第2話 おっさん、レベルアップ
ゴブリンの飛びかかり。
(冷静になれ)
自分に言い聞かせる。
相手が武器を持っているからなんだと言うのだ。
俺も武器を持っている。
プラマイはゼロだ。
タッ。
横に動くと俺の立っていた場所に棍棒を振り下ろすゴブリン。
ボコン!
棍棒が地面に埋まる。
「ギッギッ」
棍棒を地面から抜こうとしている。
隙のように見えるが、念の為不用意には近付かない。
(相手の行動を見るのはゲームの基本だ)
「ギィィィィィィィ」
ボコン。
ゴブリンがやっと地面から棍棒を抜きとる。
ここまで3秒ほどの時間だった。
(次は反撃してみるか)
今対峙しているのが人なら、今のは俺の攻撃を誘うフェイントである可能性があるが、ゴブリンの知能はそこまで高くない。
普通にミスをしただけだ。
「ギィィィィィィィ!!!!」
次もまた同じ攻撃をしてきた。
スっ。
最小限の動きで攻撃を避ける。
ボコン!
大きく埋まる棍棒。
「スラッシュ!」
俺は剣を縦に振りゴブリンを倒した。
「ギィィィィィィィ」
その場で光となって消えていくゴブリン。
後には宝箱が残されていた。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺は夜の森の中で喜んだ。
なぜならばモンスターをソロ討伐したのは今回が初めてだからである。
初めての成功体験はとても嬉しい。
異世界に来てからはモンスターは危険と教えこまれてずっとパーティで慎重にモンスターを倒していた。
しかし、今回俺はついにモンスターのソロ討伐に成功した!
「やれば出来るじゃん俺も!ナイス!俺!」
感極まってテンションが上がってしまった。
しかし、よく考えてみれば痛くないか今の俺。
ふぅ、反省反省。
それに、どこで何が聞いてるか分からないので夜の森で叫ぶのはあまり良くは無い。
自制しないとな、自制。
そんなことを思うが内心ウッキウキだった。
「さてと」
喜んだところで次にやることがある。
宝箱の中身確認である。
しゃがんで宝箱を開けてみる。
中に入っていたのは
【500ジェル】
お金だった。
「ラッキー?なのかな」
よく分からない。
パーティでモンスターを倒していた時はこういうドロップはリーダーが全部貰ってたからな。
うーん。よく分からん。
だが、金は金だ。
ウッキウキで回収していると。
また新しくウィンドウが出てきた。
【経験値を獲得しました】
(おー、経験値かー)
こちらはパーティにいた時も貰えていたが、取り分はたしか1/10とかだったかな?
取得した経験値はデフォルトではパーティの人数で割られるのがこの世界のシステムらしい。
『おっさん、お前新人だし活躍してないから経験値もほとんどいらねぇよな?』
設定次第では経験値の配分はリーダーが決めることができたらしく、こんなこと言われるのは日常だったのだが。
果たしてどれくらい入手出来たのだろうか?
【200EXPを獲得しました】
(こんなにもらえるのか)
いつもなら10から20EXPなところをこんなに貰えてしまった。
(この世界ってパーティ組む理由がクエストを楽に進められること、くらいしかないのか?)
そんなことを思う。
そういえばリーダー言ってたな。
『フリーランスってのは強いやつがなるんだよ』
みたいなこと。
(そりゃ1人でモンスター倒せるようなやつならフリーランスになるよなぁ……)
さてと……。
次のゴブリンでも倒しに行きますか。
しばらく歩いてるとゴブリンの声が聞こえた。
右手の茂みの奥から聞こえる。
「ギィィィィィィィ!!!」
「ギィィィィィィィ!!!!」
どうやら2匹いるらしい。
森の中、視界が悪いので声だけでの判断になる。
「ギィィィィィィィ!!!」
(ん?この声興奮してるか?)
