第14話 おっさん、とマッドフロッグ③


「奴隷の分際で。誰の馬の前を歩いておる!貴様!名乗ってみろ!」


 イヤーミが子供相手に怒鳴っている。

 よく見ると子供の首には首輪が着いている。


(あー、あの子奴隷か)


 この光景が余りにも胸糞過ぎるからか、観客が何人もいた。


(どんな人生送ってきたら子供相手にここまで怒鳴れるんだろうな)


 そう思ってると女の子は言った。


「地面に散らばったものを集めさせてください」

「こんなゴミをか?!かーっ、ぺっ!」


 地面に痰を吐き捨てたイヤーミ。

 ちなみに地面に散らばったあれは……


(砂利……?しかも大量だ)


 イヤーミが口を開いた。


「こんなものを拾って集めているから貴様は奴隷なのだ!覚えておけ!」


 さすがに見ていられなくなってきた。


 俺は女の子の前に立った。


「イヤーミさんよ。まだ子供じゃないか。俺が代わりに説教を聞くよ」

「貴様は誰だ?その冴えない顔、見覚えがあるような、ないような」

「タツヤって名前だ。覚えててくれ」

「ぶはっ!間抜けな名前だな!記憶の片隅程度は使って覚えておいてやろう!」


「下がって」と小声で言って俺は女の子を下がらせたが。


「ふん。俺も急いでおってな。今日のところは多めに見てやろう。ではな、間抜け野郎と奴隷ちゃん」


(間抜け野郎と奴隷ちゃん、か。絵本のタイトルみたいだなぁ)


 そう思っていたらイヤーミは馬を走らせて進んで行った。


 完全に見えなくなってから俺は女の子を見た。


「大丈夫?」

「は、はい」


 そう答える女の子だったが目は違う場所を見ていた。

 地面。


 そっちに目を向けてみると砂利と石ころが散らばってた。


 女の子はしゃがんで砂利とかを集め始める。


「大切なもの?」


 聞いてみると女の子は頷いた。


「はい。私たちの生活費です。売ってるんです」


(この砂利とかを売って生計を立ててるってことか)


「私は奴隷で普段は鉱山で働いているのです、けど。それだけじゃ、足りず。そこで集めた砂利などを売ってるのです」


 女の子は答えてくれた。


 どうやら悲惨な状況ではあるが俺にとっては悪くないかもしれない。


「これ、どこに売りに行くの?」

「決まってません。いつも日によって違います。こんなもの買い取ってくれる店を探すのも一苦労ですし、徒労に終わることもあります、はははっ、」


 声に力がない。


 それに、どうやら特定の取引相手はいないらしい。


 好都合だな。


「俺に売ってくれないか?とは言え俺もそんなにたくさん出せないけど」

「えっ」


 目を見開く女の子。


 3000ジェルくらい取りだした。


「これで足りるかな?」


 俺の顔をジーッと見てきた。

 そんな目で見られたら不安になってきた。


「ごめん、足りないかな?」

「い、いえ。そういうことではなくて、こんなにいいのですか?砂利なんて役に立ちませんよ?」

「いいよ」


 そう答えると女の子は慌てたように言った。


「あ、ありがとうございます!」


 頭を下げてきた。

 

 それから俺は女の子に聞いた。


「この砂利とかはまだ持って来れたりする?大量に必要になるかもしれないから持ってきて欲しいんだけど」

「は、はい。持ってこれますけど、何に使うんですか?こんなもの」

「ちょっと、ね」


 答えると俺は追加で3000ジェルを渡した。


「い、いいんですか?」

「いいよ。その代わり約束破らずに持ってきて欲しい。明日同じ時間くらいに酒場にこれる?俺はそこにいるよ」

「は、はい!もちろん!絶対行きます!」


 女の子は返事をしてから名乗ってきた。


「私はヒナって言います。明日、絶対持ってきます!」


 そう言って彼女は走っていった。


 さてと、俺も宿に向かいますか。



 翌日俺はまた例のマッドフロッグがいるところにやって来た。


 そこで昨日手に入れたセメントと砂利や砂、それから水を混ぜることにした。


 その辺に落ちていた木の枝で混ぜてみる。

 ぐるぐるぐる。


 渦を巻いてドロっとした液体ができあがった。


 これがコンクリートである。


 チラッ。


 俺はフロッグのいる地面を見た。

 膨らんでいて分かりやすい。


「せいっ!」


 剣をぶっ刺して中のカエルを先に倒す。

 宝箱を速攻回収してからマッドフロッグのいた地面にコンクリートを流し込む。


 じわーっと円形に広がっていったコンクリート。


「うーん。早く乾かないかなぁ?」

「にゃごっ!」


 ブワッ!


