第22話 おっさん、伝説になる

「オォォォォォォォォォォオォォォ」


 ゴーレムが俺を見ていた。

 そして、手を突き出してきた。


 今度は残った方の手。


「スラッシュ」


 さっきと同じようにゴーレムの手は吹き飛んだ。


 また同じように手を引っこめる。


「体はでかくても、脳みそは小さいってところだな」


 俺がそう言った時だった。


「にゃご!」


 にゃごが空を飛んで俺の横に来ていた。


「どうしたんだ?」

「んにゃ〜ご」


 メキメキメキメキメキメキ。


 にゃごの体の骨格がおかしくなっていく。


「え?ま、まさかこの場面で進化しちゃう系なの?」

「んにゃぁぁぁぁ」


 次の瞬間そこには一匹のキメラがいた。

 コウモリの翼で空を飛んでる。


「にゃご」

「乗れって言うことか。気が利くじゃないか」


 にゃごの背中に乗る。


 にゃごが飛んでいく。

 狙いはもちろんゴーレムの方だ。


「んにゃぁぁぁぁ」


 加速して俺たちの体はゴーレムの顔の横にあった。


 しかし、ゴーレムも暴れているため手を振って俺たちを落とそうとする。


(これ以上は近付けないな)


 俺はゴーレムの肩に飛び乗った。


「さんきゅ」

「にゃご」


 にゃごはそのまま俺から気をそらさせるためにその辺をハエのように飛び回ってくれていた。


 その間に俺は一気に首の方まで走っていく。


 すると、うなじの辺りに変な模様があるのに気付いた。

 光を放ってた。


「たまたま見つけてしまったけど、ひょっとしてこれって弱点なんじゃないのか?!」


 そう思った俺はゴーレムの体を掴んで振り落とされないようにして、剣を弱点に突き刺した。


「オォォォォォォォォォォオォォォ」


(効いてる)


 体を激しく揺すって俺を落とそうとするゴーレム。

 しかし俺は体にしっかりと捕まっているので落ちない。


 もう1発。

 弱点に攻撃を叩き込む。


「……」


 シュゥゥゥゥゥゥ。

 紋章は光を失った。


 ズゥゥゥゥゥン。

 ゴーレムは膝を地に着けた。


 そのまま倒れ込んだ。

 そのときに


「ま、待て!俺がまだいる!助けてくれ!ゴーレムにやられて足が動かないんだ!エランがまだいるz」


 みたいな声と。


 ブチュッ!


 ってゴーレムがなにかを押しつぶすような音が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。


「はぁ、はぁ」


 ゴーレムが完全に静まるのを待ってから俺も地面に降りた。

 そこにシャーディーの馬車がやってきた。


「た、タツヤ様?!大丈夫ですか?!」

「あ、あぁ」


 そう答えて俺は馬車に飛び乗った。


 ゴーレムを見てシャーディーは口を開いた。

 

「た、倒したのですか?このゴーレム?」

「あ、うん。なんか気付いたら倒してたみたい」


 目をぱちくりするシャーディー。

 それから俺の両手を握って言った。


「さすが、タツヤ様です!伝説のモンスターを倒してしまうなんて!」


(こんなデッカイの俺が倒したんだなぁ)


 正直俺が1番現実を受け止められていない気がした。


 そんな気持ちの中俺は馬車にもう一度乗り込む。

 やがて馬車は進んで行った。



 やがて俺たちはドネスの街の関所について街の中に入った。


 そこでシャーディーが言った。


「タツヤ様ここまでありがとうございました」

「あー、いや。気にしないでよ。依頼だし」


 すっげぇ、ハードな依頼だったけど。


 拘束時間にしてみればそこまでだったけど、密度が凄かったな今回。


(チンピラのエランに、伝説のゴーレムか。中身の濃い1日だった)


 それだけに疲れた。


 てか、いまだにグランドゴーレムを倒したことを信じられない。


(俺なんかすごいの倒してない?)


 自分でもそう思うくらいだった。


「エランの件ですが、私から向こうに説明と連絡をしておきますのでお気にならさず」

「あー、それは助かるな。まぁ、でも事情聴取とかってなったらさすがに答えるよ」

「そうならないように私が努力しますよ、ふふふ」


 彼女は笑って俺に依頼の報酬金を渡してきた。


【1000万ジェル手に入れました】


 ポカーン。


 口が開いた。


 すごい報酬金だー。


 なに食べよーかな?


(って、また食べ物だな)


 いやー、でも食いもん以外にお金の使い道ってなんなんだろう?


