第5話 おっさん、Aランクパーティの誘いを断る

 ぺこり。

 女の子が頭を下げた。


「ごいっしょしても?」

「あぁ、もちろん。いいよ」


 そう言うと女の子はお辞儀をして俺の対面に座ってくる。


「あぁ、別にそんなに改まらなくてもいいよ」


 そう言うと女の子は言った。


「いや、えっと。そんなわけにはいきませんよ。目上の方には」


(リダスにはこの子の爪の垢を煎じて飲ませたいところだ。あいつは俺のこと格下にしか見てなかったからなぁ)


 そんなことを思いながら俺は言った。


「いいよ、俺はそんなに尊敬される人間でもないし」


 女の子は頭を下げて名乗った。


「私はAランクパーティ所属の聖女マシロと申します」


 ほえーっ。


 Aランク。


 Aランク……。


「え、Aランク?」

「はい」


 ぼけーっと口を開ける。


 理解できない。


「な、なんでAランクの人があんなところでゴブリンにやられてたの?」


「お恥ずかしいのですが、今日この国に来たばかりでして。その移動中に馬車から落ちてしまって、誰にも気付いて貰えず、ゴブリンに襲われまして。そこをあなたが助けてくださったのです」


 頬を抑えてクネクネと体を揺らして恥ずかしがっている。


 すごい、かわいい子だが。


「Aランクなら俺と話すことないんじゃない?俺Eランクだし時間の無駄でしょ?」


 そう言ってみるとマシロは言った。


「そんなことはありません。ランクなんて関係ありませんよ。私はあなたとお話がしたいと思ってしているのです」


 にこっ。


 笑顔を向けられた。

 キラッキラの笑顔。


 それから聞かれる。


「お名前をお聞きしても?」

「あっ、俺はタツヤ」

「タツヤさんですか。素敵なお名前ですね」


 ニコッ。


 グハッ!

 この子の笑顔は殺人的にかわいい。


 んで、そんな笑顔を向けられて喋られると思い出す。


『おっさん、おしゃべり料払えよ。若者と話せてるんだぞ?しかも名前まで呼んでやってるんだぞ?おい、タツヤ!ギャハハ』


 前のパーティではそんなことを言われていたことを。


 で、そんなトラウマが甦ってきた。


「あ、言っとくけどお金は払えないからね?」

「えーっと、なんのお金ですか?タツヤさんがお金を払う必要は無いと思いますが」


 そう言うとマシロは口に手を当てた。


 ハッとしたような顔だ。


 それからゴソゴソとアイテムポーチからお金を取り出してきた。


「少ないですが、お礼です」


【100,000ジェル】


「いち、にぃ、さん」


 数えてるとマシロが言ってくれた。


「10万ですけど」

「こ、こんなに?」


 俺はただゴブリンから救っただけだ。

 それなのにこんなに?!


「はい。私の命と考えると安いくらいだと思います。申し訳ないのですが今はこれしか手持ちが」


 そう言われて手を突き出して慌てて横に振る。


「め、めっそうもない!こんなに受け取れないよっ!」


 そう言ってつき返そうとしたが彼女は言った。


「気持ち程度です」


 にこっ。


 この子に笑顔を向けられると何も言えなかった。


(かわいくて俺なんかと話してくれてお金もくれる、とか天使かよぉぉ)


 心の中で感動して咽び泣きながら俺はお金を受け取った。


 するとマシロは言った。


「今パーティなどにはご加入されていますか?」

「いや、今は入ってないんだ」

「でしたらフリーなのですか?」

「うん」


 俺がそう答えるとマシロは聞いてきた。


「では、良ければ、私たちのパーティに加入しませんか?」


 俺は首を横に振った。


「いや、無理だよ。俺はEランク。君らの動きについていけないよ。俺は弱いからEランクなんだし。おっさんだし……ね」


 ジョッキを握って酒でも飲むかと思っていたら。


 すっ。


 俺の手を両手で包み込むようにして握ってきた。


「そんなことありません。あなたは強いですよタツヤさん。今日私を助けて下さりました。優しい心をお持ちでないとできないことです」

「人としてとうぜんのことだよ」

「そんなことありません。あなたは素晴らしい人です」


(うーん)


