第31話 くそ、デートなんてしやがって
◇豊澤視点
そんな中。
「ま、マジだ……! やっぱりいやがった……!」
「だから言っただろう? 君に散々締め上げられた詫びをしてほしいものだが」
売店近くの物陰に隠れ、わなわな震えているのは
その隣には、呆れ顔の
「くそっ、あたしだって塚本とデートしたことないのに!」
「豊澤。何故不満に思う? 君は塚本君とデートするほど親しい間柄ではないだろう?」
「うっせ。あ、あたしだってなぁ、塚本と二人きりの秘密はあるんだぞ?」
「ほう。だが、ほどほどにしてくれよ。君の横恋慕による嫉妬で、塚本君と会長がツガイになる機会を逃せば、我々の大願が大きく後退することになるゆえ」
「は~っ!? てめっ、何言ってんの? それじゃあたしが塚本を好きみてえじゃねえか!」
「違うのか?」
「違うよ。あの色ボケ会長とくっついてほしくないだけだ! あいつは清楚風な顔と無駄にデカいおっぱいが目立つだけで絶対性悪! あたしは塚本を救いたいだけなんだ」
朱音には焦りがあった。
休日ということで、
本人的には、哲也の活動に協力するために休日の朝から寮に来た勤勉な闘士のつもりだったのだが、本当の目的は真斗に会いたかったからだ。
哲也の部屋に反体制勢力の仲間が集まり、真の平等と寮の存続のための作戦会議をするのが休日の常なのだが、会議中も朱音は上の階の部屋にいるであろう真斗のことが気になって仕方がなく、常に上の空だった。
結局耐えられなくなり、せっかくだし真斗も呼ぼうぜ! と哲也に提案したところ。
「塚本君なら、今日は会長とデートだ。安心するといい。帰ってくる時には、しっかり男女の仲になっているだろうさ」
などと、朱音としてはちっとも安心できない爆弾発言を投下してきたので、その場で哲也を締め上げて居場所を聞き出し、このプールへやってきたのである。
「しかし豊澤。君は大願成就より、自身の卑小で片腹痛い一方的な片思いを取るというのか? 正気の沙汰とは思えんな」
「仲間を守ることだって大事だろうが! あとあたしは別に塚本のことなんか意識しちゃいねえよ。勘違いすんな」
「ほう。それなら、今現在塚本君と会長がほぼ全裸な状態で密着し、肌同士で愛撫するような場面を目にするたびに怒りと悲しみが綯い交ぜになった複雑な表情をするのは如何な理由か?」
「う、うるせえな! 同じ仲間として、塚本があの性悪女にとって食われちまわないか警戒してんだよ!」
「君が勝手に警戒するのはいいが、くれぐれも介入するなよ。豊澤の塚本君に対する感情は置いておいて、我々の大願成就の機会を損失するようなことをすれば、君といえど同志の輪から外さなければいけなくなる。我らは小規模な兵隊だ。足並み揃わぬ同志に士気を乱されれば、途端に崩壊を招きかねないのだから」
「わーってるよ。あたしだって、外部生が過ごしやすい学校にしたい想いは強いんだから」
「ふむ。まあ、いい。君の言い分を信じよう。二人の行く末を注視するという意味では、オレも豊澤と同じ穴のムジナだしな」
そして、哲也と朱音は、さきほどから流れるプールでバナナのボートに乗ってぐるぐる回る二人の観察を続ける。
プールにいるだけあって、哲也も朱音も水着をレンタルし、着用していた。
哲也の方は、真斗と同じくシンプルなハーフパンツタイプの水着で、締まった細身の体と対比するようなダボッと感がある。
一方の朱音は、長い金髪が邪魔にならないようにお団子にしていて、ビキニタイプの白い水着を着ていた。
しなやかなアスリート寄りの体つきは、目にする者を感心させるほど美しく、身長がある上に手足も長いことから、事情を知らない周囲の人々から、どこぞのモデルがお忍びで遊びに来たと勘違いされるほどだ。
おかげで頻繁に複数の男性から声を掛けられ、その度に朱音は、偵察の邪魔をするんじゃねえ! と一喝して追い返さなければいけなかったのだが。
「あの流れるプール、厄介だな。ちょろちょろ動きやがるから見逃しちまいそうになる」
「では、オレたちもプールの周囲を周り続けるか?」
「お前、本気で言ってんのか?」
「いいや、冗談だ。少々退屈でな。ボートに乗っている間は何も進展がなさそうだ。あれだけ体を寄せているというのに、何やら会話をしているだけ。焦れったくもなる。豊澤からすれば気が気ではないだろうがな」
「あっ、おい、塚本のヤツ、ボートから落っこちたぞ」
「ふむ。塚本君には意外とおっちょこちょいな一面があるようだ」
「何のんきに言ってんだ! 助けないと!」
「必要なかろう。川ではないのだ。あのプールなら塚本君の身長を考えれば平気で足が着く。そもそも見つかれば偵察の意味があるまい」
「くそう、偵察ってのはなんて焦れってえんだ!」
「だから君を連れてきたくなかったのだ。君の直線的で勇敢なところは美点だが欠点にもなり得る諸刃の剣。そもそも君には向かない任務だったのだよ」
頭を抱える哲也と、隠れながらもいきり立つ朱音。
周囲の利用客からは不思議そうな視線を向けられるものの、どうにか真斗と千歳に見つかることなく偵察は続くのだった。
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