第17話 イヤーミ、誰もいなくなる【イヤーミ視点】

 タツヤが道を作り、それを国が買った翌日のことだった。


 寝ていたイヤーミの耳にもその知らせは届いた。


「イヤーミ様!新しい道が出来たようですよ!」

「ん?」


 事務室でウトウトしていたイヤーミはその声で目を覚ました。

 声をかけてきているのはイヤーミの部下だった。


「国がマッドフロッグの対策に成功して道を新しく作ったみたいです。今まで5時間かかっていた距離が30分で済むみたいです」

「なんだとっ!」


 ウトウトしていたイヤーミの頭は覚醒した。


「その道を見に行くぞ!ちょうどいい。運ぶ荷物があったな!」

「はい、こちらへ!」


 イヤーミは部下を連れて昼頃に道を見に行くことになった。


 馬車を引いて道を見に行った。


「押すなよ!」

「そっちこそ!」


 イヤーミが道を見に行った時そこには既に大量の商人で溢れていた。

 みんな新しい道を使ってみたいらしい。


「しかし、すげぇよな。コンクリートだってよ。貴族様の敷地に使われてるような高級な素材で道を作ったんだってよ」

「すげぇよなぁ。タツヤってやつが作ったらしいぜ。それを国が買い取ったってよ」


 そんな言葉を聞いてイヤーミは少し考えた。


(タツヤ?どこかで聞いたことがあるような、まぁいいか思い出せんわ)


 イヤーミはタツヤのことを覚えていなかった。


 イヤーミは周りからヘイトを溜めすぎていて頻繁に抗議されたり敵対されたりしていた。

 そのせいで一回揉めた程度じゃ相手の名前も顔も覚えない。


「イヤーミ様次は自分らが通れるらしいですよ」


 考え事をしていたイヤーミの耳に部下の言葉が入った。

 

「そうかそうか」


 イヤーミは馬車を引いて道を管理している兵士の横に立った。


「どこの商会ですか?」


 イヤーミは腕を組んでふんぞり返って答えた。


「ガルド商会である。この国で一番の商会である」


 ふん!

