第二話 キングゴブリンからは逃げられない
:キングゴブリンはヤベー奴じゃねえ?
:討伐難易度Aランク。上級ウォーチューバーが複数のパーティー組んで挑むとようやく勝ち目が見えてくる強敵なんですけど
:初見です! チュートリアルダンジョンにキングゴブリンが出たと聞いて掲示板から来ました!
:いやいや、チュートリアル配信の視聴者は全員初見勢ですからwww
:今日から配信追いかけるだけで、彼女のファン古参勢を名乗れるぞい
「無謀なる挑戦者さん! 一騎打ちの前に準備のための時間は必要ですかな?」
キングゴブリンは、余裕綽々の構え。
実にわからせ甲斐のあるスカした表情ですこと。
「これを使わせて貰おう」
今まで使用していたロングソードは腰の鞘に納める。
ホブゴブリンが床に落としたグレートソードの
同時視聴者は加速度的に増え続けている。
:巨乳エルフの素振りすげえ。あんなに腕細いのに、重そうなグレートソードを軽々と振り回してて草生えるwww
:ホブゴブリンより筋力ありそうで草wwww
:おいおい、彼女の今のレベルは幾つなんだよ
:ステータスは個人情報だから、他人には見せないよ
:自分自身のステータスも見ない方がより強くなれるらしいから、レベルはずっとわからないかもね
:それってどういう意味?
:自分のステータスを知ってしまうと、数値化された
:そこまで突き詰めてるのは、ウォーチューバーの中でも上澄みだけだろ?
:俺は自分のステータスを都度確認してるぞ。成長の度合いをわかりやすく把握できるおかげでモチベーション高めていけるからな
「ウォーミングアップは終わったよ!」
グレートソードがようやく手に馴染んできた。
レア度は
筋力を必要とする行動判定にそれなりの補正が入るようだね。
そしてどうやら血や脂がついたままでも斬れ味が落ちない付加効果もあるみたいだ。
この程度の武器ならば、鑑定スキルなどなくても十分に性能を見抜くことができる。
ほら、亀の甲より年の功って日本のことわざがあるじゃない?
前世のボクは享年200歳だったから、長生きした分だけ色々と学べたんだよ。
「ボクの名は、クッコロ! 貴様の首、貰い受ける!」
「大言壮語はそこまでです! 身の程を思い知らせて差し上げます!」
ボクの名乗りを受けて、ピキピキっとキングゴブリンの額に青筋が入るのがウケるんだけど!
キングゴブリンは、どこからともなく大きなグレートアックスを掴み取る。
そして敵ながら見惚れるほど御美事で隙が見当たらない構えでボクに相対する。
「いざ尋常に、勝負!」
これ以上の口舌は無用!
キングゴブリン目掛けて突貫!
フェイントを織り交ぜながら、グレートソードを振り下ろしても、相手は難なくグレートアックスの刃を合わせてくる。
火花散り、剣戟の音が鳴り響く。
流石は、ユニークモンスター!
振り回すグレートアックスの一撃一撃には、暴力的な魔力が込められている。
今のボクでは掠り傷を受けるだけで両断されてしまいそうだ。
イイねえ!
たぎるねえ!
:クッコロたん、頑張れ頑張れ
:ふざけたウォーチューバーネームで、おハーブ生えますわw w w
:名乗りがアレ過ぎたけど、クッコロたん強すぎて草w w w
:キングゴブリンと互角やんけ!
:Aランクの、しかもユニークモンスターと初心者がまともに戦えるはずがないんだけどなあ
「どうした、ゴブゴブ親父とやら! そろそろへたばって来たか?」
最初は互角だったキングゴブリンとの鍔迫り合い。
少しずつボクが押し始めており、キングゴブリンの表情からは余裕が消えていく。
「何故です! こんな小娘相手にどうして手間取る? どうして、貴様にこのような膂力が!」
ボクの筋力と敏捷力の
互角の状況からバズってしまえば、もう勝算はボクのものでして。
あっけなく崩れた均衡から、ガラ空きになったキングゴブリンの
ボクはグレートソードを手放すと同時に、鞘からロングソードを抜刀。
キングゴブリンの首を刎ねた。
「キングゴブリン、ゴブゴブ親父の首! このクッコロがゲットだぜ!」
:うおおおおおおお! クッコロたん最強! クッコロたん最強!
:マジかよ! あっけなく一騎打ちで勝ちやがった!
