呪文を使ってコンボ! ダンジョンについて
昨日は呪文習得に丸一日使った。
Lv0呪文はノート片手に使えるようになったし、〈破魔矢〉はちゃんと暗記してノートを見なくてもどうにか使えるようになった。〈火矢〉〈氷矢〉はノート見てもまだ無理という感じ。似た動きもあるので覚える呪文が増えれば増えるほど間違えることも多くなりそうだ。
そもそも動きを覚えるので精一杯で根本的な魔力の動かし方を会得するなんてこと不可能に思えてきたのだった。
慣れていけばまた違ってくるのだろう。
気持ちを切り替えて、今日はダンジョンに行く日である。
流石に冒険者として稼げるということを確認しないと居心地が悪い。
さて、俺には朝目覚めたら行う、新しい日課が生まれた。
転生してからというもの冒険者を目指して、毎朝簡単な筋トレと体操と魔力の隆起を行っていたのだが新しくそこに加わったのは魔法だ。
MPという概念はないけれど疲労が溜まれば正確な動作はできなくなる。
練習を繰り返して体力をつけていくしかない。
手を光らせ、そのまま両手を大きく動かしていく。時に近づけ時に遠くへと。
シュバ、シュバシュババババ
「防護!」
少し間違えないよう固まりながら、まったくもっておぼつかないながらも呪文は発動した。
まだ慣れずに少し恥ずかしさがあるが実際に効果があるのだ。
前世とは違う。
体を包む魔力の力場。
これで俺に対する攻撃が少しだけ弱まるようになるそうな。
続けて呪文を発動する。
シュバ、シュバ、シュババババ。
「跳躍!」
足にまとわりつく魔力の感覚。
これで俺のジャンプ距離が3倍になる。
なんだか足が赤くなった気分である。
幅跳びの記録が大変なことになるが3倍になるのはダンジョンに行ってからだ。
今は1割でも増えたら良いんじゃないかという感じ。
続けてもう一回、
シュババババ、シュバ、シュバ!
呪文によって結構動きが違うのでまだ慣れない。
「着陸!」
これで俺の落下速度が軽減される。
3倍高く飛べるようになったら普通に怪我するところをこの呪文で無事に着陸できるというコンボである。シナジー、呪文と呪文による相乗効果だ。
もちろん相性の悪い呪文もあるけれど今回のはコンボできるそうだ。
落下軽減分は遠くに飛べるらしい。以前魔術師に関してネカフェで調べた時に個人ブログにそう書いてあった。どれほどのものか楽しみである。
ちなみにいまやっている呪文の使い方なんかを事前でネットで調べなかったのは悪魔召喚など危険な呪文を安全な呪文だといいながら教えてくる危険なものがあるらしいからだ。
魔法や単純に技術を使って一見公式サイトみたいにしたサイトにアクセスさせられたりなんて事件も最近は話題になっていた。
そんなわけでネットの何が正しい情報なのかまだ俺には見分けがつきそうになかったので調べるのはやめてこうしてしっかりと本を買ったのだった。
さて、〈防護〉〈跳躍〉〈着陸〉の三つの呪文で自分自身にバフをかけるというのが俺の新しい日課だ。
これは練習にもなる。
バフというのは強化するっていう前世ではゲーム用語だったのだが今世では普通に強化するって意味で通っていた。
「この朝のバフ呪文ラッシュ、魔術師としての冒険の始まりに相応しいな!」
安アパートの中で俺は1人そう言って気合いを入れて、朝食の納豆ご飯を腹の中に収めたのだった。
今から行くダンジョンはショッピングモールの近くにあるスタンダードなダンジョンで、浅い階層は煉瓦造りの通路に小部屋があるという前世の知識的にも古き良きダンジョンのようだ。
もちろん深い階層や別のダンジョンでは海とか森とか広大な異空間が広がってるそうな。
そういうものがダンジョンと呼ばれている。
今から行くダンジョンは東京に昔からある有名なダンジョンで最終到達深度は49階層までだ。その先はどこまで続くのかは分かっていない。
今世において何千年も前からダンジョンと付き合ってきた人類が49階層までしか到達してないことからわかるのはダンジョンの難易度は高く、その中はとても広いということだ。
日々その構造も変化するらしい。
放っておくと中の魔物が地上に大量に襲いかかってくるいわゆるスタンビートが発生する為、間引きするのも冒険者の使命である
こういう大きなダンジョンには、万が一のスタンビートに備えて自衛隊の基地があるし、冒険向けのレンタルロッカーやシャワー室、戦利品の売却や通称クエストというちょっとした仕事を受けられる市役所……通信冒険者ギルドがあるし、ショッピングモール、カプセルホテルなんかの商業施設もある。
今世の社会、都市はダンジョンと密接な関係がある。
ダンジョンについてこんなところだろうか。
浅い階層ならすでに冒険者や最近ではドローンなんかでマッピングもされているらしいが今回はそういうものには頼らずに行こうと思う。
買っておいた装備を受け取り、軍用ヘルメットにライダースーツを着用した姿になる。
リュックサックにポーチも装備。
止血ポーションの他に万が一の食料と、水の入ったペットボトルや簡単な消毒とか絆創膏とか消臭スプレーなんかをリュックに入れてある。
前世ではちょっとした不審者だが、今世ではダンジョンに潜る格好としてはおかしくない。
ファンタジーで変質者といえば……ビキニアーマーなんかも今世でもあるみたいだし、多少目立つ感じはあるがどんな格好も受け入れられる世界のようだ。
着替えが終わればダンジョンの入り口へと向かう。ピーク時は避けてはいたが、何人か他の冒険者も歩いていた。
その道中とある通路を通ることになる。
通路の両端にブースが連なり両サイドから声をかけられる。
「バフ要りませんか〜! 呪文一個千円でお得ですよ〜! 冒険前にいかがですか〜!」
「荷物持ちます!荷物持ち要りませんか〜!」
「新装開店! 冒険の終わりに温泉はどうですか! 割引券あります」
こうした冒険者への客寄せが行われていた。大手ダンジョンだとこういう施設があるのだ。冒険者同士の交流を促す空間だったらしいのだが今では単なる商売をする空間になっていたりもする。
ここにいるのはしっかりと許可をとって売り場を借りているものたちだから怪しくはないはずだが前世にはない文化に少し気後れした。
彼らはバフ屋と呼ばれる冒険者向けサービスや荷物持ち、帰りの冒険者向けの宣伝など雑多な集団だった。
格好もスーツ、メイド姿、制服、巫女姿、なんでもありだ。俺の格好もここではそこまで目立たないだろうとその点は少し安心。
今はスルーしてダンジョン探索に向かう。
魔法職としてはバフ屋はやってみたいとは思っているが今ではない。
ダンジョンの入り口は地面に広がる半径3メートルほどの大きな黒い円形の穴だ。
石造りの階段があり、そこを下っていく形となる。
いよいよ俺はダンジョンへと足を踏み入れた。
やっぱり現代ファンタジーでしょ。俺は魔術師で生きます。 @7576
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