おっさん、伝説へ

第18話 おっさん、真面目さを評価される


 俺がグリノヴァの街で生活を始めて数週間程が経過した。


 あの後もちょくちょく依頼が来ていてそれをこなして、実績を積み上げた。


 この間に来た依頼というのは本当に細々としたもので、ぶっちゃけ最初にリッカから依頼された仕事が一番でかい仕事だった。


(本当はこんなに長居するつもりはなかったんだが、思ったよりここの居心地がいいなぁ)


 なんてことを思いながら俺は久しぶりの休みを満喫していた。

 実績を重ねるために多少安くても貰った依頼というのはできるだけこなしていた。


 その時だった。


「タツヤさん」


 ヒナが声をかけてきた。


 俺は顔だけ動かしてヒナの方を見た。


「どしたの?」

「依頼が来ていますよ」


 俺に手紙を渡してきた。


 カサっ。

 手紙を受け取り目を通す。


「庭師?俺がそんな歳に見えるのか?この依頼者は」


 なんか庭の伸びた枝を切って欲しいみたいな依頼が来ていた。


 これ俺の偏見なんだけど庭師っておじいちゃんがやってるイメージあるんだよな。


 そんな仕事をしてくれと俺に回ってきた。


 これは俺に直接送られてきた依頼である。

 だから向こうは俺の素性も年齢も知っているわけでこの仕事を依頼している。


(まだそんな歳じゃないと思ってるんだけどな)


 そう思いながらも依頼に目を通すととあるところで目が止まった。


【報酬:5万ジェル】


「ヒナー、今日のご飯なにがいい?」

「タツヤさんと食べられるならなんでもいいですよ」

「あー、じゃあ俺肉食べたいなー」


 そう言うと身支度を始めた。


「ヒナも行くか?」

「もちろんです!」

「んじゃ行こっか」



 依頼に書いてあった場所に向かうと豪邸だった!


「でけーっ」


 立派な家を立派な塀が囲んでて立派な門がついてる。


(まるでアニメや漫画の豪邸みたい)


 そんなこと思いながら俺はインターホンを鳴らした。

 すると、家の方から執事が歩いてきた。


 門を挟んで俺と見合った。


「タツヤ様ですね?」

「はい」


 ガチャっ。

 扉が開いて中に招かれた。


 門の中に入ると執事に案内されて庭にある倉庫に向かった。


 倉庫の中に入る。


「そちらのハサミをお取りください。それで庭の手入れをしてもらいます」

「はい」


 壁にかかっていたハサミを手に取る。

 シザーマンが持ってそうなあのハサミ。


(でけー)


 その後執事に案内されて俺は庭に戻った。


 そこで執事から庭の手入れの仕方を教えてもらう。


 木の枝の長さを整えて菜園の草の長さも整える感じ。


「では、この庭の手入れをお願いできますか?」

「はい」


 俺は頷いた。


 ちょろいもんだ。

 リッカに頼まれた仕事と比べたらハサミ持ってチョキチョキするだけだからなー。


「私も手伝いますっ!」


 ヒナもそう言ってハサミを借りていた。

 俺とヒナは2人で庭の手入れをしていくことにした。


 ちなみにだがニャゴは地面におりて爪で草の長さを揃えていた。

 こいつも働き者である。


 飼い主に似てきたのかもしれない。


 チョキチョキ。


 そんな音が鳴るだけのなんでもない一日が始まった。


 ちなみにだがここ最近の依頼はずーっとこんな感じだった。

 特筆することもないような、どうでもいい仕事。


 一件だけ迷子の猫を探してみたいな仕事も受けた。


 どれも報酬は安かった。


 だからこの仕事は報酬高いだけまだマシというやつだ。


 ジョキジョキ。


 何時間やっただろうか。


 分からないが執事に声をかけられた。


「タツヤさん?そろそろ休憩しますか?」

「自分はけっこうですよ。休憩すると切り替えに時間かかるんで」


 正直キツくない仕事だし、休憩はいらない。

 そのまま続けてそのまま早く帰りたい。


 代わり映えしなくて退屈なんだよなぁ、こういう仕事は。


「無理はしないでくださいね」

「はーい」


 そう答えてジョキジョキしてた。


 んで、気付いたら夜になってた。


「うわ。もうこんな時間か。集中しすぎて時間分からなかったや」


 庭を見てみた。


 まだ2/3が終わったかどうかってところだった。


(ていねいにやり過ぎたかな?)


 丁寧にやりすぎて仕事が終わらないというのは個人的に論外だと思っている。


(反省だな)


 そう思ってたら執事が寄ってきた。


「こ、こんなに終わったんですか?」


 驚いていた。


「こんなにってまだ1/3残ってますよ?」


 俺は庭を見た。


 まだ終わってないところが残っているのだが。


「あ、いえ。全部やってもらおうなどとは思っていないですよこっちも。せいぜい1/5くらいやっていただけたらなぁって感じだったんですけど」


 そう言うと執事はにこやかに笑った。


「本当に仕事がていねいですね。そして早いです。評判通りの方です」

「褒めすぎですよ。ははは」


 どうやら俺の仕事は別に遅くなかったらしい。


 安心した。


 それから執事は俺に報酬を渡してきた。


「ありがとうございます。さてと、それじゃあそろそろ帰らせてもらいましょうか」


 俺はヒナを連れて宿に帰ろうと思ったのだが。


「まってくださいタツヤさん」


 執事が呼び止めてくる。


「まだなにか?あ、ひょっとして仕事にミスがあった、とか?すみません。こういう仕事は初めてなもんで」


 執事は首を横に振った。


 どうやら違うらしい。


「タツヤさんあなたの真面目さは評価に値します」

「俺の真面目さが?」

「はい。あなたは信用していい人間だと私は判断しました」


 ぐるっと庭を見た執事。


「こんな夜遅くまで一度も休憩せず、サボらずに丁寧に仕事をしてくれた。なかなか出来ることではありませんし、その事は評価すべきです。あなたは素晴らしい人間だ」


 執事はそのまま家の方を指さした。


「あなたに追加の特別な依頼をお願いしたいのです。お話を聞いていただけませんか?」


 その言葉を聞いて俺は聞いてみた。


「なるほど。この庭師の仕事は言わばテストのようなもの、といったところですか」

「えぇ。失礼ながらあなたが信用できる人間かどうかを見極めていました」


 どうやらここからが本番らしい。


 それにしても、こんなテストが必要になるような依頼か。


 いったいどんな依頼なのやら。

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