第42話 茶番へのお誘い

 放課後。

 昇降口にたどり着くまで、おかしなことは何もなかった。

 不自然なことが起きたのは、靴箱になっている四角いロッカーの扉を開けた時だ。


「……なんだ? 手紙?」


 俺の靴の上に、四つ折りの便箋が仕込んであった。

 一瞬、ラブレター、という単語が頭をよぎるのだが、今どき手紙を送るような古風な女子は存在しないだろう、と冷静になって手紙を開けた。

 中は、案の定、告白のお誘いではなかった。

 脅迫状だ。

 そこには、とある悪者が安次嶺千歳を誘拐したので無事に返してほしければ町外れの廃工場にすぐ来るように、というメッセージが綴ってあった。

 文字がやたらと丸っこい……。

 そんな文字で、『お前にとって世界で一番大切な女は預かった。返してほしくば――』云々書かれているから、緊張感もへったくれもない。

 ていうか、だれが「世界で一番大切な女」だよ。自分で書いてて恥ずかしいとか思わなかったのか。


「これが武市が言ってたやつか」


 安次嶺考案の茶番。

 憂鬱になるお誘いだ。

 事前に武市から知らされていなかったら、また安次嶺が妙なことをやらかしたと不安になっていたかもしれない。


「悪いが、残務処理は頼むぞ、武市」


 安次嶺千歳と仲良しを自称するあいつなら、どうにかしてくれるだろ。


「それにしても余計なゴミ増やしやがって。進学校の生徒会長なら、もっと地球の環境に配慮する努力をする意識を持てよな」


 俺は、丸めた便箋をポケットに押し込んで、帰宅の途につくのだった。

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