第3話 夢の無限エネルギー

「お前、大丈夫か?」

 そう言うと、ヘルメット男はヘルメットを取った。


 出てきた顔は普通の顔だった。

 てっきり、ヤバいヤツだと思っていたけど、顔はそうでもない。


 いや、人は見かけによらないから、まだ警戒しておいた方がいい。


「俺の名前は筋繊維 爆男はぜおと言うんだ」


 なんだ、名前教えてくれるんだ。

 それにしても変な名前だ。


「ああ、ペンネームだよ。俺もカクヨムマッスルユーザーだ」

 そう言うと爆男はぜおさんは握手を求めてきた。


 僕はハッとした。

 まさか、こんな世界にもカクヨムがあったなんて。


 ちょっと名称が違うみたいだけど、とりあえず気にしない。


「僕はリッチマンです。あ、ペンネームです」


 僕たちは握手をした。


「それにしても、その話……」

 爆男はぜおさんはそう言って、言葉を濁した。


「信じてもらえないかもしれないけど……真実です」


 他のヒャッハーたちはざわついた。


「そうか。とりあえず熱中症の疑いがあるから、近くの街まで送るよ」

「え?」


 どうやら信じてもらえなかったようだ。


 残念だけど、仕方ない。

 僕は天を仰ぐ。


 この砂漠では太陽を遮るものは何もなくて、とても暑いし、喉も渇いていた。

 一人でずっと歩くより、ヒャッハーたちに送ってもらった方が良いかもしれない。


「それじゃ、お願いします」

 そう言って、爆男はぜおさんのスクーターの後ろに乗った。




 ブロロロッ。


 スクーターは砂にタイヤを取られて、とても走りにくそうだった。

 スピードも速いわけじゃなくて、時折転びそうになる。


「リッチマン。この世界のこと、どれぐらい覚えてる?」

 爆男はぜおさんがスクーターを運転しながら聞いてきた。


「いえ、ほとんど知りません」

「そうか」


 彼は街までの道すがら、この世界のことを教えてくれた。




 超温暖化。


 その現象によって世界は後戻りできなくなったらしい。

 慌てて化石燃料の使用を止めたけど、それでも気候は元に戻らなかった。


 再生エネルギーもあるにはあったけど、全てをまかなうことはできなかった。


「そこで、俺たちの出番さ!」

 爆男はぜおさんは左手をハンドルから離すと、力こぶを作った。


 人類はエネルギーを求めた。


 そして生み出された最後のクリーンエネルギー。

 それが人力発電だった。


 各地のジムと発電所を連結して、マッチョが重りを上げたり下げたりする力を利用して発電する。

 夢の無限エネルギー。


 こうして人類は全員マッチョに変貌していった、らしい。


 僕はその話を聞き流した。

 こんな世界は僕の世界じゃない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る