第23話 リダス、ひとりになる【リダス視点】

 タツヤがゴーレムを倒した日の夜、実家で眠っていたリダスをルインが起こした。


 ちなみにあの日からリダスはルインに付きまとわれている。


 定期的に聞きたくないことを耳元で呟かれるのはどれほどのストレスになるのか想像するのは難しい話ではなかった。


 それを証明するかのようにリダスの毛髪はストレスからか多少抜けており、目の下にはクマがある。


 ルインが口を開く。

 もちろん、リダスを挑発するためである。


「おやおや。リダスさん。あたちの予言通りになってきまちたね♡」


 リダスはシャーディーとの婚約があったから実家のあるドネスへと帰ってきていたのだが。


「今度はなんだ?ガルド商会のイヤーミが行方不明なのは知っているが」

「あなたは婚約者に婚約破棄されたそうでちゅよ」

「嘘だろ?!シャーディーにか?!」

「ほんとでちゅよ〜。あたちは嘘つきまちぇんから」


 笑っているルイン。


 それに腹が立ったのかリダスはツボを蹴りつけた。


「くそが!くそが!くそが!」


 前回、ルインの占い場で蹴ったときとは違った。


 ガシャーン!


 壺は簡単に割れてしまう。


「あっ……」


 そのときだった。


 ガン!


 リダスの部屋の扉が毛破られる。


 そこに立っていたのはリダスの父親だった。


「父さん?」

「リダス。なんだ?今の音は」


 ギロッ。


 父親はツボに目を向けて静かに呟いた。


「出ていけ」

「え?」

「この家から出て行けといっている。二度と貴様の顔を見たくないのだリダス。面汚しが。婚約者に婚約破棄されただと?」

「で、でも」

「黙れ。言い訳など聞きたくないわっ!」


 パーン!!!!


 父親の強烈なグーパンチがリダスを襲った。


「ぐあっ!」

「無能にはなにをやらせてもダメらしいな?リダス。我が家の騎士訓練で弱音を吐いて冒険者になると出ていったのをお前は覚えてるよな?」

「は、はい」

「条件付きで許可したのを覚えてるよな?ランクのひとつやふたつはあげる、と。しかしなんだ?お前。上がっていないでは無いか」


 そう言うと父親はリダスの腕を掴んで立ち上がらせた。


「お前のような出来損ないの無能は我が家にいらん。どこへなりとでも行け。それからクロイドに頼ろうとしても無駄だぞ?あいつにはお前に情けを見せるなと言っておるからな」


 そのままリダスは敷地外に叩き出された。


「二度と帰ってくるなよ?!リダス!」


 ガン!


 叩きつけるように門が閉じられた。


「ははっ」


 リダスの口から乾いた声が漏れる。


「俺の人生なんでこんなんなっちまったんだよ……」


 そう呟きながら歩き出した。


 ルインが声をかける。


「性格悪いからでしょ?それ以外あるの?」

「……」


 リダスは答えずに今晩泊まれるところを求めてさまよっていた。


 その時だった。


「あれ?リダスじゃん」


 リダスは声をかけられた。


 声の方向を振り返るとそこにいたのは黒い髪に目に傷がある男だった。


「く、クロイド?」


 リダスは男に駆け寄った。


 クロイドと呼ばれた男にリダスはこれまでのことを説明した。


 クロイドは優秀な冒険者であり、金稼ぎが得意だった。


 そしてリダスの父親とも繋がりがあり、ガルド商会と並んで金の出処となっていた。


 言ってみればこの男はリダスにとって最後の命綱のようなもの。


「クロイド。頼む。俺を見捨てないでくれ」

「お前の親父から話は聞いてるよ。やべぇんだってな?」

「あ、あぁ。やべぇんだ」

「お前の家には世話になったからな。まぁ多少の援助はしてやるよ」

「ほ、ほんとか?!」

「ほんとさ」


 こうして協力関係が築かれたように見えたが。


「あたちとしてはオススメしまちぇんねーそういうのは」

「なんだこいつ。急に見えるようになったぞ」


 クロイドにはその瞬間ルインが見えた。

 今まで見えなかったものが見えるようになったのには、もちろん理由がある。


 クロイドもルインのターゲットになったからだ。


「言いまちゅ。あなたは死ぬと」

「俺が?この国で一番のフリーランサーの俺が?はっ!舐めてくれたこと言ってんなぁっ!死ね!【スラッシュ】」


 クロイドは剣を振った。


 しかし


「ば、ばかな。なぜ、俺の剣が通らない」


 ルインの頭に当たったはずの剣はピクリともしない。


 普段なら一刀両断なのに。


「やりましたね?もう許しまちぇん。100%破滅保証に巻き込みまーちゅ。あなたもリダスの仲間みたいだから」


 そこでリダスは言った。


「こいつ気味が悪いんだよ。俺にずっと付きまとってきてルインまであと何日あと何日ってずっと繰り返してる」


 クロイドは顔を青ざめさせてリダスの胸ぐらを掴んだ。


「てめぇ。なんてもん連れてきてやがんだよ」

「は?な、なんだよ」


 クロイドはルインに頭を下げた。


「悪かった。この通りだ。俺だけは見逃してくれ」


 ルインは笑った。


「許すわけねぇだろバーーーーーカ。喧嘩売っといてなんでし?その態度は」


 ルインはずっと笑っていた。


「クロイド。あなたはあと3日くらいで死にまちゅ」

「ざけんじゃねぇぞ!」


 それからルインはリダスに目をやった。


「リダス。あなたは残り2週間くらいで確実に破滅でちゅ。そういう未来が見えました」


 ルインの口は三日月のように歪んだ。


 それからルインは煙のように消えて姿が見えなくなった。


「クロイドはあれについてなんか知ってんのか?」

「以前依頼を受けたことある。変なやつに取り憑かれたから除霊してくれって。それがルインだよ。憑かれたら終わりの悪魔だよ。くそが!お前のせいで俺も目をつけられちまった!」


 この時になってリダスはルインの言ってる言葉を理解した。


「俺、あと2週間くらいでやべぇの?」

「死ぬだろうな。下手すりゃ死ぬより悲惨な目にあう。それに俺なんてあと3日だぞ?てめぇのせいで」

「クロイド?除霊はどうやってやったんだ?教えてくれ」


「してねぇよ。ルインは"ド"がつくようなクソ野郎にしか取り付かないって話だからな。死んで当然のやつだったから、除霊したって嘘ついて報酬だけもらって見殺しだ」


 ガッ!


 クロイドはリダスを殴りつけた。


「な、なにすんだよ。クロイド」

「俺のセリフだよ。俺はまだ死にたくねぇ。早く金を溜めて貢がねぇと。悪魔なんだ。金積めば許してくれるはず。とにかく、お前の巻き添えだけは勘弁だ」


 クロイドはリダスの懐から財布を抜いた。


「貰ってくぜ?悪く思うなよ。少しでも金貢いで機嫌とってルインに許してもらわないといけねぇ。お前とも縁切るわ、クズウイルスが移っちまうよ」


 ダッ。


 クロイドは消えていく。


 リダスはその背中を見送ることしかできなかった。


 こうして、リダスは最後の命綱からも裏切られて人間関係を失ったのであった。


 破滅まで……


 あと、2週間。




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