第21話 おっさん、伝説を見る

 シャーディーが話し始める。


「グランドゴーレムなんて伝説では?」

「いや、それがそうでもないらしい。最近目撃情報があったらしいよ。この辺りでバカでかいゴーレムの目撃情報があるんだよ」


 エランが俺に手帳を投げてきた。


「目を通しとけおっさん。万が一がある。おっさんの手を借りたくなるくらいの状況になるかもしれんしな」


 俺は手帳を拾うと目を通した。


 すぐに目当てのページが見つかった。


【グランドゴーレム】

ゴーレムの王。

全てのゴーレムはこの一匹から始まったとされる。

一説では大陸を作り、大陸を動かしこの大陸を作ったと伝わっている。

体長は100メートルを超えているらしい。




 目を通した。


「ほら、投げ返してみろよ、おっさん。ノーコンだったとしても俺は手が長ぇから多少ずれても取れるぜ?」


 エランが右手を前に出してきた。


 ブン。


 エランに手帳を投げ返した。


「あっ」


 ゴン。

 狙いが悪くエランの頭に当たった。


 だが俺は先手を打つことにした。


「受け取れなかったお前が悪い。俺は君の言葉を信じただけだよ?」

「ちっ」


 イライラしているようだが、いい気味である。


 エランはそのまま話し出した。


「グランドゴーレムは実在するという方向で話を進める。今俺の手下にゴーレムの位置を探らせている」


 エランがそう言った時だった。


 周りから声が聞こえてきた。


「エラン様!巨大なモンスターの反応を検知しました!」

「距離は?」

「10キロほど先です!」


 ガタッ。

 エランは立ち上がった。


「この勝負俺の勝ちだおっさん。グランドゴーレムは俺が倒す」


 そう言って馬車の扉を開けた。

 そばに馬が来ていたのでそれに飛び移ったエラン。


「俺たちはグランドゴーレムの討伐を考えて数年間動いてきた。いつか戦うことになると思っていたからだ」


 そう言ってシャーディーの足元に向かって手帳を投げてきたエラン。


「シャーディー。そこには俺たちの作戦も書いてある。俺たちの作戦は完璧だ。その作戦で今からグランドゴーレムを討伐しにいく!もし討伐出来たら俺と結婚しろ!」


 そう言うとエランは仲間を引き連れて俺たちの前を走っていった。

 シャーディーは無視していた。


「執事さん。もっとスピード出せないのか?俺達も倒しに行こうぜ、あれ。あれを俺たちが倒せば、エランのバカも黙るだろ」

「無理ですよ。向こうは荷物がないので早いのは当たり前です」

「すまなかった」


 謝って頭を冷やした。


 ムキになっても仕方ないか。

 今回の俺の目的はシャーディーの護衛だ。


 それにシャーディーも言ってくれてた。


「エランは何か言っていますが安心してください。私が証人になりますので、仮に尋問などが行われても無罪になりますよ」


 そう言ってくれて俺は安心していた。


 俺はソファに座り直してそのまま前方を見ていた。


 やがて、何かの陰が見えてきた。


「ん?」


 夜の闇の中、そびえ立つようになにか立ってた。


 塔?


(いや、塔はないか。こんなところに立てても意味ないし)


 じっと、目を凝らして見ているとそれがなんなのか分かった。


「オォォォォォォォォォォオォォォ」


 この世のものとは思えないような唸り声が聞こえたきた。


 そして目の前にウィンドウが出てきた。


【グランドゴーレム出現】


(こいつが?)



 窓に駆け寄って見てみるとステータスが表示された。



名前:グランドゴーレム

レベル:9999

攻撃力:10

防御力:9999

体力:3000

体長:150m



「おいおい、まじかよ。100メートル以上あるのかのこれ、でけぇ」


 とんでもないステータスをお持ちのモンスターが来てしまった。


 そこで声が聞こえる。


「うぉぉぉぉぉぉ!!!!作戦開始!」


 前を走っていたエラン達のものだった。


 悲鳴も聞こえてくる。


「こ、こんなの勝てるわけねぇよ!!!」

「ほ、本当にやるんですか?!エラン様?!」


 エランの声が聞こえる。


「当然だ。これを討伐できれば俺たち一気に昇進だぞ?!」


 エランがそう言った時だった。


「オォォォォォォォォォォオォォォ」


 ブゥン。


 ゴーレムが蹴りを放った。


 目の前で10人以上あっけなく死んだ。


 ゴーレムに蹴られて馬は空中に浮いてそのままエラン達も吹き飛ばされたのだ。


 まるで、デカさの前では作戦なんてなんの意味もないと言われているような光景だった。


 ブルッ。

 体が震えた。

 人間自分よりデカイもの見ると本能的にビビってしまうらしい、とほほ。


「シャーディー、さん?」


 俺はシャーディーを見た。


「迂回した方がいいんじゃ?無理だろあれ」

「そうですね。無理ですね」


 彼女はあっさりと頷いて執事に言った。


「無理です。迂回しましょう」

「はい」


 俺たちの馬車は大きくゴーレムから迂回をし始めたが、ゴーレムも動きだした。


 それは俺たちの進む方向と同じだった。


「あいつもドネスに用があるのか?」

「かもしれませんね。あんなのが街にたどり着いたら大変です。迎撃してもらうためにも連絡します」


 シャーディーは迅速に連絡を始めた。

 

 その時だった。


 グルン。


 ゴーレムの顔がこちらを見た。


「オォォォォォォォォォォオォォォ」


 唸り声をあげて俺たちの進行方向に手を伸ばした。


 そして、こっちに手を動かしてきた。

 掴むように動かしている。


「きゃ、きゃぁぁぁぁぁ!!!」


 悲鳴をあげるシャーディー。

 素人目に見てもこのまま横に移動しても捕まるのは避けられないだろう。


「やるしかないな」


 俺は窓から外に出てそのまま先頭の馬の背中に飛び乗った。


 右足を背中に、そして左足を馬の頭に乗せた。


「頭踏んで悪いな、馬。俺も足元不安定なんだ、それでチャラにしてくれ(謎理論)」

「ブルゥン」


(やるしかない。防御無視を信じるしかない)


 そんな会話をしていた間もゴーレムの手は迫ってきていた。

 巨大な手のひらが俺たちを吹き飛ばすように迫ってくる。


 この手と衝突するまでの時間は恐らく5秒程度か。


 そして、5秒、4秒……


 俺はタイミングを合わせて剣を抜刀して、下から上へと振り抜いた。


 ズバッ!


(通った!)


 剣がゴーレムの腕の部分に通った。


 そのまま下から上へ振り抜く。


 スパーン!!!!


 切断された手が飛んで行った。


「オォォォォォォォォォォオォォォ」


 ゴーレムが手を引いた。


(いける、効いてるぞ)


 すぅ、はぁ。


(やれる。俺の剣はこいつに通じる)


 ダメージを与えられるのであればこいつはいずれ倒せる。


「さて、最後まで解体しちゃいましょうか。今日が貴様の命日だ。グランドゴーレム」

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