だった。


 俺の後ろに誰か立った。


 振り返る。


 女の子だった。


 キョロキョロ周りを見てる。


 俺の左右には同じようにフリーランスの一覧表があるのだが、依頼をしたい人間が見ていたため、今はどこの一覧表も開いてない。


(もしかして依頼したいのか?なら俺がいても邪魔だな)


 そう思って女の子に声をかけた。


「あー、ごめんね。占領しちゃってさ」


 そう言ってどくと女の子も頭を下げた。


 それでパラパラページをめくっていた。


「高い……」


 呟いてた。


 その時だった。


 ギルドの入口の方から騒音が聞こえてきた。

 ザワザワザワザワ。


 ギルドの外から聞こえているようだった。


(すごい、音だな?ギルドの扉を突き破ってここまで聞こえるなんて)


 そう思っていたら扉が開いた。


 外から中に入ってきたのは。


(クロイド?!)


 目立つ顔の傷。


 黒い髪。

 間違いない。


 本物のクロイドだ。


 ツカツカツカツカ。

 クロイドはカウンターに向かっていった。


「俺宛に届いている依頼をよこせ」


 ぶっきらぼうに受付嬢にそう言っていた。


(うわっ……)


 率直にそう思った。

 嫌な奴だって思った。


 そしてその直感は当たっていたことがすぐに分かる。


「あ、はい」


「早く手を動かせ。俺が来る時間は決まっているだろ?グズが。前もって準備をしておけブス。次同じことをしてみろ。教育だ。またやらかしたら死刑。代わりはいくらでもいるぞ?」


「ひっ!」


 受付嬢はしゃがみこんでしまった。


 その時別の職員が謝っていた。


「申し訳ございません。クロイド様。教育が」

「ごたくはいい。早く用意しろ。言い訳する暇があれば手を動かせ」


 その後も「ちっ」とか「グズ」とかクロイドは吐き捨てながら待っていた。


 やがて受付嬢は紙の束をクロイドに渡していた。

 それを乱雑に懐にいれながらクロイドはギルドの出口に向かっていた。


 その時俺の横にいた女の子がクロイドに走りよった。


「なんだ?」

「クロイドさん。依頼を受けてください」


 女の子は紙の依頼書をクロイドに渡してた。


(よくあんな奴に依頼する気になるよなぁ)


 クロイドは意外にも依頼を受け取っていた。


 女の子の顔には笑顔が浮かんでいた、が。


 クロイドは目を細めて女の子を見た。

 そして言った。


「30秒」

「え?」


 女の子が聞いていた。


「貴様がこの俺から奪った時間だ下等生物が。字も読めないなら二度と俺の前を歩くな。カス。依頼する時は依頼条件をちゃんと読め。最低依頼額は20万と書いたはずだ。俺に手間をかけさせるな」


 ビリッ。


 依頼書を引きちぎってクロイドはギルドを出ていった。


 女の子はその場で立ち尽くして泣き始めた。


(なんだあいつ、あんな邪悪なやつ他に見たことないぞ俺)


 俺はあまりにもかわいそうになってきて女の子に寄ってみた。


 ちなみにだがギルド内にいた他の奴らも同じように思っていたのか女の子を見ていた。


 だが動いたのは俺だけだった。


「大丈夫?」

「うわーーん」


 泣いてて聞こえていないらしい。


 俺は破られた依頼書をかき集めて完成させてみた。

 依頼書は幼い字でいっしょうけんめい書かれていた。



【お姉ちゃんが病気になっちゃった。神秘の薬草が欲しいです】

報酬:500ジェル

場所:竜王の巣

難易度:分かりません



(最低依頼の額にぜんぜん届いてなかったのか)


 他にもいろいろと要因はありそうだけど。


 俺は女の子に声をかけた。


「なぁ、この依頼。俺に受けさせてくれないか?」


 そう言うと少し泣くのがマシになっていた。


「おじさんに?」

「うん。俺はタツヤって言うんだ。話だけでも聞かせてくれない?」


 俺がそう言った時だった。


 ギルド内がザワついていた。


 ザワザワ。


「タツヤ?タツヤって、あのタツヤか?」

「だれ?」

「知らないのかお前。最近有名になってきてるんだよ。タツヤってフリーランサーがすごいって」

「はぁ?」


 そんな会話が聞こえていた。


 どうやら俺の名前は徐々にだが、知られているらしい。


 まさか初めて来た街でも知られているとは思わなかったけど。


「グリノヴァのマッドフロッグ問題を解決したのがタツヤって人間らしい」

「へぇ。あのガルド商会を潰したっていう?」

「そうそう。100点満点で依頼したら10000点で依頼を終わらせてくるって噂だよ」


 そんな会話が聞こえてきた。


 そしてギルド内は女の子に俺を勧める流れへと変わっていく。


「お嬢ちゃん。そのオジサンに頼んじまえ」


 女の子は俺を見ていた。


 その背中を後押しするようにどんどんと声がかけられていた。


「そのおじさん、すごい人らしいぞ」

「運が良かったなお嬢ちゃん!タツヤなら俺も知ってる!」


 女の子は俺を見て聞いてきた。


「受けてくれますか?」


 ぐぅ〜。


 女の子のお腹が鳴っていた。


「詳しい話はなにか食べながらにしようか?」

「お金がないです、全財産、依頼の報酬に回しちゃったから。おうち貧乏なんです」


 女の子の頭に手を置いた。


「大丈夫だって、奢るよ」


 俺がそう言った時だった。


「このおっさん聖人過ぎる!」


 ギルドの冒険者が叫んだ。

 そしてギルドの職員に声をかけていた。


「なぁ、おい!ギルド職員。こんなフリーランサーが埋もれてていいのか?こんな聖人他にいないだろ?!」

「そうだそうだ!」


 周りからも声が増えてくる。


「おかしくねぇか?あんなクソ野郎クロイドが一覧表で一番手前にいるの!」

「依頼達成数で一覧表作るから達成数だけ稼げばいいってやつが出るんだろ?!見ただろ?あのクソ野郎っぷり。金の亡者にいい思いさせるなよ」


 そこでギルド職員は答えた。


「私もそう思いました。ですので、高評価フリーランサー表を作成します。その1番上にタツヤさんを表示したいと思います」


 え?

 俺?


 俺が1番上?


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