ライブ会


「マルサーです」


 所属を名乗って腕章を見せると、サークルの人がスムーズに部室に通してくれた。僕を門前払いしたマジ研の時とは大違いだ。

 話は事前に通っていて、サークルの代表者が活動の内容や近況を報告した。来月に他大学と合同でライブをやるとか、メンバーは何人いて毎週何曜日に活動しているだとか、スピーチのように報告は滞りない。

 猿島さんはその報告を興味深そうに聞き、時には掘り下げた。


「以前と同様にサークルは運営されているようですが、活動日が変わっていますね。火、金から水、土になっています。土曜日が活動の幅も変わりましたか?」

「はい! 授業やバイトなどで、平日は都合が悪かったメンバーも参加できるようになりました。土曜日はスタジオを借りて、各バンドで演奏し終わったら、みんなで飲みに行っています。みんなと仲良くなれましたね」


 ライブ会の会長は、きゃぴきゃぴと答えた。彼女は前髪をヘアバンドで上げていて、活動的に見える。脇に控える副会長はピアスを片耳に沢山空けている。

 彼女たちはそれぞれ足元に楽器ケースを置いていていた。楽器ケースの表面にシールをいっぱい貼り付けてデコレーションしている。

 部室にはラジカセと、埃を被ったCDが何枚もあった。今時はスマホで音楽を流すのが主流なんだろう。僕は実家のラジカセで音楽を聴くのが生活に密着しすぎていて、時代に乗り切れていないなと思う。

 部室の半分は機材の収納スペースに充てられていて、縦幅も横幅も大きなロッカーの横には入りきれなかった譜面台やギターが無造作に転がっていた。

 猿島さんは壁に手を当てた。


「隣サークルからの、音の苦情などはありませんか?」

「私たちは音に気を付けて練習していますから、苦情はきていません」


 会長が胸を張って答えた。


「それは何よりです。山本くん、写真を撮ってくれるかい」


 猿島さんに促されて、僕はスマホで写真を撮った。撮られたくないものは、部長さんたちが止めるだろう。部室全体を引きで撮ってから、僕たちがいるスペースを撮って、収納スペースを撮った。ラジカセや機材も個別に映しておく。


「特に撮られて困るものはないですよ」


 その場で会長の承諾を得て、この写真を審査の資料として使うことになった。


「山本くんは写真を撮るのが上手いね」


 猿島さんがおだててくれたが、難しいことはなかった。


「最後にお聞きしますが、現状の非公認サークルを望みますか? それとも公認サークルへの昇格を申請されますか?」


 サークルの長たちは顔を見合わせて、すぐに答えた。


「現状維持を望みます」

「分かりました。ありがとうございました」


 猿島さんが笑顔で一礼し、僕もそれに倣う。

 僕の初めてのサークル視察は、和やかなムードのなかで終わった。

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