そこそこデカい案件

第10話 おっさん、新しい街へ


 俺はマシロに見送られて関所まで来ていた。

 関所を通り街の外に出るのだが。


 俺ももうこの異世界に来て半年である。

 大体のことは分かっているつもりだ。


 一番安い移動方法は商人が別の街に移動する時に一緒に連れていってもらうというやり方らしい。


(さて、どうやって交渉するか)


 というより


(どの商人を選ぶかだな。怖そうな人はやだな。あと女の人はちょっと気まずい。俺女の人と話せないし)


 関所では当然荷物の検査をするのだが、その検査というの順番がある。


 ズラーっと行列を作ってる。

 まるでスーパーのレジ待ちみたいな感じ。


(あれにするか)


 俺はレジ待ちで暇そうにしていて、積荷も少なそうなおっさん商人に声をかけることにした。

 横に立つと男が俺の顔を見てきた。


「なんだぁ?坊主」

「馬車に載せて欲しいなぁって思いまして」


 おっさんは笑って言った。


「いくら出せる?」

「5000ジェルくらい」


 おっさんの顔が変わった。

 笑顔が消えちゃった。


「足りねぇよ。女なら無料でも乗せてやるがな」


 衝撃がはしった。


 まじか。


(話を聞くに5000で足りるって聞いてたんだけどなぁ)


「女なら体で払わせるとか出来るんだが男のお前じゃぁなぁ。はっはっは。他所を当たるんだな」


(あぁ、嫌な奴だなぁこいつ。まぁいちいちこんな事で腹立てても仕方ないしな。忘れよう)


 そう思いながら俺はこの男の馬車を見た。


 【ガルド商会】と書いてあった。


(覚えとこ。接点なさそうだけどさ)


 不買運動してやる。


 1人で不買の誓いを立てながら次のターゲットを探す。

 他に暇そうな人は、と。


 いたいた。


 俺は次のターゲットに向かって歩いていくことにした。

 ちなみにガルド商会よりも前に並んでいたらしく早いうちに関所を抜けられそうな人。


「すみませーん」

「ん?」


 くるっ。

 こっちに振り返ったのは金髪の女だった。

 髪の色はちょっとくすんでて苦労を感じさせる気がした。


(女の人だけどさっきのおっさんと比べたらはるかに当たりっぽいなぁ)


 歳は20過ぎくらいかな?


「馬車、乗せて欲しいんですけど」

「行き先聞かなくてもいいのか?」

「別に決めてないんで」

「ふーん。後からクレームつけられても困るんで言っとくが、グリノヴァの街ってとこに行くんだ、それでもいいか?」

「もちろん」


 俺は頷いた。


「いくらですか?」


 首を横に振った。


(お?)


「無料でいいよ。話し相手もいないし、乗ってけよ。それから身分証明書を見せてくれ。一応どんなやつかは確認しておきたい」


 俺は冒険者カードを女に見せた。


「犯罪者でも盗賊でもなし、か。大丈夫そうだな」


 そう言うと女は名乗ってきた。


「私はリッカ。短い間だろうけどよろしく」

「タツヤです」

「珍しい名前だね。初めて聞いたよ」


 そうやって会話してるとリッカの検査の番になった。


 関所の職員にリッカが馬車の中身を見せて検査を受ける。

 俺はその間にガルド商会の方を見た。


(あの位置だとガルドがここ通過するのに3時間くらいかかりそうだな。心優しい人がいて良かったー)


 そのとき検査が終わったようである。


 関所職員が口を開く。


「通れ」


 リッカが馬車を引いて関所を通っていく。


 関所を抜けるとすぐに草原になっていた。


「タツヤは私の横にでも乗るといい」


 リッカはそう言って自分の座る席の横を指さした。


 なんて言うのか分からないけど、馬に指示を出すあの部分だ、車で言うなら補助席ってとこか(?)。

 こういうところで、知識のなさが出てくるよな、とほほ。


「それにしてもまさか無料だと思わなかったなぁ」

「長旅だからな。話し相手の1人くらい欲しかったたけだよ」


 俺たちを載せた馬車が進んでいく。


 居心地は良くないが悪くもない不思議な感じ。

 深夜バスと同等くらいの乗り心地だが、リッカって子が気さくだから居心地いいのかな?


 そんな雰囲気の中俺とリッカは雑談をしていった。


 しばらく進んでると軽く舗装されたような道が出てきた。

 その横には兵士(?)が立ってる。


 でもリッカはその人たちを大きく避けるように馬を動かした。


「え?あの道じゃないの?」

「あの道は使えない」

「え?じゃあなんのための道?」


 ギリッ。

 リッカは手綱を強く握ってた。


(怒ってる?)


