第35話 昼休みのお誘い
週明け。
四時間目の授業が終わり、昼休みになる。
俺は、いつものように教室を出ようとして、踏みとどまってしまう。
「……そうか、豊澤に出禁を言い渡されてるんだった」
レジャープールで起きた一件で、俺は豊澤を失望させてしまった。
豊澤の根城である屋上へは立入禁止で、当然、豊澤の作った弁当を食べることもできない。
「すっかり忘れてた。こんなことなら購買でパンでも買っておくんだった……」
購買は品数が少ないため、他の生徒と競争になることが多いから、フライング気味に教室を出ないと売れ残った不人気商品で昼休みを過ごさないといけなくなる。ただでさえ今日の四時間目の授業はチャイムが鳴ったあとも教師が勝手にアディショナルタイムを導入してしまったので、今から行っても売れ残りの不人気商品にしかありつけまい。
貴峰学園のルールで、外へ買いに行ったり食べに行ったりすることもできないし。
これは、残り物の味気ないパンでやり過ごすしかないか、と覚悟した時。
「塚本くん、どうしたの?」
「
うっかりしていた俺が悪いだけだから気にしないでくれ。
そう続けて会話を打ち切るつもりでいると。
「そっか。でも購買って今から買いに行っても……あっ、そうだ! ちょっと待っててね!」
「……?」
不思議に思って黙って見ていると、和泉は自分のカバンから弁当箱を引っ張り出し、開けた蓋だけ持って再び席を立つ。
「ごめん、みんな。オラに昼めしを分けてくれ!」
教室に残っていた弁当派のクラスメイトに冗談交じりで頼んで回っていく。
和泉の人徳なのか、頼まれたクラスメイトは男女問わず嫌な顔せず、そうするのが当然という顔をして、和泉が差し出した蓋におかずを一品乗せていく。
あっという間に、蓋の上には溢れそうなおかずの山ができた。
「はい、塚本くん。これでコッペパンしか買えなくても、味気ないお昼にならなくて済むでしょ?」
「あ、ああ……ありがとうな」
「どうしたの?」
「改めて、お前のコミュ力と人徳ってすごいな、と」
「別に普通だよ。クラスのみんなが親切なだけだって」
おかずで山盛りな蓋を手にした俺は、感慨深い気分になる。
和泉のコミュ力の賜物とはいえ、外部生の和泉に対して、外部生はもちろん内部生まで小さな親切を積み上げてくれた。
野々部がこの光景を目にしたら何と言うだろう。
感動するかな、と前までの俺は思ったのだが、今抱いている野々部のイメージだと、それは内部生の罠だ! とか言って認めなさそうではある。なんとなくだが。
「ついでといえばあれだけど、塚本くん、このあとどこで食べるつもりなの?」
「ああ、今日は……」
どうするか。屋上が無理な以上、学食か?
でも、学食でわざわざ蓋に乗せた寄せ集め弁当を食べていたら、内部生から「おい庶民! 物乞い弁当は美味いか?」とか笑われそうだな。いや、いくらなんでもそこまでは言わないか。でも冷たい視線を終始向けられそうだ。
「どうするぅ? 今日こそうちらと召し上がっちゃう?」
にやにやしながら誘ってくる和泉。
これが、優しさで出来たおすそ分け弁当を手に取る前なら、いつもみたいに断れたんだけどな。
あいにく、もう受け取ってしまったあとだ。
「……わかったよ。でも、ウザ絡みはなしな」
「ウザくないよ!」
抗議する和泉だが、笑みが絶えることはなく、俺はすでに一箇所に集まって食事にしようとしている和泉の陽キャグループに取り込まれるのだった。
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