第2話 新しくも期待していない学園生活の始まり

 朝。

 転校して、初めての登校日。

 寮を出た俺は、やたらと天気のいい中を、徒歩で学校まで向かっていた。

 閑静な住宅街の外れにある寮から、最寄り駅近くの通りへ出ると、途端に制服姿の男女が目立つようになる。

 男子は、紺色をベースにして白いラインで縁取りされたブレザーに、白に近いグレーのスラックス。

 一方の女子は、ブレザーの色合いは同じで、同色のスカートを履いている。

 学年によってネクタイやリボンの色が異なる。二年の俺と同じ赤色をした男女もちらほら見かけた。

 制服の集団の中にいると、転校生の俺は異物感を強く感じて居心地が悪くなる。


 規則正しく並ぶイチョウ並木に導かれるように歩き続けると、次第に西洋風の建築物が現れる。

 私立貴峰たかみね学園は、由緒ある伝統校として知られていた。

 大正時代に設立され、戦後しばらくは資産家の子女が多数在籍していたそうなのだが、令和の今では入試さえパスすれば誰でも入れる普通の名門校だ。

 高等部だけではなく、中等部も擁する中高一貫校なのだが、近年になって高等部からの中途入学者を広く受け入れる方針に切り替わったそうな。

 だからこそ俺も転校生としてこの学園に編入することができたわけ。

 そのことに俺は感謝していたのだが、どうも感謝してばかりもいられないと気づいたのは、正門を抜けた時のこと。

 大学のキャンパス並に敷地が広いこの学園は、高等部の正面玄関にたどり着くまでにもそれなりに距離を歩くことになる。

 そんな広大な「庭」で、男子生徒がひとかたまりになっていた。


「……なんだ?」


 気になって視線を向けると、何やらプラカードを掲げていて、肩にはたすきを掛けている。

 生徒それぞれで若干文言が違うものの、訴えている内容は一貫している。

 貴峰学園の生徒として享受するべき正当な権利を主張しているようだ。


「内部生の横暴を許すな!」

「外部生への差別反対! 同じ貴峰学園の生徒として、平等な立場を!」

「伝統ある縁寮の取り壊し反対!」


 などなど。


 初登校の俺にはピンとこないのだが、どうも内部生と外部生の間では諍いが起きているらしい。

 アジテーションを繰り広げる面々の中でも目立つのは、メガネの男子生徒。

 ひょろっとした体格だけれど、誰が相手でも主張を譲らなさそうな意志の強さを感じた。

 トラメガなしでも声が大きく、集団の先頭に立って活動しているらしい。


「……なんか物騒だな」


 今まで、学校内で学生によるデモなんて目の当たりにしたことのない俺は、正直ちょっと引いていた。

 いくら貴峰学園が伝統校で、今も資産家の子女が在籍するとはいえ、一般庶民の俺が転入を許されるくらいだから、そんな差別的な扱いなんて受けるはずがないと思うのだが……。


「まあ、なんかそういう文化的なサークルの活動なのかもな」


 俺が以前在籍していた公立高校と違って、私立校の貴峰学園は部活動も結構な数にのぼっているそうだから、中にはああいう変わり種もいるのかもしれない。


「運動部だろうと、文化部だろうと、二度と部活をやる気がない俺には関係ないことだけど」


 帰る頃になれば、この違和感だって綺麗さっぱり忘れてしまうことだろう。

 その程度に考えていて、自分にはまったく関係がないことだと疑っていなかったのだ。

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