「あれはガルドの道だよ。ガルドロードって呼ばれてる。ガルドがガルドのために作ったガルドのための道」


 そのまま俺たちはガルドロードを大きく迂回していった。

 必要以上に迂回してる。


(ガルドがうるさいんだろうな)


 それくらいに思うことにした。


 そして、日が昇るか昇らないかくらいの頃になった、薄らとしていた視界もはっきりしてきた。


 遠くの方に関所が見えてきた。


(あれがグリノヴァの街かぁ)


 で、その時に気付いた。


「あれ?なにあれ」


 俺はかなり前を走っていた馬車を指さした。


「俺たちより前に人なんていたっけ?」

「あぁ。あれは【ガルド商会】だよ」


 仏頂面で呟いたリッカ。


「おかしくない?俺たちよりかなり後に出てきてるはずだよね?」

「ガルドロードを使うとかなり早いんだ。だからだよ。数時間の短縮になる」


 ちょっとモヤッとした。


(でも、俺なんかじゃどうにもなんない事情なんだろうなぁ)


 ガルドは先に関所に消えていく。


 それからしばらくして俺たちを載せた馬車も関所前へとやってきた。

 グリノヴァの町の関所。


「着いたぜ。ここがグリノヴァの街」


 俺たちの目の前には関所が現れた。


 中に入る時に検査を受けることになった。


 だが俺はリッカの仲間じゃないし、手荷物なども少ないからすぐに中に入れることになった。


 というよりリッカもここで別れるつもりだったらしく「先にいけ」と言われた。


 街の中に入る前にリッカが話しかけてきた。


「また会えるといいなタツヤ」


 俺はその言葉に頷いて先に街の中に入ることにした。


 中に入ると今までいた街と似たような街並みが広がっていた。

 中世ヨーロッパ風の街並みだ。


 しかし、初めてくる街であることには変わりは無い。


(とりあえず情報とかを集めるためにも冒険者ギルドにでも向かってみるか)


 同業者っぽい人に話を聞きながら俺は冒険者ギルドへ向かい中へ入る。


(内装はどこの街のギルドも変わんないんだなぁ)


 そのままカウンターへ向かっていくと若い受付嬢の人が声をかけてきた。


「こんにちは、なにかご用ですか?」

「フリーランス登録をしたいんだけど」


 このフリーランス登録というのをすると直接依頼人から依頼が来たりするようだ。

 本当に有名な人はギルドに登録しなくてもいいみたいだが、そういう人はほんのひと握りだそうだ。


 で、この時の依頼ではギルドの中抜きは入らない。

 全額俺に報酬が渡るようなシステムになっているらしい。


 しかし、一応デメリットもあって。

 名前の売れてない冒険者には依頼がほぼ飛んでこないって事と、仮に依頼が来ても「名前売りたいんだよな?」って足元見られる可能性が高いってこと。


 そういうのが来ないようにするにはとりあえず冒険者ギルドからの依頼を受けて知名度を上げる、みたいな作業が必要だったりする。


 よく出来てるよな。世の中甘くはない。


「フリーランス登録でしたら。冒険者カードの提示をお願いできますか?」


 そう言われて俺は冒険者カードを出した。


「なるほど」


 俺のカードを見てうんとかすんとか言ってる受付嬢。


「実績は一件ですか」

「あ、はい」


 シュン……ってなる。

 俺はまだまだ駆け出しフリーランサーだからなぁ。


「やはり名前を売るしかないんですよね?」

「まぁ、そうですね。今有名なフリーランスとして働いてる人たちも無名だった時期はあるので」


 うーん。


 クエストでもとりあえず受けてみようかなぁって考えてた時だった。


 バーン。

 ギルドの扉が開いた。


 そこから中に入ってきたのはリッカだった。


 そのまま俺の方に歩いてくると声をかけてきた。


「よっ、また会ったね」


 俺にそう言いながらカウンターにクエスト用紙を出していた。


「これ、ギルドに頼むよ。依頼金は後払いで」

「かしこまりました、手数料は30%です。各種ギルドのサービスなどつけますか?」

「高いからいらない。簡単な依頼だし」


 そんな会話をしていた。


(手数料たっか!これがギルドによる中抜きかぁ……)


 俺は依頼側に回ったこと無かったけど、こんなにするんだなぁ、ギルドって。


 ボケーッと俺がリッカを見ていたらリッカも俺を見てきた。


 目が合った。


「あっ、タツヤってそういえば冒険者なんだっけ?」








【補足】

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