第9話 おっさん、初めてをもらう
酒場で食事をしていると対面にマシロが座ってきた。
「こんばんはー、依頼の方は?」
俺は言われていた物をマシロに渡した。
「お、早いですね。あなたに頼んで正解でしたよ」
そう言って彼女はリンゴを受け取っていた。
俺はマシロに聞いてみることにした。
「ところでさ、なんでゴブリン相手に防戦してたの?Aランクなら勝てそうだけど?」
「そ、それはですね。装備を身につけてなくて、馬車から装備と一緒に落ちて装備だけ奪われたんですよ。それがどうかしましたか?」
そう聞かれて俺は隣で会話していた男たちを指さした。
男たちの会話に耳を傾けろという意味である。
「魔法少女ゴブリン倒されたらしいぜ」
「へぇ、もうか?!くぅ!俺も倒したかったなぁ」
「魔法を使うゴブリンとか希少種だもんなぁ」
俺はそんな会話を聞いてマシロに目を向けた。
「今朝、噂を聞いてさ。なんとなくピンと来たってわけ。装備奪われたんじゃないかってさ」
そう言ってみると俯いたマシロ。
「お恥ずかしい限りです」
そう言ってる彼女に俺は回収してきた装備を渡した。
すごく驚いたような顔をしていた。
「えっ?」
「リンゴを回収してると偶然会ってさ。例のゴブリンに。倒したらドロップした。元々君のものでしょ?だから返すよ」
俺は魔法少女セットをマシロに返した。
「わぁ、ありがとうございます!」
涙目になりながら受け取ってくれるマシロ。
ってか、泣き出した。
「ほ、本当に返してくれるんですか?」
「え?か、返すよ?元々君のでしょ?」
バッ!
両手で顔を覆ってた。
そんなに嬉しいらしい。
「ドロップした装備は本来拾った人のものです。それを返してくれるなんて……タツヤさんは本当にいい人ですっグスッグスッ。こんなにいい人がこの世界にいたなんてぇ」
泣き始めた。
(そうなんだな、普通落としたものはもう帰ってこないんだなぁ)
俺も財布とかを落とさないように注意しないと。
「実は私が冒険者になった頃から愛用してる大事な装備だったんです。もう戻ってこないと思ってました」
そう言ってからマシロは俺に報酬を渡してきた。
「こちらは報酬の分です。それから」
追加で俺に【5万ジェル】を払ってきた。
「装備を取り戻してくれたお礼です」
ニコッ。
笑ってた。
それからマシロはまた口を開いた。
「次の依頼とかって」
「あー、いや。その件なんだけど、俺この街を出ようと思うんだよ」
パチクリ。
瞬きしてた。
「あ、ごめんなさい。私の依頼がうざかった、とか?」
「そんなことじゃないよ。ちょっとした事情があってさ」
そう言うと少し寂しそうな顔をしていた。
「いつこの街を出るつもりですか?」
「今日にでも出るつもりだよ」
日本にいた時もそうだけど日中の移動より夜の方がコストが下がる。
俺みたいな底辺冒険者が移動するとなると夜の方が都合がいいってわけだ。
「ってわけで君とはもうお別れだ。こんなおっさんの相手してても時間もったいないよ?」
そう言ってみるとマシロは聞いてきた。
「連絡先を教えてもらえませんか?」
「連絡先?俺連絡手段なんて持ってないけど」
はて。
俺が知らないだけでスマートフォンとかあるんだろうか?
そう思っていたらマシロは口を開いた。
「え?メッセージ機能についてなにも教えてもらっていないんですか?」
「うん?メッセージ機能?知らないよ」
「酷いパーティですね。新人には教えないといけない決まりがあるのに」
そう言ってから自分の冒険者カードを見せてきた。
ちなみに運転免許証みたいなあれだ。
【冒険者カード】
名前:マシロ 冒険者ID:235,856
ランク:A 【顔写真】
性別:女
年齢:16
【メッセージ】
「この冒険者IDってありますよね?」
マシロは1番下にある【メッセージ】と書いてある所を触った。
すると
【メッセージリスト】というものが開いた。
「この冒険者カードを使うとIDを交換した間柄なら連絡ができます」
「へぇ、おっさん知らなかったなぁ。そんな機能があるんだ」
身分証明書程度にしか思っていなかったら知らなかった。
それにしてもこの冒険者カードというものは凄いものらしいな。
さすが異世界だ。
日本より便利じゃないか?
そう思いながら俺はマシロと冒険者IDを教えあった。
【マシロの連絡先が登録されました】
おぉ、マシロの連絡先がこれで登録されたようだ。
初めての異世界の友達を手に入れた。
俺がそう思ってたらマシロは顔を赤らめて言ってきた。
「私の初めての連絡先交換もあなたです」
「え?俺なの?」
てっきり交換しまくってるものかと思ったけど。
「本当に連絡先が欲しい人としか交換していませんよ。あなたは命の恩人ですし、ね」
どうやら俺とは交換したいと思ってくれたらしい。
てわけで交換も終わったので俺はこの街での最後の晩餐をマシロとすることにした。
食事も終えたのでマシロに声をかける。
「いろいろ、ありがとねマシロ」
って言ってから俺は思った。
(呼び捨てってなんかおかしいよな?さんを付けるか?いや、でも年下だぞ?)