:くっ殺せ! じゃなくて、くっ殺す! だからクッコロなのなw w w w
:誰が上手いこと言えとw w w
:この脳筋エルフってば、殺意高すぎて草w w w
:だが、それがいい
ちなみに、クッコロという名前は前世の名前なんだけど。
その意味は、天下無敵。
日本のインターネットミーム関係とは一切関係ございませんので、あしからず!
「見てくれてたみんな! 声援ありがとう! おかげさまで無事キングゴブリンを討ち取ることができました!」
:守りたい、この笑顔!
:めっちゃいい笑顔じゃん! やり遂げたことは血生臭くてえげつないけどw w w
:キングゴブリン撃破もスゲーけど、ダンジョンマスターを過去に倒したやついるのか?
:前代未聞じゃね?
:ダンジョンがどんな報酬くれるのか楽しみだな!
沸き立つコメントに、内心ほくそ笑むボク。
ガチ恋勢カモン!
その中から、彼氏候補カモン!
ボス部屋の中で生存者はボクだけになったようなので探索を始めようかな。
石壁に埋め込まれた楕円形のクリスタルへと手を伸ばすと、ひんやりと冷たい感触がする。思い切ってそのままクリスタルを軽く押し込む。
ガチャリ、と音がしてボス部屋の床中心部に魔法陣に描かれた。
やがて魔法陣の光が収まると、どうやら下の階層へと降りる思われる階段が視界に入ってきた。
「見てくれてる皆んなー。隠し部屋を見つけたみたいだよー」
:隠し部屋出現の条件は、ダンジョンマスターの撃破か?!
:もしかして、他のダンジョンでも同じようなイベントが発生するわけ?
:掲示板から来ました! 隠し部屋の中を早く見せてほしいです!
「必要以上にみんなを焦らすのは申し訳ないので、階段を降りてみるね」
グレートソードやキングゴブリンの遺体はあえてそのまま捨て置く。
深呼吸してから階段を下へと降りていくと、踊り場がある。
踊り場から先の突き当りの壁には、黄色と紫色のヒヤシンスの文様が刻まれた木製の扉が。
……ダンジョンに、地球の花の文様?
訝しく思いながらも、扉の前に立ち、試しにノックしてみると。
「どうぞ。お入りになって」
思い切って扉を開くと、中は近代的なホテルのティーラウンジのような内装になっていて。
テーブルには湯気を立てるティーポッドとお皿に奇麗に盛りつけされたお茶菓子が置いてあり。
飾り気のない白いワンピースを着た匂い立つような黒髪の女性と、彼女の後ろに控えるメイド服の従者がいた。
メイド服の従者に勧められるがままに、ワンピースの女性の対面の椅子に腰掛ける。
「やっとお会いできましたね。クッコロお姉様……。 本当に、ずっとずっとお待ち申し上げておりましたわ」
はて?
ボクの事を『クッコロお姉様』と呼ぶ?
前世の騎士団関係者だったらピンときてもおかしくないはずなんだけれど。
「貴殿が、このダンジョンのコアに宿る精神体で間違いないのかな?」
ボクの問いかけがよほど嬉しかったのか、彼女は若干食い気味になり。
「貴殿だなんて他人行儀な。どうか、アタクシのことはアンティゴネーとお呼びくださいませ」
「わかったよ、アンティゴネー。早速だけれど相談があるんだけど」
聞き覚えがない名前だけど、脳裏には刻んでおくことにする。
「このダンジョンの新しいダンジョンマスターは、ボクに任せてもらえないかな?」
「ああ、クッコロお姉様! 光栄でございます! 祝着至極に存じます!」
アンティゴネーは大粒の涙をポロポロとその大きな蒼眼から流しながら、心から嬉しそうに大輪の花が咲いたような満面の笑顔を浮かべる。
:おいおいおい! 人間がダンジョンマスターになんてなれるのかよ!
:前代未聞のイベントが続きすぎだろ?
:誰もダンジョンコアと交渉しようとしたやついなかったのかな?
:クッコロお姉様最強!! クッコロお姉様最強!!
:同時接続数、10万超えてきて草生えますわwww
;クッコロたんの所属企業って、クローバーみたいだけど中の人の正体が気になるな?
:これだけの逸材を、クローバーはどこから発掘してきたんだ?
ボクの暴走ぶりに、スタッフのみなさんの胃痛が心配ではあるけれど、ここはイケイケでアンティゴネーと交渉せねばなるまいて。
でも、今のボクは!
未来の彼氏との輝かしい未来の為に、今は
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