 今まで使ってこないから逆に使い方が分からないぞ。

 俺が色々考えているとシャーディーが言った。


「あの、タツヤさん。一応連絡先を交換しませんか?」

「へ?れ、連絡先?」

「はい。なにかの縁だと思いますし、私はこれからもあなたに依頼を頼むかもしれません。それに、あなたのことをお友達に紹介したいと思っています」

「おー、まじですか」


 貴族の友達かー。


 それならやっぱりその友達も貴族ってことだろうし、金払いに期待できそうなものである。


「よし、交換しよう」


 俺も随分手慣れたもんでシャーディーとの連絡先交換を迅速に済ませる。


 交換が終わるとシャーディーは頭を下げた。

 ぺこり。


「では、私はこれで。」


 彼女がここに来た理由はよく分からないけど俺は依頼人の事情に首を突っ込まない男である。


 そう思っていたらシャーディーは最後に振り返って言った。


「あ、そうそう。タツヤさん。私近いうちにいいことがある予定なんです」

「いいこと?」

「結婚するんです。そのためにここまで来ました」


(あ、そっすか……)


 シャーディーは言った。


「名前と顔しか知らない人と結婚するのです。リダス様と言うのですがいったいどのような人なんでしょう」

「は?リダス?」


 まさか、こんなところでその名前を聞くとは思わなかった。

 ちなみにだがあの名前は珍しいものでそんなにありふれた名前じゃないし、あいつだと思う。


「知ってるんですか?こういう顔なんですけど」


 写真を見せてきた。

 確定した。あいつだ。


「知ってるよ。俺あいつのパーティにいたんだけど酷いやつだった」


 俺はシャーディーにあいつのことを軽く話した。


「そんなことがあったんですか?」

「まだ結婚してないならやめた方がいいと思うよ。アイツはクソだから」


 そう言ってみるとシャーディーは少し考えてこう言った。


「分かりました。やめます。タツヤ様は信用できる方ですし」

「そんな簡単にやめれるようなものなの?」

「もともと親が取り付けた婚約なので無視します!」


 シャーディーは俺に指輪を渡してきた。


「これはリダスから送られたものですが、あなたから搾取した金で買ったようですね。お返しします。売ればお金になると思いますよ」


 すごい高そうな指輪を送られてしまった。


 それにしても……


(リダスさん、自分の知らないところでS級美少女に婚約破棄されてて草。俺なら泣いちゃうなぁ)


 俺はそんなことを思った。

 シャーディーが口を開く。


「それともここで私と結婚しませんか?私はタツヤ様のようなお方と結婚したいのですが」


 俺は首を横に振った。


(無理だろ。貴族様と結婚なんて。俺の身分じゃ無理だよな)


「やめとくよ。俺じゃ釣り合わないよ」


 そう言うと残念そうな顔をしたシャーディー。


「残念です。では、これで」


 彼女は手を振って歩いていった。


(これからどうするか、とりあえず寝ようかな?)


 そんなことを考えてたとき、俺の持っていた冒険者カードが光を放った。



【とても強い最強の冒険者様でした。優しくて紳士的で信頼出来るいい人でした。次なにかあれば絶対にタツヤ様に頼むと思います!私にとってタツヤ様は伝説の冒険者です! by シャーディー】


100%の高評価 0%の低評価


30件の評価



(あらら、伝説の冒険者になっちゃった)


 それはそうとして、俺は評価数を見てにんまりとした。


(こうやって高評価が並んでるの見ると壮観だなぁ。やってきた仕事の数が数字として出るからモチベになるなぁ)



 それにしても俺が今まで会ってきた人達はいい人たちばかりで助かった。


 で、評価とは別にもう一個気になってたこともある。


(そういえば俺の今の所持金いくらなんだろう?所持金を確認してみよう)


 ちなみに今から見るのはシャーディーに貰った報酬を入れてない額である。



所持金:900万ジェル



「……?」


 ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ。


 目を何度も擦って見てみた。



所持金:900万ジェル



「あれ?俺フリーランス始める前の所持金3000ジェルじゃなかったっけ?」


 所持金3000倍になっとるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!


 で、ここに今からシャーディーなもらった報酬を入れると……?



所持金:1900万ジェル



 えーっと、分かんないけど。


 13000倍くらい?(←ぜったいちがう)


 おっさん分かんない!


 ていうか、そろそろお金使うかー。

 使わないともったいないよな!


 気付いたらめっちゃお金溜まってた!







【補足】

次からはまたおっさんがのんびりやるパートになります。

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