 鼻息荒くして答えたが兵士は言った。


「お引き取りください」

「?????」


 イヤーミはもう一度言った。


「ガルド商会である」

「帰れって言ったんだよ。この道はあんたら通行禁止だ」

「なぜだ?!」


 イヤーミが兵士に聞いた。


「そういう決まりなのです。帰れ」


 兵士がそう言ったのを皮切りに周囲にいた他の商会も口を開いた。


「ざまぁあぁぁ」

「通行禁止だって、すげぇなぁ」


 周りからはイヤーミを笑うような声がどんどん上がる。


 笑いながらイヤーミのことを話していた。


「自分がどれだけ嫌われてたか自覚ないんだなこの間抜け」

「ばーか」


 イヤーミは叫んだ。


「誰の悪口を言ってる!」

「お前だよ」


 兵士にそう言われていた。

 それでイヤーミは口を開けた。


「後がつっかえてんだよ。早く帰れよガルド商会」


 兵士はいつまでも立ち去ろうとしないイヤーミを列から強制退去させた。


「お、俺はガルド商会だぞ?イヤーミ・ガルド様だぞ」

「知ってるか?それをお山の大将って言うらしいぜイヤーミさんよぉ」


 イヤーミはぽつんと取り残された。


「クズどもが」


 イヤーミはそう捨て台詞を吐いて自分たちの確保したガルドルートへ向かっていく事にした。


 だが、そこでも異変が起きていた。


「おい、どうなってる!これは!」


 いつもルートの警備をしていた兵士がいなくなっていた。

 いつも3人は待機させていたはずなのに、残っているのは1人だけ。

 その兵士も寝転がっていた。


「お、イヤーミじゃないか」


 いつもイヤーミのことを様付けしていた警備兵が声をかけてきた。


「みんな辞めたよ。ガルド商会は確実に潰れるって話をしてさ。んで俺も辞めるよ」


 バサッ。

 辞表を地面に投げ捨てた警備兵。


「ま、待たんか!この道を守れ!待遇は弾むぞ?!」


「こんな誰も通らないような道を守ってどうすんのさ。ははは。みんな国道行くでしょ?わざわざこんなおっそいルート使わずに、さ。しかも向こうはコンクリートの道だぜ?」


「な、なんだと?!」

「じゃあね。イヤーミくん」


 警備兵はすたこら去っていった。


 残されたのはイヤーミ。


「イヤーミ様。自分もやめます!」


 ビシッ!

 イヤーミの部下も敬礼をして逃げていった。


「く、くそ!まだやり直せるはずだ!」


 イヤーミは馬車に乗り込むと馬を走らせ始めた。


「この荷物には高価なものがある。これをリダスに売ってそれで立て直す!あいつの家とは長い付き合いだからな。金の補助もかなりしてやった。助けてくれるはずだ」


 馬を走らせ始めるガルド。


 そのまま自分の道を走り始めた。


 だが、この道は5時間かかる道である。


 やがて辺りは暗くなっていく。

 何も見えないくらいに暗くなった。


「はぁ、はぁ」


 月明かりだけが照らす道をイヤーミは走っていた。


 その時だった。


 ユラっ。


 イヤーミの進行方向に影が見えた。


「止まれっ!」


 イヤーミは馬を止めた。

 子供がいても馬を止めなかったイヤーミが馬を止めた理由はイヤーミだけは理解していた。


(やばいのがいる……)


 影はそのままイヤーミの方へ移動してきた。


 月明かりに照らされてその姿がはっきりと見えるようになってきた。


 両手にナイフを持った華奢な体が夜の闇に浮かび上がった。

 

「ガルド商会、やっぱりこのルートで待っていて正解だった」


 影が話した。


 ビクッ!

 イヤーミは死を覚悟した。


 その瞬間だった。


 ザン!


 馬の手綱が切られた。

 馬は恐怖からか逃げ出していった。


 後に取り残されたのはイヤーミと荷台。


 イヤーミの首筋にナイフが張り付く。


「お、お前は」


 イヤーミが呟いた。


「名乗る名前なんてない。ただの盗賊だよ。しがない、ね」


 イヤーミの首の脈が切られた。


 ドサッ。


(力が入らない)


 そのまま地面に倒れるイヤーミ。


 盗賊は荷台を漁り始めた。


「金銀財宝。沢山入ってるね」


 風呂敷いっぱいに戦利品を詰め込む盗賊。


 その時だった。


「ガルルルルルル」

「グルルルルルル」


 血の匂いを嗅いだのかハイエナが集まってきた。


 ハイエナ達が見つめているのはイヤーミ。

 盗賊には目もくれない。


「ま、まて……」


 盗賊に手を伸ばすイヤーミ。


「金は払う。助けろ」


 そう言われて盗賊はニコッと笑って答えた。


「これからあなたの商会の倉庫に押し入って全部奪うからいいよ。そっちの方が稼げるしね」


 盗賊の手にはいつの間にか鍵の束が握られていた。

 それはイヤーミの施設の鍵の束。


「だからあなたに従う必要なんてないよ。バイバ〜イ」


 そう言うと盗賊は夜の闇へと消えていった。


 残されたのはイヤーミとハイエナ。


「グルルルルルル」

「ガァァルルルルル!!!」


 邪魔者が消えたと思ったのかハイエナたちがイヤーミに噛み付いた。


「あぐぁぁぁぁあぁぁあぁあ!!!!!!」


 イヤーミの体はハイエナ共に食われていくことになった。


 グチャグチャ。


 ぴちゃぴちゃ。

 

 イヤーミは自分を食う咀嚼音を聞きながら死んでいった。


 こうして人知れずリダスの金の出処がひとつ消えていったのだった。

 

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