第20話 おっさん、殺意を覚える

 関所を通ることになった。

 俺は関所なんて何度も通ったから慣れたものだ。


 そして一度も止められたことがない関所。

 このまま素通り出来るだろうと思っていたのだが。


「お待ちください。シャーディー・ブルーフィールド様。通行許可が出ません」


 関所の衛兵に止められた。


(え?なんで止められた?)


 そう思っていたらシャーディーは観念したように息を吐いた。


「はぁ、」

「まるで知ってた、みたいな反応だけど?」


 それか、慣れてるみたいな反応に思える。


 そう思って聞いてみたのだが。


「日常茶飯事ですよ。この時間なら止められないと思ったのですが」


(あらら〜)


 理由は分からないがこうして止められたのは今日に限った話ではないようだ。


「ちなみになんで止められてるんですか?これ」


 俺は衛兵に聞いてみたが衛兵は俺を見て感じ悪そうに笑った。


「おっさん、それ俺らが答える義務ある?ないよね?考えて分からないの?当たり前の話だよね?」


 むかっ。


 今のはまじでイラついた。


「はぁ」


 ドサッ。

 向こうに聞こえるくらいのため息を吐いて俺は椅子に座り直した。


 で、なんとなく察してた。


(職権濫用ってやつじゃない?これ。自分の立場利用して止めてるだけだと思うんだよなぁ)


 こうして関所で止められてる理由も分からないし多分理由なんてないんだと思う。


(本当にあるんだなぁこういうの。世の中クソ野郎だらけだなぁ)


 そう思っていたらシャーディーは言った。


「タツヤさんがここの衛兵ならすぐに通れたと思うんですけどね」

「まぁ、そうだろうね。なんも悪いことしてないし」


 この世界本当に異常だなぁ。

 そう思っていた時だった。


 カッッ。

 カツっ。


 足音が響いてきた。

 革靴で石畳をふむような音。


(なんか来たのか?)


 馬車の窓から身を乗り出して外を見てみる。


 すると、金色の髪の毛を腰まで伸ばした男(?)が近寄ってきていた。


 綺麗な白色の服に身を包んでいる偉そうなやつ。


 ここにいた衛兵がそいつに敬礼を始めた。


「ご苦労様です!エラン様!」


 ビシッ!

 敬礼を受けた男はにこやかに笑った。


「君たちもご苦労。さて、僕たちの馬を用意してもらおうかな」


 そう言うと衛兵達は散らばって言った。

 で、エランと呼ばれた男は俺が覗いてる窓の近くまできた。


 ムギュっ。

 俺の頭を掴んで壁際に押しやった。


「なにするんだよ」


 俺の抗議に、エランは言った。


「なに?僕に口答えするの?おっさん」


 エランは俺を脅してくる。


「今この場で違法薬物の所持でしょっぴいてもいいけど?見たら分かるよね?僕がこの関所の責任者だってことくらい」

(こいつ、まじかよ)


 とは思うが、俺がしょっぴかれても罪に問われることは無いだろう。


 さすがに一方的に犯罪者にされるほどこの世界は理不尽では無いから。第三者の調査で俺の白は明らかになるのだが。


 時間の無駄だ。


「この場で、"関所"で僕に逆らわない方がいいよおじさん。無駄に歳をとっただけで、年の功はないのかい?」


 イラッ。

 こいつ、本当に人をイラつかせるのが上手い。


「分かるよね?この場で誰に従うのが一番賢い選択肢なのか。分からないなら提示してあげるよ」



1.黙る

2.暴れる

3.逃げる


 紙にそう書いて見せてきた。


「選ばせてあげるよ、おっさん。ちなみに2と3を選んだ場合その場で僕がおっさんを捕縛するからね。その時、君は僕の輝かしい人生の踏み台になる。おっさん僕のために生まれてきてくれてありがとう。君みたいななんの価値もないゴミが僕の役に立てるなんてとてもいいことだと思わないかい?」


 とりあえず黙ることにした。


 この場では他に何かしても不利になる気がしてならないからだ。


 エランはシャーディーの方を見て言った。


「ドネスまで行きたいんだっけ?こんな情けない冴えないおっさんに頼まずに僕に頼めばいいのに」


 エランがそう言った時通行許可が出た。

 

