第41話 対抗意識
昼休み。
屋上で豊澤の弁当を味わったあと、自分の教室へ戻ろうとした時だ。
「塚本君だよね? 探したよ」
意外な人物が声を掛けてきた。
「えっと、確か……
「なんだ。僕のこと覚えていてくれたんだ?」
人好きのする笑みを見せる武市。
「それで、俺に何か用でも?」
「ああ、そうなんだ。今朝、千歳……いや、安次嶺会長から何か頼まれなかったかい?」
「頼み? いや、聞いてないな。……ん? そういえば、私がピンチになったら助けてくれとか意味不明なこと言ってたな」
「やっぱりそうか……」
「どうしたんだ?」
急に悩む仕草をして固まりだしたので、俺は武市の前で手のひらを振る。
「ああ、悪いね。やっぱり君には、教えておいた方がいいかもしれない。君も危うく安次嶺会長のとんでもない計画の犠牲者になるところだったんだから」
犠牲者とは、穏やかじゃないな。
どういうことかと思って話を聞く。
武市の説明によると、どうやら俺は、安次嶺の狂言に付き合わされる寸前だったようだ。
その目的は知らないけどさ。武市も、どういうわけかその辺をはぐらかして教えてくれないのだ。
まあ、武市も知らないってことだろう。
安次嶺のことなんて、考えるだけ無駄なのだ。
あいつのことは、あいつにしかわからないから。
「そんなわけで、僕はわざわざエキストラを雇うために東奔西走。苦労したよ。舞台に立つのに適切な人材なんてそうそういなかったからね……」
そういえば、武市もまた安次嶺の幼馴染なんだっけか。
まともに話すのは初めてながら、急に親近感が増した。
「でも、そこまで苦労したんなら、むしろ俺が安次嶺に付き合った方が、あんたとしては良かったんじゃないか? 舞台もキャストも用意し終えてるんだろ?」
「まあね。そりゃ苦労したさ。けれど、だからといって関係ない人を千歳のわがままに巻き込みたくはないからね。安心してくれ。計画を中止するように僕の方で会長を説得してみせるよ」
なんとも真面目なことだ。
この性格で安次嶺の近くにいたら、気苦労は相当多いだろうな。
「あんたも大変そうだし、これからも頑張れよな。あんまり安次嶺の言うこと真に受けない方がいいぞ」
「そうだね。それは僕が一番よく知ってるよ。誰よりもね」
……ん?
「千歳とは、小学校高学年からの付き合いだから。小学校でも中等部でも、ずっとクラスは一緒だし、家だってお隣さんだ。本当の家族以上に一緒にいた身として、彼女のことは誰よりも理解してる。家族ぐるみの付き合いで、お互いの家に何度もお泊りした仲だしね……」
不思議だ。
どうして武市は、急にこんな安次嶺と仲がいいアピールをし始めたんだ?
そしていつのまにか名前呼びに。
「だから、塚本君。これからは千歳から無茶振りをされたり、振り回されそうになったら、迷わず僕に相談してくれ。代わりに引き受けるから。あのお転婆が過ぎる子と上手く付き合えるのは、僕を置いて他にいないからね」
「あ、ああ、頼むわ……」
「ああ、任せるといいよ。長年幼馴染を務めた、真の幼馴染の僕にね! おっと、そろそろチャイムが鳴ってしまう! じゃあ僕はこれで!」
話しかけてきた時は深刻そうだったのに、去っていく時の足取りはずいぶんと軽やかだった。
「あいつ、なんなの……?」
わかりあえる部分がありそうな気がしたけれど、別れる時はまったく意味不明な生き物になっていた恐怖。
過度な幼馴染アピールは、まさか対抗意識?
「別に俺は、そんなことで競い合う気はねえし」
なんだったら、誰でもいいからあいつをさっさと引き取ってほしい気分ですらある。
「……なんか、モヤッとするな」
スッキリしない気持ちは、教室へ戻ったあとも続いた。
安次嶺を取られたようで内心焦っているからではないか? という結論に至ることを恐れて、それ以上考えることをやめるのだった。
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