第5話 カクヨムマッスルコンテスト
ぐらぐらとする視界の中、俺は筋肉の声に耳を傾ける。
元々の世界にいた時、俺はニートだった。
この世界を憎んでいた。
仕事はしたくないのに、周りは俺に仕事をしろとうるさく言う。
そんなヤツらを見返したくて小説を書くようになった。
確かに小説を書くのは楽しかった。
だが、誰も俺の作品を認めてくれなかった。
本当なら俺の作品は売れまくって、作家として左団扇の生活が待っていたはずだったのに。
だから俺はあの世界を否定した。
異世界に逃げようとしていた。
幸か不幸か、俺は異世界に転生した。
だが、あっさりゴブリンに殺された。
あんな世界はクズだ。
そうして、この世界に戻ってきた。
なんだ! 「世界は筋肉の炎につつまれた」って!
そんなわけないだろ!
俺は心の中で絶叫した。
だが、そこで気づいてしまった。
俺はどの世界でも、居づらさを感じていた。
いや、正確には自ら世界を否定していた。
俺は気づくと服を一枚ずつ脱ぎ始めていた。
なぜか、そうしたかった。
俺はヒャッハーたちと同じように上半身裸になる。
「ナイスバルク!」
隣で
何を言っているんだ。
俺はガリガリなのに。
そう思って、自分の体を見下ろすと、そこにはゴリゴリに隆起した大胸筋と腹筋があった。
そうか、あれはやはりプロテインだったんだな。
アフロマスターが出した白濁液は筋肉の増加を急速に促す、プロテインだったのだ。
だから、俺は筋肉の声が聞こえるし、マッチョなのだ。
「さあ、ジムへ行こう!」
パブの向かいには「カッパワージム」と銘打たれた、レモンイエローのド派手な看板があった。
中に入るとマッチョたちがガシャン、ガシャンとマシンで鍛えている姿が目に入る。
今はとにかく筋トレがしたい。
そう、俺は今まで自ら置かれた立場に不満を述べるだけだった。
そうじゃないんだ。
今いる、この場所で何ができるかを考えるべきだったんだ。
ニートだったけど小説を書いていけることに喜びを感じていた。
あの感情をもっと大事にすべきだったんだ。
PVの低さや、★の少なさに嘆くのもいい。
だけど、執筆の辛さや楽しさを忘れちゃいけなかった。
俺はダンベルを握ってフンフンと筋トレに励む。
俺はこのマッスルワールドを否定しない。
この世界でできることをするために、新たなスタートを切る。
そして、いつかカクヨムマッスルコンテストで好成績を残し、世紀末筋肉として名を馳せる。
その舞台で高らかに宣言するんだ。
わが筋肉に一片の悔いなし、って。
了
マッスルフィナーレを飾る花束3 月井 忠 @TKTDS
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