色々考えた結果俺は
「マシロ、ちゃんでいいのか?」
そう呟くとマシロはクスッと笑って言った。
「マシロでいいですよ」
呼び捨てを許可してくれた。
「分かった。いろいろありがとね、ほんと」
そう言って別れようとしたときだった。
ギィィィィっ。
酒場の扉が開いた。
「ふぅぅぅぅぅぅ、腹減った〜」
リダスが入ってきた。
俺と目が合った。
「チッ」
機嫌が悪いのだろう。
舌打ちして近寄ってくる。
「おい、おっさん。お前の顔見たくないって俺言わなかったかなぁっ?!耳ついてる?脳みそついてる?人の言葉分かる?」
ガッ。
俺の胸ぐらを掴んできたリダスだったが、そのとき。
「誰ですか?あなた」
マシロがリダスにそう言った。
リダスは俺から手を離してマシロに目をやる。
「え?マシロじゃん」
俺とマシロを交互に見たリダス。
そのあと俺の頭をペシペシ叩いてきた。
「おいおい、おっさん!マシロと知り合いなの?!すげぇなぁ!お前!げははは!冴えねぇのに、金でも渡したのか?」
マシロの顔が歪んだ。
リダスの行動を不快に思っているようだった。
だが、リダスはそんな顔の変化に気付かないままマシロに近寄った。
「マシロ?俺がその冴えないおっさんの元パーティのリーダーなんだよ」
そう言われた瞬間マシロは蔑むような目をしていた。
「へぇ、あなたが」
「うん。俺と組まない?そこの冴えないおっさんより俺のがいいだろ?いくら払えば俺はパーティ入れる?」
「死ねばいいのに。ねぇ、おまえはいくら払えば死んでくれるの?」
マシロがそう返した瞬間リダスは固まった。
ガタッ。
マシロは伝票を取って立ち上がった。
「どいて、邪魔。不愉快。不快。この世から消えて。人の言葉理解出来る?」
「へっ?」
ドン。
凍っていたリダスを突き飛ばしたマシロ。
リダスは突き飛ばされて酒場の床に尻もちをついてた。
マシロはそのまま俺の横に来て言った。
「行きましょう、タツヤさん」
俺に向けるのはいつもの笑顔だった。
「あ、あぁ。(うっひゃぁ。この子こんなことして平気なのか?)」
少し心配になりながらも俺たちは会計を済ませて店を出た。
「大丈夫なの?あんなこと言って」
「大丈夫ですよ。なにがダメなんです?」
キョトンとした顔で聞かれた。
「仲間を大事にしないような人なんですから、巡り巡って罰が返ってきただけですよ。因果応報ってやつです」
おぉ、そういう考え方も出来るのか。
なるほどなぁ。
マシロは口を開いた。
「もうこれから街を出るつもりですか?」
「うん。あのリーダーと同じ街にいるとまた揉めそうだしね。それに他の街も見てみたいから」
そう言って俺は歩き出した。
「送りますよ」
マシロはついてきてくれるようだ。
俺は感謝しながら関所の方に向かっていくことにした。
で、関所が見えてきた。
関所の門の前には長蛇の列があった。
商人が関所で荷物チェックを受けるために順番待ちで並んでいるのだ。
んで、俺みたいな冒険者もここを通るには冒険者カードの提示が必要なので取り出しておく。
そこでマシロは言った。
「では、私はここまでです。これから頑張ってくださいね」
「うん。頑張るよ」
そう言うとマシロは俺の頬に軽いキスをしてきた。
「はっ?」
ボケーっとしてるとマシロは口を開いた。
「別れの挨拶です。でもこんなことしたのもあなたが初めてですよ。タツヤさん」
にっこり笑ってきたマシロ。
「次は口で出来ることを私は祈っています、では」
恥ずかしそうに手を振りながら街の方に戻ってった。
俺は頬を指で触った。
(おぉぉぉぉぉぉぉぉ……まじか……)
俺があまりの出来事に数分間、ボケーっとしてると、冒険者カードが光った。
(ん?光ってる?見てみるか)
【星3つのレビューがつきました】
と出ていた。
(レビュー?なにこれ)
そう思っていたら表示が切り替わった。
【とても真面目で誠実で優しい人でした。この世界にこんな優しい男の人がいるなんて私はタツヤさんに出会って初めて知りました。結婚依頼はいくらで受けて貰えますか?…… by マシロ】
100%の高評価 0%の低評価
評価者数:1人
う〜ん。
おっさん、こういうハニートラップにはすぐ引っかかるからやめてくんない?
(あぁ、それにしても。こういう評価もあるんだなぁ、この世界)
頑張らないと低評価がついてしまうわけだ。
(おっさん豆腐メンタルだから低評価爆撃とかやめてくれよ〜?なんてな)
さぁ、次の町ではどんな生活ができるのかなぁ。
【補足】
2/2
これで一章終わりです。
しばらく2話投稿だと思います。
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