第44話 一方そのころ真斗は
「はい、ただいま~」
縁寮に、一切やる気のない俺の挨拶が響く。
返事がないのはいつものこと。野々部たちは部室棟の部室にいるか、部屋ににこもって作戦会議でもしているのだろうから。
「さて、勉強でもするか。最近怠け気味だったからな」
プールに行ったり、カラオケに行ったり。
元々勉強が好きなわけでも、学習習慣が身についているわけでもないから、一度怠けるとどこまでもずるずる行ってしまう。
「今日はがっつり勉強して、リズムを取り戻すぞ!」
今日の俺は勉強の鬼だ。学習意欲に燃える俺は、もう止まらねえからよ。だから誰も、止めるんじゃねえぞ……。
「あ? なんだ、お前、帰ってきたの?」
「ええ……帰ってきただけで文句言われんのぉ……?」
「違えよ。別にお前は帰ってきていいよ。つか、あたしがいる時は即効で帰ってこいや」
「急に亭主関白出してくるよな。豊澤は昭和に生きてんの? そういえば、豊澤って帰ってくるのなんか早くね?」
「ああ、面倒な授業はフケちまってるから」
どうやら、見た目通りヤンキーだったみたい。
お前が素行の悪さで留年することになっても、俺は知らんぞ。
こういう人間にならないように、頑張って勉強しないとな。ありがとうよ、反面教師。
「いや、それはいいんだよ。塚本、お前帰りに絡まれなかった?」
「なんで?」
「いや、あたしが学校出た時にさ、ここらじゃ見ねえツラがうろちょろしてんの見かけたんだよ」
「そりゃこの街には豊澤が知らない顔もいるだろうさ」
「違う。見覚えがあるんだよ。あたしの地元では有名な連中で。マジで洒落にならなくてさ。なんか口に出したくねえ犯罪ばっかやってたらしいんだわ。そいつらがこの街まで出張ってきたらしい」
「ふーん、ワルにも遠征って習慣があるのか。じゃあ不良の強化合宿でもしにきたのかもな」
「冗談言ってる場合じゃねえよ。マジで凶悪な連中だぞ。あたしは面倒だから、そいつらに関わらないようにしてたんだけど、まさかこっちで見かけるとは思わなかったから、ちょっとビビったわ」
「へえ、豊澤でも弱気になんのか。じゃ、警察に頑張ってもらうしかねえな。税金分はきっちり働いてもらおうぜ。で、どうして俺がそいつらに絡まれなきゃならんの?」
「そいつらは武闘派のグループなんだ。弱そうなヤツじゃなくて強そうなヤツを潰して楽しむって噂だからさ。お前がターゲットにされたっておかしくはないから」
「だから俺は帰宅部だよ。めっちゃ弱いの。プールでの一件で、豊澤も俺の醜態見て知ってるだろうが」
「まだ言うか。……まあいいや、絡まれてねえなら、それに越したことねえしな」
豊澤が背を向けて、食堂へ戻ろうとする。
「あーあ、めんどくせえよな。この辺も治安悪くなりそうだ。連中が話してるのこっそり耳にしたんだけど、学校の近くに廃工場があるんだよ。あそこって完全に打ち捨てられた廃墟のわりには、中は以外と劣化してねえんだ。だから、あそこを根城にしちまおうぜ、とかなんとか言ってるの聞いちまってさ」
「廃工場……? そこってもしかして――」
俺は、心当たりのある住所を告げる。
「ああ、そこだよ。よく知ってんな。お前、廃墟マニアだったの?」
「……はあ~っ」
「なんだよ、変なため息つくなよ。あたし、そんなマズいこと言ったか?」
「違う……豊澤のせいじゃない」
俺はピンと来ちゃったんだ。
たちのわるい不良軍団が根城にしようとしているのは、まさに今日手紙で指定されたあの廃工場ドンピシャだったのだ。
「あ、でも、
なにせ、自称脅迫状からしてあのざまだ。
武市は真面目そうだから、こんな脅迫状で塚本君が来るわけないだろ、もっと考え直して……とかんとかうるさいことを言って、あの茶番を曖昧なまま終わらせてくれそうだ。
「なんだぁ、一人でぶつぶつ言いやがって。あたしに秘密にするな。お前のことはできるだけ全部教えろ」
「なんで俺の秘密を知ろうとするんだよ。こっちの話だから気にするな。じゃあ俺は、これから勉強の虫になるから。決して扉を開けるなよ……」
「童話の鶴みてえだな、お前」
豊澤を置いて、俺は階段を上っていく。
「……明日になったら、絶対近づかないよう言い含めとくか」
安次嶺は迷惑なヤツだが、幼馴染には違いない。
できれば、あいつが傷つくのはあまり見たくないんだよな。
そう思うのは、俺もだいぶ安次嶺に毒されてしまっているからだろう。
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