再会

 本日の授業はすべて終わり、僕はその足でサークル棟へ向かった。

 サークル棟の休憩スペースで、高校の同級生と待ち合わせをしている。

 彼女は別のキャンパスから移動して、もうサークル棟に着いているそうだ。たまたま行きたいサークルが同じで、一緒に行くことになった。

『僕ももう着く』と、メッセージを送った。

 外観は横長のマンションを思い浮かべてもらうと、分かりやすい。サークル棟というよりはサークルマンションだ。

 瓦をいっぱいに抱えた柔道着の学生や、白衣を絵具で汚した学生が行き来をしている。いつ来ても、誰かしら何かに取り組んでいる人が同じ空間にいる。

 サークル棟の掲示板には、入部を促すカラフルなビラが貼られている。あのサークル荒らしのビラも、カラフルなビラにまぎれて貼られていた。

 待ち合わせ場所にした休憩スペースには、自動販売機と机と椅子がある。

 ちょっとした憩いの場という風情だ。


「雰囲気が変わっていて、誰かと思った」


 僕の同級生を探していると、女の子が声をかけてきた。

 陶磁器のように肌は白く、黒を基調としたゴスロリを着こなしている。さらさらした黒髪は複雑にひねりを加えて、肩の上で巻かれている。


「音無さん?」


 女の子は無表情で首を傾げた。


「……ああ、この格好で会うのは初めてか」


 僕が知る高校時代の音無七緒は、眼鏡をかけた優等生だった。ドールメイク、とでもいうのだろうか。自分の顔を人形に『寄せる』化粧をしている。そもそも高校時代の音無さんが化粧をしているのは見たことがなかった。

 まるでアンティークショップに置かれた等身大の人形のようだ。


「大学生になったら、自分がやりたい格好をすることにしたんだ。今はご覧の通り、自由にさせてもらっている」

「そうだったんだ」


 音無さんの裸眼が珍しく、しげしげと見てしまう。もともと整っている顔立ちだとは思っていたが、瞳を隠している眼鏡がないと、改めて自然と視線が吸い寄せられるな。


「ちょっと、そんなに見ないで」

「ごめんごめん」


 僕が謝ると、音無さんは唇の端をわずかに持ち上げた。


「……口だけで謝るところも変わらない」


 笑顔が分かりづらいところも、音無さんは変わっていないな。

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