第15話 おっさん(と奴隷少女)、とマッドフロッグ③


 翌日。

 ヒナと一緒に例のマッドフロッグがいる場所にきた。


 もうここに来るのも3日目?である。

 かなり通いつめてしまったな。


 俺はいつものように容器を取り出してそこにセメントを入れた。


「ヒナ、ここに砂利を入れてくれるか?」

「こんなものいれてどうなるんですか?砂利なんていれていいんですか?」

「いいからいいから」


 そう言うと「えいっ」とヒナは砂利を入れてくれた。


 俺はそこに水も加えて混ぜていく。

 そうするとコンクリートの出来上がりだ。


 まずは説明することにしよう。


 ここできっちり分かるようになるまで仕事内容の説明をしないと俺もリダスと同レベルだから、だ。


(あれと同レベルは嫌だよなぁ)


 俺は剣でマッドフロッグのいる場所を攻撃してから即座にコンクリートで補強する、という流れをヒナに見せた。


 そして、コンクリートはニャゴが乾かしてくれる。


 かわいた後に足で軽く蹴ってみる。


 コンコン。

 硬い。


 大丈夫そうだ。

 そして、ここまでマッドフロッグが地面の下に来る様子は無い。

 やはりコンクリートで固めてしまえば奴らも出て来れないらしい。


「すごい!固まっちゃいました!なんでなんで?!」


 子供のように聞いてくるヒナに簡単に答えることにした。


「セメントと砂利とが反応しあって固まるんだってさ」

「物知りですね、タツヤさんは。憧れちゃいます!」

「褒めすぎだって」


 そう言いながら俺はヒナにバケツを渡すことにした。


「配合はここにメモしてあるからさ、コンクリートの作成をお願いできるかな?分からなかったら何度でも聞いてくれていいよ」

「は、はい!お任せ下さい!」


 こうして俺はヒナにはコンクリートの作成、それから流し込みを頼んだ。


 ニャゴはヒナがコンクリートを流し込んだ後どんどん熱風を放ってコンクリートを乾かしてくれる。


 超スピードでマッドフロッグの住処が潰れていく。


「ふむ。なかなかいい感じだ」


 何個めかのコンクリートを軽く蹴ってみる。

 うん。マッドフロッグが飛び出してくる様子も見えない。


 ぺラッ。

 地図を取り出してコンクリートを敷き詰めた場所にマークをつける。


 これで3/5ってところか。


 かなりいい感じのスピードだと思う。


 やはりヒナがいてくれるから効率もあがる。

 ニャゴがいてくれるお陰でもあるけど。


 そうこうしている間に夕方になってきた。


「日も落ちてきたね」

「そろそろ帰りますか?」

「いや、君さえ良かったら俺はここで野宿しようと思うけど」


 テントを取りだした。


「いちいち街まで戻るの面倒だし、この調子で行けば明日には作業が終わる。で、全部終わってからパーッと打ち上げでもどう?」

「わ、私も参加していいんですか?」

「嫌じゃなかったらね。無理やり来いなんて言うつもりないよ。面倒でしょ?おっさんと食事なんて」


 そう言うと首を横にブンブンと振った。


「そんなことありませんよ!タツヤさんとお食事したいです!」

「こんなおっさんと食事したいなんて嬉しいこと言ってくれるよね」


 そんなこと言いながら俺はテントの準備に入ることにした。


「つぅ……」


 それにしても腰が痛いな。

 年々体が悲鳴を上げているのが分かる。


「大丈夫ですか?」


 心配そうに近寄ってきてくれるヒナ。


「大丈夫だよ」

「手伝いますね」


 そう言ってテントの設営を手伝ってくれるヒナ。


(いい子だなぁ)


 そうして一緒にテントを完成させると俺は次に焚き火の用意を進めていく。


「そういえばこの焚き火ってなにか意味あったりするんでしょうか?」

「獣は火が苦手な種族が多いんだよ。だからこうしてると寄ってこなくなる」

「へぇ。そういう意味があるんですねぇ」


 驚いたような顔をしていたヒナ。


 どうやら日本での一般常識はこの世界では一般常識じゃないらしい。


 そのまま俺はご飯の準備も始めた。


 米を釜に入れて炊く。


 それからこれも使ってしまおう。


 アイテムポーチからマッドフロッグの肉を取り出した。


「それは?」

「マッドフロッグの肉だよ」

「食べられるんですか?」

「食べられるよ。以前聞いたことがあるからね」


 日本にいた時もカエルは食用に使えるって話も聞いたことあるし。


 ってなわけで火で焼いていくことにした。


 じゅわぁっ。


 脂の焼ける音が聞こえる。

 うまそうだ。


 米が炊けるまで俺はヒナと話でもすることにした。


「手伝ってくれてありがとうね。何か欲しいものとかある?」

「う〜ん……」


 考えてた。


 俺はひとつ提案してみることにした。


「俺この依頼でさ80万もらえることになってる。手伝ってくれたのもあるし、20万くらいなら渡せると思うけどどうする?それで奴隷やめれたりしない?」


 なんかこの子が奴隷なのを見てると辛くなってくるんだよな。

 こんなにいい子なのに。


 そう聞くと首を横に振ったヒナ。


「お金はいりません。でもよかったら身請けしてくれませんか?タツヤさんの横なら安心できるんです」


 この子を俺が買えってことか。


「意味分かってるの?俺の所有物になるってことだけど」

「はい、分かっています」


 俺の目を見ていた。


 少し考える。


(この子もまだ子供だしな。このまま奴隷を続けさせるのもかわいそうか。これから先マトモな人間に拾われる保証もないしな)


「分かった。買うよ、これが終わったらさ」


 俺がそう言った時、米がちょうど炊けたようだった。


 それから肉もすっかりと火が通っていたので肉を回収してヒナとふたりで食べた。


 外で食べるというシチュエーションのお陰か。

 すごくおいしかった。

 しかも空は綺麗な星空!

 こんなの見るの小学校の頃にキャンプした時以来だった。


 食事も終え、完全に暗くなったのでテントに向かうのだがその時に気付いた。


「あ、ごめん。そういえばテント一つだったけど大丈夫?」


 元々俺だけでやる予定だった仕事なせいで1つしか用意してなかった。


 俺とひとつ屋根の下ってことで、ヒナに聞いてみたんだけど。


「タツヤさんなら大丈夫ですよ。私はいつでも覚悟出来ていますから。タツヤさんのこと好きですから」


 顔を赤くしてそう言ってた。


 ん?


 もしかして俺誘われてる……?


(思い上がるなよ、おっさん)


 顔を横に振って俺はテントに入ると寝転んだ。


 すると背中側に張り付いてきたヒナ。


「タツヤさん、愛しています」


(やばいっ!やっぱ誘われてたやつだこれ!)



 翌日。


 朝から晩までひたすら頑張った。


 その結果。


「終わった……」


 自分の完成させたコンクリートの道を見ていた。

 地平線まで続くかのように思えるコンクリートロード。


 それを見ていると。


 じわりと涙が出てくる。


 達成感と疲労感。


 いろいろと混ざって複雑だったが。


(そこそこ大きかった仕事が終わったぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!)


 最短ルート上にあったマッドフロッグの住処を全て潰した。

 そしてコンクリートの道が出来た!


「やりましたね!タツヤさん!」


 俺の手を取って喜んでくるヒナに頷いた。


「ありがとう、ヒナがいてくれたおかげだよ」

「にゃ〜ご」


 ニャゴも同意するように鳴いた。


 俺はそれから街の方を見た。


「じゃ、リッカに報告しに行こうか」

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