 このままでは堂々巡りしそうな気がしたので俺から話を切り上げることにした。


「気持ちは受け取っておくよ。でも、悪いけどパーティには入れない。君らのパーティに入りたくないわけじゃなくて、これは他のパーティも同じだよ」

「なにか理由があるのですか?」


 そう聞かれて話しておくことにした。


「俺はフリーランスってやつを目指しててさ」

「フリーランス?」

「うん、パーティには所属せず、ソロで活動する冒険者のことを言うらしいよ」


 そう言うとマシロは笑顔を浮かべた。


「ではさっそく依頼を頼んでもいいですか?タツヤさん」


 俺は苦笑して聞いた。


「それ、難しいんじゃないの?」


 そう聞くとマシロは言った。


「いえ、Eランクのクエストです。私たちのパーティ宛に届いたクエストなのですが、他にも依頼を抱えていて時間的に厳しいのですよ。それをタツヤさんにお願いしたいなと思いまして」


 スっ。


 マシロが依頼書を机に出してきた。



【黄金リンゴの採取】

報酬:3万ジェル

難易度:Eランク

場所:ゴブリンの森



 と、書いてあった。


「これを俺に?明らかに相場より報酬高いよね?」

「はい。ギルドの中抜きがなくて、報酬を全額お渡しできるからです」

「ま、まじかよ」


 ゴクリ。

 唾を飲み込んで俺は頷いた。


「受けさせてもらうよ」


 そう言うとマシロは立ち上がった。


「この酒場にはどの頻度で来ますか?」

「毎日かな」

「では、私も毎日きますよ。報酬は依頼のクリア時にお渡ししますので」


 ぺこり。

 頭を下げて彼女は伝票を持っていった。


 俺の分も払うようだった。


「ここは私から出させてもらいますよ。タツヤさん。本日はありがとうございました」


 ぽつんと残された俺はマシロを見送っていた。


(キラキラ輝いてる。俺とは違う世界の生き物だなあれは)


 食事を手早く済ませて俺も酒場を出ていくことにした。


 ちょうど酒場を出たところだった。


 ドン。

 誰かにぶつかったようである。


「す、すみません」


 咄嗟に謝ってみた。

 だが向こうは笑った。


「誰かと思ったらお前かよ、おっさん」


 リダスだった。


 俺は入口を塞がないように、どいたのだがリダスは言った。


「今日のところは許してやるよおっさん」

「なんかあったんですか?」


「聖女マシロだよ。上品な女を見かけたんで機嫌がいいんだよ。いいよなぁ、あいつ。俺もあいつとパーティ組んでみてぇ。ってか話してみてぇなぁ。おっさんには一生かかっても無理だろうけど。俺があいつと付き合えたら、おっさんには俺の中古女送り付けてやるよ〜。ま、お前じゃお古にも振られるかっ!ぎゃはははは」


 俺は心の中で思った。


(俺はマシロと既に話したしパーティにも勧誘されたよ?その上に依頼も頼まれたよ?羨ましいかな?)


 はっはっは。


 心の中でマウントを取ってから俺は酒場を出ていく事にした。


 いやー、今日は珍しく俺も気分がよかった。


 だからだろう。いつもなら聞かないようなことをリーダーに聞いてみようと思った。


「リーダー。なんで俺にスキルの話とか教えてくれなかったんですか?」

「は?スキル?」


 向こうも機嫌がいいのだろう。

 話に乗ってきた。


「なんの話をしてんだおっさん」


「レベル上がったらスキル獲得できました。それからボーナスポイントってのも貰えました。できれば教えて欲しかったんですけど」


「は???なに寝ぼけたこと言ってんの?はー、シラケたわー」


 鼻で笑ってリーダーは酒場の中に入ってった。


(どうやら俺には相変わらず嫌がらせしたいみたいだな。本当に嫌なやつだ)


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