さっきから気になっていたが、このゴブリン達なぜか興奮しているような鳴き方をしている。
(もしかしたら、狩りでもしているのかもしれないな)
ゴブリンも生き物だ。
生きるためには食事をする必要がある。
そして、その食事というのは基本的に動物を食うことだ。
兎とか。
ならば、これはチャンスである。
(兎を狩っているゴブリンを俺が狩る。これが漁夫の利というやつである)
そうと決まれば俺は茂みの中に入っていく。
茂みで音を鳴らさないように慎重に近付いていくと。
白いなにかがうずくまっているのが見えた。
その白いなにかを囲んでいるゴブリン2匹の姿。
「ギィィィィィィィ!!!」
ボコッ!
白いなにかを棍棒で殴りつけようとするゴブリン。
だが、攻撃は外れて地面を殴っていた。
白い方……兎だと思われる、はその場でうずくまって震えていた。
それを見てゴブリンは笑っている。
「ゲゲゲゲッ!」
「ギギギギ!ギーギッギ!」
(獲物をいたぶっているのか。ゲス共が)
俺は静かに茂みから出ていき。
「スラッシュ」
1匹のゴブリンを迅速に倒した。
視覚外からの不意打ち。完璧だった。
「ギエッ?!」
突然の事で驚いているもう1匹。
間髪入れずに俺は即座に剣でもう1匹も倒した。
ゴトッ。
残ったのは、2つの宝箱。
それから1匹の兎と思われる獲物。
(これで助かったし、勝手に逃げるだろ)
そう思ったので俺は宝箱の回収を始めた。
中身は両方【500ジェル】だった。
しかし、特筆すべきところはそこではなかった。
【経験値を獲得しました】
【400EXPを獲得しました】
【レベルが上がりました】
の表示!
(レベルが上がった!)
レベルが上がったぞ!!!!
1か月前に俺は最後のレベルアップをしてからそれから今日までの間レベルが上がっていなかった。
しかし今日一日でレベルが上がった。
(これがソロ活動の恩恵か!)
正直言うと俺は1人になってからの方が動きやすいと感じていた。
例えば今のゴブリンだってパーティを組んでいた時は4人で倒すように動いていた。
絶対4人必要ないよね?っていう敵でも4人だった。
しかし今の俺は1人。
1人で十分な敵ならば1人で動いた方が早い。
(ははは、パーティを抜けて正解だったかもな)
やれやれ。
もっと早くパーティを抜けていれば良かったよ。
そう思いながら兎の方に目をやった。
ジーッ。
俺を見ているのは兎ではなかった。
女の子。
(え?)
白い服に身を包んだ白い髪の女の子だった。
「あ、ありがとうございます」
両手を組んでお礼を言ってきた。
「あなたですよね?ゴブリンに襲われている私を助けてくださったのは」
バッ!
俺の手を取って聞いてきた。
(ゴブリンに襲われてる……って表現どうにかならなかったのかな?なんかエッチだよ)
そんなこと思いながら頷いた。
「あ、うん。俺だけど、ごめんね。兎だと思ってて、声かけなかったんだ」
「兎?私がそんなに小柄という事でしょうか?あ、ありがとうございます」
顔を赤らめていた。
どうやら小柄と言われて嬉しいようだが。
(ていうか、今の俺はこんな会話してる暇も惜しいんだよなぁ)
言ってはなんだが俺は自分に益のないことには関わらない主義である。
「ごめん、俺今急いでるんだ」
そう言って俺は街の方向を指さした。
「向こうに街があるからさ。送れないのは申し訳ないんだけど。じゃあね」
会話を早々に切り上げる。
チラッ。
去り際に女の子の方を振り返ったがジーッと俺を見ていた。
だが、やがて歩き出した。
ほっと胸を撫で下ろす。
(大丈夫そうだな)
そう思っていたら女の子から最後の声が聞こえてきた。
「その先ボスがいるそうです。お気をつけください!」
そう言って走っていった。
どうやら忠告してくれたらしい。
心の中で感謝しておく。
【補足】
本日3話更新
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