第五話 エルフ召喚からは逃げられない
「ボクにとって、一番馴染み深い【森林】への環境変化からお願いするよ。よろしく」
ボクがそう告げると、目の前に置かれたダンジョンコインの山が半分ほどに小さくなる。
アンティゴネーは着席して背筋を伸ばしてから深々とお辞儀する。
その瞬間、彼女の足元が石畳が土に変わり草の芽が芽吹きはじめる。
芽吹いた草の芽が輝くと――いつの間にか周囲は鬱蒼とした森林へと景色を変えてしまう。
どこか懐かしさを感じさせる優しい木々と湿った土の匂いに、目頭が少し熱くなる。ダメだね、目から汗が出てきそうだ。
ボクは、涙を流さない。
今は人間に転生したと言えど、エルダーエルフは決して自分のためには涙など流さないのだから。
そんなボクの様子を見守っていたアンティゴネーがそっと右手を振ると、空中に召喚可能なモンスターのリストが表示される。
【召喚可能なモンスター】☆環境適性により大幅値引き☆
・やんちゃリス10匹セット:――1コイン
・あばれリス10匹セット:――1コイン
・オオジカ:――1コイン
・はぐれシカ:――2コイン
・フォレストウルフ:――1コイン
・フォレストウルフリーダー:――2コイン
・ピクシー:――3コイン
・ハイピクシー:――6コイン
・クーシー:――4コイン
・クーシーリーダー:――8コイン
・ブラックドッグ:――5コイン
・ブラックドッグリーダー:――10コイン
・ケット・シー:――10コイン
・ケット・シーリーダー:20コイン
・ウッドエルフ:――30コイン
・ウッドエルフファイター:40コイン
・ウッドエルフアーチャー:――50コイン
・ウッドエルフサモナー:――60コイン
・ウッドエルフドルイド:――70コイン
・ウッドエルフリーダー:――80コイン
「ゴブリンやホブゴブリンと比較して、要求されるダンジョンコインが妙に少ないような? 環境適性って何?」
あまりの安さに思わずうめき声を漏らしてしまったよ。
アンティゴネーから向けたれた生暖かい視線を察知して我に返ったボクは軽く咳払いをしてから。
「ダンジョンの環境を変えると、ここまで召喚コストが変わるなんて聞いてないんだけど!」
「そうですわね。質問されませんでしたもの。クッコロお姉様は森林タイプのダンジョンに高い適正をお持ちですので、色々とお買い得になります」
アンティゴネーから返された正論にぐうの音も出ないよ!
確かに、事前に色々と質問しなかったボクが悪いんだよね。
結果的に当たりを選べて良かったわけだけど、貴重なダンジョンコインはもっと慎重に使おう。
「……ユニークモンスターを召喚すると何かメリットが有るのかな? 召喚してからネームド化した場合との違いがあれば教えて欲しい」
よく出来ましたと言わんばかりにアンティゴネーは満面のほほ笑みを浮かべて。
「ユニークモンスターを召喚すると、ダンジョン内に設置できる新しい設備が追加される事がございます。これがメリットの1つですわね。代価に相応しい強さと頼もしさが最大のメリットでございますので、設備が追加されなくてもがっかりなさる必要はございませんよ」
ボクが目線で続きを促すと。
「召喚した後にネームド化する場合のメリットとデメリットについてもお答えいたします。対象となるモンスターからのクッコロお姉様に対する忠誠心次第で、ネームド化する際のコストが上下いたします」
「なるほど。つまり、ネームド化されていないモンスターにも感情があるんだね? ならモンスターは成長もするのかな?」
「ご賢察の通りでございます。人間と同様にダンジョン内の活動で魔力を得て、蓄えた魔力に応じて
召喚モンスターにも感情があり、
「ボクの留守中もダンジョンを守ってくれそうなウッドエルフリーダーを最初に召喚しようと思う。もちろん、ユニークモンスターとしてね」
「400コインから申し受けます」
座席から立ち上がり目線で同意を示すと、テーブルに置かれたコインの小山がまた小さくなる。
「姫騎士クッコロが、我が始祖・ヌッコロの名において命じる!」
ボクの足元の影が大きく広がり、エルダーエルフ文字が刻まれた魔法陣が影の中に浮かび上がる。
「YYASSAI! MMASSHIMASHII! NINNNIKUU! KKARRAMEEE!」
ボクの呪文詠唱に合わせて、魔法陣が妖しげに瞬いて鳴動する。
「ボクは
魔法陣が一際強く輝いた後、ボクの前で長身でたくましい肢体の女性ウッドエルフが
「召喚に応じ、馳せ参じました。クッコロお姉様、このヤッタルめに何なりとお申し付けください」
「
「ありがたき幸せ!」
そう言って立ち上がったヤッタルの身長は、2メートル以上あるね。172センチと、日本人女性としては長身のボクより頭一つ以上大きい。背が高いだけでなく、色々とデカい!