 ニャゴの口から熱風が出てきた。


「お、おぉ、まじか。ってかそんなことも出来たんだなニャゴは」


 割と軽口で言ったんだが、まさか本当に乾くなんて。


 経過を見ているとコンクリートは固まった。


「お前のお陰だな」

「ごろにゃ〜ご♪」


 喉を撫でてやると気持ちよさそうにしている。

 そして俺は次にコンクリートの上に乗ってみたのだが。


「お?」


 下からなにかが出てくる様子は無い。


 膨らむ様子もない。


「これは……まさかまさかの完封というやつではないでしょうか?」


 俺は地図を出してとりあえずコンクリートを流した場所にマークをつける。

 これでもうマッドフロッグが出てこない場所が分かることになった。


 さてと、あとは


「同じように膨らんでいる場所を探して潰していきましょうかね」


 その後も俺は膨らんでいる場所を探しては中身を倒してコンクリートをかけて、を繰り返した。


 夕方くらいまで繰り返したところ俺の手持ちのコンクリートがなくなったため中断することになった。


 そんなわけで今は街の方に帰ってきた。

 んで、ヒナとの約束通り俺は酒場へと向かった。


「ふぅ、フリーランスってもっと楽なのかと思っていたがそうでもないな」


 好きな時に仕事ができるイメージがあったが今のところめちゃくちゃ忙しい。

 全部自分でやらないといけないもん。


(マッドフロッグ倒してコンクリートかけて、って忙しいなぁ)


 だが今は久しぶりに少しだけゆっくりする時間が出来たのでゆっくりすることにした。


 夜になると酒場は段々と賑わってきた。

 そして、待っているとやがて待ち人がやってきた。


「お、おまたせしました」


 肩で息をしながらヒナがやってきた。


「そんなに急がなくてよかったのに」


 そう言いながら俺は対面に座らせた。


「い、いえ。遅れてしまっては申し訳が立たないのです!」


 立派なことを言っている。

 俺はそんな彼女に本題を切り出した。


「持ってきてくれたよね?例のやつは」

「はい、持ってきました」


 ゴトッ。


 俺の目の前に彼女は大量の砂利が入った袋を置いてくれた。


「ありがとう」


 でも、足りないな。これじゃ。


 結構な量を持ってきてくれてはいるんだが、それでも大量のマッドフロッグに使うとなるとやはり足りない。


 俺はヒナを見て聞いた。


「その鉱山って俺でも入れるかな?」

「は、入れますけど汚いですよ?」

「ならさ。案内してくれない?もっと欲しいんだよね」


 俺はそのままヒナに案内されて鉱山に向かうことになった。


 鉱山前にたどり着いた。

 今は誰もいないようで自由に動くことが出来そうだ。


「こっちです」


 ヒナに案内されて向かったのは砂利置き場だった。


「好きなだけ持っていってください。ここの管理者もこれは要らないと言ってるので持っていってもなにも言われませんよ」

「おー、ありがとー」


 俺は好きなだけ砂利をかき集めることにした。

 横には砂もあったのでそっちも回収する。


 好きなだけ集めた。


 俺は金を取りだしてヒナに渡す。


「け、けっこうですよ!受け取れませんよ」


 遠慮してくるが、俺は金を押し付けた。


「感謝の気持ちだよ。ありがとう。すごい助かるよこれ」

「あ、あわわわわわ、すごい大金」


 ヒナの目がぐるぐる回転してた。


(お金あげたらこんな反応する人初めて見たな)


 そう思っていたらヒナは正気を取り戻して言ってきた。


「あ、あの、お手伝いさせてもらえませんか?砂利を使って何かしてるんですよね?働かせてください。私明日から2日間はお休みなんです」


 俺は地図を開いた。


 今のところ終わっているエリアはまだ1/5とかだった。


 本来リッカは1週間ほどで終わらせて欲しいみたいだし、できればそれに間に合わせたいと思っていたところだ。


「なら手伝ってくれる?」

「は、はい!あなたのお役に立ちたいのです!」


 とんでもなくいい子だった。






【補足】

3/3

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