第三話 視聴者の期待からは逃げられない

「ファーストジョブ獲得権以外は、今回のダンジョン攻略報酬を全て返上する。それをリソースとして、このダンジョンの大型アップデートをお願いしたいかな」

 

 ボクの申し出に対して、アンティゴネーは愉快そうに目を細めて微笑みながら。


「アップデート内容次第な面もございますが、少々お足が出るかと思いますわ」

「足りないリソースの分だけ、ボクから魔力を奪取して弱体化してくれてもいいんだけどなあ」


 ボクの弱体化発言に、アンティゴネーの目が点になる。

 はじめて、彼女のことが可愛く見えてきたかも知れない。


「……クッコロお姉様のお美事な御力はとくと拝見させていただきました。しかし、あまりにも無謀ではありませんか? 他のダンジョンマスターからダンジョンウォーを挑まれた時はどうなさいますの?」


 アンティゴネーは柳眉をひそめながら、ボクをなだめてくれる。

 本当に心配してくれてるように見えてしまうから困ってしまうね!


「ダンジョンウォーについて詳しく教えてもらえるかな?」

「ダンジョンコア同士の戦争が、ダンジョンウォーですの。各々のコアが擁するダンジョンマスターが戦いリソースを奪い合う。そして、勝者となったダンジョンコアは新しい権能を獲得する。これがダンジョンウォーですわ」 


 後ろに控えていた、メイド服の従者が新しいお茶を入れ直してくれた。

 ボクもありがたく舌を潤してから口を開く。


「ボクの場合、縛りプレイでもした方が、ダンジョンウォーが盛り上がるんじゃないかな? 配信はバズれば、アンティゴネーにもメリットがあるでしょうに」

「何故、そのようなご発想に至ったのか、お伺いしてもよろしくて?」

「面白い話で盛り上がるのが好きなのは、ボク達人間だけじゃないんでしょ?」


 どうやら満点の回答だったらしい。

 アンティゴネーは最高に悪い笑顔をしている!

 


 :クッコロお姉様とダンジョンコアの二人が、スゲえ悪い笑顔してて草www

 :ダンジョンの新しい情報が次々に暴かれてるんだけど、こんな配信して大丈夫なのかよ

 :自分の弱体化を希望するウォーチューバーなんてありえないだろ

 :次々に明かされる新事実に色んなクラスタの住人が悲鳴を上げててメシウマすぎるwwww

 :同接数、100万超えててスゲー



「ボクからのアップデートの希望内容については、あとで内密に打ち合わせようか。でもそれだと場が冷めちゃうよね。チラッチラッ」

「ウフフッ。クッコロお姉様には何かお考えがお有りなのではなくて? チラッチラッ」


 ボクは我が意を得たりと大きく頷いてから、


「ボクが選択可能なファーストジョブの一覧を、アンティゴネーから解説を交えて紹介してもらえるかな? 解説が一通り終わったら、皆さんの前でどのジョブにするか決めるよ」


 :クッコロお姉様はともかく、ダンジョンコアがコメント欄チラ見するなよ!wwww

 :ダンジョンコア交えて、ウォーチューバーがダンジョンの中で雑談配信するとか、頭おかしくて草生えるwwww

 :チュートリアルとはいえ、これだけ大暴れしたクッコロお姉様は、とんでもないファーストジョブの権利もゲットしてるんじゃね?

 :それな! 未出のレアジョブの可能性もあってワクテカwwww

 :同接数、まだまだ増えてて草www



「では、クッコロお姉様が選択できるファーストジョブを順番にご紹介いたしますわね」



【戦士】   武器で戦うオーソドックスなジョブ。

【剣士】   武器の中でも特に剣の扱いに長けた戦士系ジョブ。

【蛮族戦士】 荒々しい蛮族殺法に長けた戦士系ジョブ。


【狂戦士】  軍神の加護を受けし破滅的な戦士系レアジョブ。

【魔剣士】  魔剣の扱いに長けた剣士系レアジョブ。

【魔法剣士】 剣と魔法の扱いに長けた剣士系レアジョブ。


【騎士】   集団戦闘に長けた戦士系レアジョブ。

【聖騎士】  集団戦闘と聖魔法の扱いに長けた騎士系レアジョブ。

【姫騎士】  叡智な注目を集める騎士系レアジョブ。現在該当者なし。



 :レアジョブが6つも出てきたけど、もう姫騎士しか目に入らねえwww

 :叡智な注目ってなんだよ!

 :姫騎士のジョブの設定決めたやつ、絶対に俺等と同類だろwww

 :姫騎士なんてジョブ、今まで聞いたことがないよな?

 :該当者なしってダンジョンコアが説明してくれたんだから、間違いなく未出のレアジョブだろ

 :条件は何だろ? 女性であることは大前提だよな?

 :ガタイが良いオッサンが姫騎士とか嫌すぎるだろwwww



「では、クッコロお姉様。もうファーストジョブはお決まりでしょうか?」

「どうしようかなー。魅力的なレアジョブが幾つも出てきたから、目移りしちゃうなー」

「ウフフッ! 魔剣士などはいかがでしょうか? ダンジョンマスターとして戦い続けるならば、素敵な魔剣に巡り合う御縁に恵まれるかと思いますわよ?」

「わーい。それは嬉しいなー。でも魔剣ってお高いんでしょう?」



 :二人とも、セリフが棒読みじゃねえかwwww

 :焦らすのはやめてもろてwww

 :巨乳巨尻のエルフだったら、叡智な姫騎士以外の選択肢ないだろ!wwwww

 :属性過多で胃もたれしそうwwwww



「冗談はさておき、ここで選択肢を間違えると、ヒエヒエになるでしょ?」


 ボクは最高に可愛く見える計算された笑顔を視聴者向けに作って見せながら。


「せっかくだから、ボクはこの姫騎士を選ぶぜ!」



 :うおおおおおwwwww

 :姫騎士クッコロお姉様サイコー!

 :姫騎士クッコロお姉様サイコー!

 :クッコロたんサイコー!

 :クッコロ! クッコロ! 



 コメント欄を埋め尽くす大歓声に対して大きく手を振ってからドローンカメラに合図する。

 これで、ボクのウォーチューバーデビュー配信は終了。

 正念場ゆえに、自分の両胸を挟み込むようにビンタして気合を入れ直す。

 ……すごく、痛いです。

 ここからは、ダンジョンマスターの時間をはじめようか。

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