「クッコロお姉様、朗報が2つございます!」
控えていたアンティゴネーが、興奮を隠しきれない面持ちで1オクターブ高い声を上げる。
「
「名前そのものに力が秘められているからね。今後、ボク以外の誰かが地球人のダンジョンマスターとして現れても、名付けではボクに優位性があるだろうね」
400コイン支払って、1000コイン相当の召喚結果なら期待以上!
ボクのドヤ顔に合わせるように、ヤッタルもドヤ顔をキメる。
可愛い奴め!
「もう1つの朗報は、ダンジョン内に【妖精の泉】と【妖精の家】を設置できるようになりました! 本来の召喚では【妖精の家】のみの追加のはずでしたのに!」
空中投影ディスプレイに、それぞれの効果とコストが表示される。
【妖精の泉】:あらゆる渇きを癒やす水が湧く泉――100コイン
【妖精の家】:妖精たちの憩いの家――10コインから応相談
「水源はとても大事だよね。最初は来客用とボク達用の2つをわけて設置しようと考えたのだけれども、ヤッタルはどう思う?」
「来客用と申されますと、森の侵略者にも使わせてやるわけですね? ……下手な宝箱よりも喜びましょう。良きお考えかと」
【妖精の泉】から掬った水は、様々な病を癒す効果もある。飲んで良し! 肌にかければ乾燥肌が治り、頭皮にかければ薄毛に悩む人の福音となるだろうね。化粧品や薬品の材料としてでなく、今のボクには見当がつかない利用法も人類なら見つけてしまうかもね。
「設置場所は、ヤッタルとアンティゴネーが相談して決めて欲しい」
「御意にございます」
「もう1人、ユニークモンスターが欲しいけど。……連続召喚は無理かな」
ボクの視線を受け止めたアンティゴネーは申し訳無さそうに首を横に振って見せる。
「次のユニークモンスター召喚は、2週間お待ち下さい。あるいは、来場者が増えた時の特典として進呈する追加召喚枠の獲得を短期目標としていただくとよろしいかと存じますわ」
「クッコロお姉様、戦いの趨勢は物量が決します」
ヤッタルも謹厳実直そのものの声色でボクに進言してくれる。
「2人ともありがとう。では残りの600コインは次のように振り分ける」
ウッドエルフドルイド(70コイン)
ウッドエルフサモナー(60コイン)
ウッドエルフアーチャー(50コイン)
ウッドエルフファイター(40コイン)
クーシー20匹(80コイン)
ピクシー10匹(30コイン)
フォレストウルフ10匹(10コイン)
オオジカ20頭(20コイン)
やんちゃリス20匹(2コイン)
あばれリス20匹(2コイン)
【妖精の泉】2箇所(200コイン)
【妖精の家】2棟(20コイン)
【宝箱】(中身は6コイン相当の高品質アイテム)
【宝箱】(中身は4コイン相当の良質アイテム)
「以上で、594コイン使用することになる。残り6コインは予備費として残しておくよ。2人とも、これからよろしくね!」
††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††
このように、アンティゴネーとヤッタル相手にきっちりみっちりとダンジョンのアップデートについて話し合ったら、すっかり遅くなってしまった。
ダンジョンから離脱したボクを待っていたのは、凍てついた能面のように表情を消した
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます