第3話 特殊な校風

 その日の昼休み。


「……疲れた」


 転校初日ということで、やることはわりと多かった。

 まずは、教室に入る前に職員室で担任教師と挨拶を交わした。

 若手の女性教師で、教職三年目だそうだ。

 大里おおさとと名乗ったその教師に連れられて教室に入ると、転校生への洗礼こと質問攻め……に遭うようなことはなく、異物への不審そうな視線を散々浴びることになった。

 初っ端がそれなので、だいぶ精神を削られることになる。

 別に温かく迎えられる気は毛頭なかったけれど、ここまで扱いが冷たいと多少は気になるというもの。

 まさか俺が転校してきた経緯を知っているからか?

 なんて疑心暗鬼になってしまいそうだ。


 その後も、教室の隅の席になった俺に話しかけてくる人間が現れることもなく、かといって俺も友達が欲しくて転校したわけじゃないから、休み時間中はずっと窓の外を見ていた。

 おかげで自分の席から見える建物の窓の数を覚えることができたよ。

 有意義な転校初日の過ごし方だよな。

 そんなわけで、異様なプレッシャーの最中をグロッキー状態になりながら、昼休みを迎え、教室の外へと出ることができた。


「せっかくだし、学食に行ってみるか。結構デカいらしいしな。……その前に、トイレ行っとこう」


 俺の教室がある3階から、学食がある一階へ向かう道すがら、トイレで用を足すことにする。

 男子が数人いたのだが、ちょうど小便器が一つ空いていた。


「あの、ちょっといい?」


 使おうとした時、やたらと神妙な顔をした一人の男子生徒が声を掛けてくる。


「なにか?」

「外部生の人だよね?」

「ああ、転校生で」

「転校生……そうか。外部生は、そっちを使った方がいい。一番端の個室だ」


 男子が指さしたのは、小便器の向かいにある個室。


「いや、俺の用事はこっちなんだ」

「悪いことは言わない。その方が面倒が少なくて済むから」


 意味が分からなかった。

 それでも、男子の顔が妙に真剣で、何らかの親切心らしいことはわかったので、渋々従うことにした。


「……故障でもしてたのか?」


 個室で用を足して、扉を開けようとした時だ。

 二人組の話し声が聞こえた。


「おい、端の個室、カギが掛かってるぞ」

「げっ、外部生がいんのかよ」

「場所変えるか」

「ああ、外部生なんかと一緒に仲良くトイレにいられるかよ」


 慌ただしい音がして、再び静寂が戻る。

 個室から出た時には、トイレの中には誰もいなくなっていた。


「なんだっていうんだ……?」


 昼休みだろうと、俺の心が休まる瞬間はないようだ。

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