第3話「三毛石 ランのジェラシー」
ミケランが転校してきてから、一週間が過ぎた。空くんが言ったとおり、このクラスの人間たちは、とても気さくで優しくて、人見知りのミケランもクラスメイトたちに少しずつ馴染んでいった。良き人間たちと人間として同じ時を共有することはミケランにとっては新鮮でありがたいことだったけれども、頭の中は空くんのことでいっぱいで、お友達とおしゃべりしているときも、お昼ごはんを食べているときも、彼女のグリーンアイの端には、空くんの姿が映し出されていた。クラスの人気者の空くんのまわりには、いつもクラスメイトたちが集まっていて、なかなか、空くんとゆっくり話す機会がなかった。明るくて、いつも笑顔を絶やさない空くんを見て、ミケランは嬉しいと思う反面、とても悲しかった。
(あたちが虹の橋を渡って、まだ少ししか経ってないにょに……空くんは、あたちのことを忘れてしまったのかにゃ?)
特に、ミケランの心をひどく落ち込ませていたのは、“
***
ある日の放課後の教室の隅っこで、小声で話している空くんとナナちゃんの会話の内容がミケランの耳に飛び込んできた。
「ねえ、例の件、考えてくれた?」
ナナちゃんが、空くんに訊いた。
「いや……まだ……心が決まらないよ」
空くんが、バツが悪そうに答えた。
「本当に可愛い女の子だから、会うだけでも会ってみなよ」
きっと、ナナちゃんは、空くんに女の子を紹介しているのだろうとミケランは思った。もし、空くんに恋人ができてしまったら、もう、この世を去ってしまったミケランのことを思い出すこともなくなるのだろうと思ったら、ミケランのグリーンアイから涙があふれて、ぽたりぽたりと、机の上に小さな水たまりをつくった。
(空くんは、あたちがいなくても大丈夫にゃんだ。空くんの元気な姿を見ることができた。もう、それだけでじゅうぶんにゃ……もう、あたち、猫天原に帰ろう)
泣いているのがばれないように、ミケランは、ふたりを後目に教室をそっと出た。すると、そのことに気付いたナナちゃんが、猛ダッシュでミケランを追い掛けてきた。ミケランに追いついたナナちゃんは、息を切らしながら
「ま……待って! 三毛石さん! 話があるのっ!」
と言った。
「わ……わたしには、お話はありませんっ!」
ミケランは、これ以上この世界に留まって、大好きな空くんやナナちゃんのことが嫌いになってしまうのが怖くてたまらなかった。あの温かで幸せだった猫生でもらった、きらきらと輝く大切な思い出たちが煮干し色に色褪せてしまうことが恐ろしかった。
***
「だって、あなた……“ミケラン”ちゃんでしょう?」
ナナちゃんの口から、予想もしなかった言葉が飛び出してきたので、ミケランは、思わず、振り返って、ナナちゃんの方を見た。
「にゃ……なに、ばかにゃことを言ってるんですか?」
ミケランは、しまった! と思った。ネコ神様に、人間の前で“ネコ語”を話さないよう注意するよう言われていたのに。
「スカートから、しっぽ出てるよ……」
ナナちゃんに言われて、お尻を触ってみると、確かに細長いしっぽがスカートから出ていた。ミケランは、「ニャッ!」と言いながら、1メートルほど飛び上がってしまった。幸い、まわりに人がいなかったので、ミケランは、心を落ち着かせて、しっぽを引っ込ませた。
「ばれてしまったのにゃら、しかたありません。あたちは、ナナちゃんのお話をきくしかにゃいようです」
ミケランが平静を装ってそう言うと、ナナちゃんは、優しく微笑んだ。
「ここじゃ話せないから、ちょっと、私について来てくれる?」
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