 俺たちの馬車はやっと進み始めた。


 そして、馬車を囲むように数頭の馬が走り始める。

 エラン達の馬だ。


 俺はアホみたいにストレスを抱えながら馬車の椅子に座ってた。


「巻き込んでしまいごめんなさい。素通りできる予定だったんです。いつも昼にしかいないから。わざわざ連絡を受けて起きてきたんだと思います。こんな事までしてくるなんて」


 シャーディーが謝ってきた。


「ストーカーってわけね」

「はい。以前依頼で知り合ってからこうして付きまとわれてます」

「最悪だな」


 あんな奴に権利与えたのどこの馬鹿だよ。


 一番権力与えちゃだめなタイプだろ、って思う。


 俺は剣を目にやった。


(数は10くらいか?今なら……殺せr)


 って思ってたらシャーディーが止めてきた。


「まだ関所から確認可能な距離です。待ってください」


 今ので俺がなにをしたいのかを察したらしい。


 ていうか、この子すごくない?

 俺なんて初対面で殺したくなったのに、ずっと耐えてきたってことでしょ?


 そう思っていたらコンコンと馬車の扉がノックされた。


「僕だけでいい。馬車に載せてくれないか?眠い中起きてきたんだ」


 シャーディーは首を横に振って馬車にエランを載せた。


「ご苦労」


 エランは馬車の中のソファに座ると俺に目を向けた。


「おっさん、飲み物くれ」

「自分で取れよクソ野郎」

「は?」


 威圧してくるエランに答える。


「ここは関所じゃない。足りない脳みそで考えてみろよ。俺はお前の友達でも何でもないぞ」

「帰った時のリスクを考えて言ってるのかい?僕が一言言えばさぁ。おっさん、お前は終わりだぞ?」


 顔を手で抑えて笑っていた。


 俺も同じようにして笑ってやった。


「おいおい、冗談きついぞ?エリート様」

「おっさん、お前の冗談は面白くないぞ」


 俺は続けてやった。


「帰る?地獄への片道切符だろ。お前生きて帰れると思ってるのか?エラン様よ」


 普段ここまでイライラしないんだけど、なんだろう。

 コイツマジでムカつく。


 殺したい。


 エランはシャーディーに目を向けた。


「シャーディー、君もどちらの味方をするか考えておいた方がいい。この片道切符だがおっさんが死ぬことは確定している。その時君がおっさんの味方ならどうなるかは考えておいた方がいい」


 そう言うとエランは続けた。


「おっさん、君が僕を攻撃して殺すようなことがあれば冒険者カードに傷がつくぞ?今から謝罪の言葉のひとつでも考えておくがいい。そうすれば片道切符じゃないかもな?」


 そう言うとエランは馬車の奥にあるソファで寝転んだ。

 ぐがーっ。


 寝息が聞こえてくる。


 俺はこの時シャーディーの言ってたことを理解した。


(この世界の人間がこんなんばっかなら、俺程度の真面目さでも感謝されるよなぁ。こんなんに依頼受けられたことあるならトラウマにもなるよな)


 それから俺とシャーディーは顔を合わせて一番離れたソファに座った。


 そのとき、執事から声が聞こえる。


「お嬢様」

「どうしましたか?」

「ゴーレムが動いているように見えます。距離はまだ10キロほどありますが」


 前に指を指した執事。


 俺達には見えないが前にゴーレムがいるそうだ。


「予定変更です。このまま直進しましょう」


 しかし、その時だった。


 ドゥーン!!!!

 地響き。


「んひゃぁあぁあ!!!」


 エランが飛び起きてきた。


 ゴン!

 馬車の天井に頭ぶつけてた。


(ざまぁ)


 そう思ってたらエランが口を開いた。


「おっさん、そういえば知ってるか?」

「なにが?」

「今の地震がなんなのか」

「知ってるわけないだろ。知ってるならもったいぶらずに話してみろよ」


 一息はいてエランは言った。


「グランドゴーレム」

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